SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

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初恋トルネード

2.熱い体

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「兄ちゃんってすげーな。こんな男前なのに、あんなイケメンが彼氏だなんて」

「その口に梅干し詰め込むぞ」

「え~~やだよ~~」

 一足早い夏を先取りしている大塚家では、もう素麺を食べている。五月上旬から素麺を食べ始め、十月上旬頃まで食べ続ける。簡単、お手軽昼食だった。

 ズルズル素麺を食べながら、向かいの蓮司が箸で指し示してくる。

「俺、偏見ねぇし。良いんじゃない? あの人格好良いし。お似合いだよ」

「だから、違うっつってんだろうが」

「何で? すっげー会いたくて来ちゃったんでしょ? 熱出したまま兄ちゃんのことしか頭に無かったって感じだし」

「……ちげーよ。妹が東京の大学受けるからって、下見もかねてだな……」

「そんなの言い訳に決まってんじゃん。そう言えば兄ちゃんが安心するって考えたんじゃね?」

 ズゾッと素麺をすすり終えた蓮司は、ニヤニヤと楽しそうに笑っている。二階ではまだ、目を覚まさない純が眠っている。

「俺、昼から外出るからね。へへ~やっちゃいなよ!」

「……高校生がんな口きくな!」

「分かってるよ。責任もてる歳になるまで待て、でしょ?」

「そうだ」

「親父もそれだけは譲らないんだよな~。……エッチしたら感想教えてね!」

「蓮司!!」

「じゃあね~!」

 俺が怒鳴るタイミングをきっちり把握している蓮司が二階へ逃げていった。素喜や好一達とは違い、今時の高校生を貫く蓮司に、時々振り回されそうになる。

 髪は茶髪だし、軽い言葉を使うし。俺が注意しても、親方が髪くらいはと、見逃した。髪を染めたからといって、蓮司が蓮司でなくなる訳ではないから、と。

 俺は居候だし、大塚家の事は大塚家が決めるべきだと思っている。

 ただ、人の道から曲がった事をしていれば、殴ってでも止めてくれと頼まれていた。蓮司もその辺は分かっている。人に恥じるような生き方はしていない。エッチなことに興味は持っていても、無責任なことはしないと約束している。

 食べ終えた食器を台所へ運び、さっさと洗ってしまおうとエプロンを身に着けていた時だった。二階に上がったはずの蓮司が駆け下りてくる。

「兄ちゃん、兄ちゃん! あの人、廊下に居るよ!」

「……あ? 目、覚ましたのか。飯食うか聞いてくれ」

「それがさ、廊下でぼんやりしてんだ! 俺が声掛けてもぼうっとしてて」

「……しゃーねぇな」

 エプロンの紐を結びながら階段に向かった。二階に上がっていくと、次第に見えてくる純の姿。

「……お前、何してんだ」

 足が止まってしまう。

 本当に、何をしているのか。

 二階の廊下で正座をしていた純が、俺の声に振り返る。熱のせいか、目元がずいぶん赤かった。

「……あ~、大介。いつこっちに戻ってきたんだ?」

「戻ってきたんじゃねぇよ。お前がこっちに来たんだろうが」

「……え?」

「ここは俺の住み込み先だ」

「…………え?」

 ぼんやりとしているからか、なかなか話が飲み込めないらしい。止まってしまった足を動かし、彼の側に跪いた。額に手を当ててみる。

「……やばいな。熱が下がってねぇ」

「病院連れて行った方が良いんじゃね?」

「そうだな。保険証持ってりゃ良いけど」

「ちょっとしっつれい~」

 蓮司が俺の部屋に入っていく。畳んでいた純のジャケットを探り、勝手に財布を取り出した。敢えてここはスルーしてやろう。カードを探していた蓮司は、保険証を見つけだした。

「あったよ!」

「よし。俺、こいつ連れて行ってくるから」

「分かった。じゃ、俺が洗っておくよ」

「……いや、良い。気持ちだけ受け取っておく。タクシー呼んでくれ」

「え~。せっかくお手伝いしようっていう青少年の心をもうちょっと大事にしてくれよ~」

「一枚も割らねぇようになったら手伝ってもらうさ」

 皿を割るだけならまだ良い。自分の指も切ってしまう蓮司は、結局俺に泣きついてくる。今は純だけで精一杯だ。彼の面倒まで見られない。

 ブツブツ言いながら一階へ降りていく蓮司を見送って、純を俺の部屋に運び入れた。小さめのズボンを見つけだし、履かせてやる。ぼんやりと俺を見ていた彼は、熱に浮かされた赤い顔で笑っている。

「だいすけだ~」

「……お前ね」

「……へへ……好きだ」

 抱え上げようとした俺に頭をもたげてきた純は、そのまま眠ってしまった。その顔を近い位置から見つめ、頭を振って気合いを入れる。

 横抱きに抱え上げた俺は、一階まで彼を運んだ。ヒューヒューという、蓮司の冷やかしの口笛は軽く無視しておいた。
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