SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

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初恋トルネード

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 自分の部屋に飛び込み、息切れを起こして目眩がした。

 どうして、純が東京に居るのだろう?

 襖に背を預けていた俺は、それがスッと横にスライドされて飛びすさってしまう。

 壁に逃げた俺の目の前に、純が立っていた。

「な~んで逃げるかな? せっかく会いに来たのに」

「……な、何しにきやがった!?」

「酷いな~。愛しい大介に会いに来たんじゃない」

 両手を広げ、次いでギュッと抱き締める仕草をしている。

 ジリジリと壁を伝って逃げた俺は、部屋の隅で止まった。純が、更に入ってくる。スッと襖を閉めた彼は、部屋の中央に胡座をかいて座った。

「という冗談は置いておいて。妹がさ、東京の大学受けるって言うから、様子見に来たんだ。で、大介は東京だし、妹のこと、頼めないかと思ってお兄ちゃんが来た訳です」

「……妹?」

「超プリティーな妹。会ったことあるでしょ?」

 トントン、と自分の前を叩いて見せた純に、しぶしぶ座った。二人分ほどの距離を取って。

 純の妹の顔を思い出す。俺が一ヶ月ほど前に家に帰った時、駅で会った女の子だろう。清潔そうな女の子だったのを覚えている。

「今年受験なのか?」

「そう。まだ東京に行くかは分かんないんだけどね。知ってる奴が居るのと居ないのとでは、お兄ちゃんとしての心配も違うから」

「ま、確かにな」

 俺も美雪が知らない土地に行くことになれば心配するだろう。純の兄としての気持ちは良く分かった。

「東京に決まったら、連絡しろ。気に掛けてやるよ」

「そう言ってくれると思った。さすが大介!」

 にこりと笑った純に、俺も笑って返した。兄弟を大事にしている奴は好きだった。

「……やっと笑ってくれた」

「……あ?」

「ほら、俺ってば修治と素喜君、応援してた方じゃない? お前にしてみれば、嫌な奴なのかな~とちょっと心配した」

 照れたように笑った純が頭を掻いている。胡座をかいたまま、ずいっと近寄ってきた。俺の膝と、純の膝がぶつかった。

「ん、んなことねぇよ」

「でもいきなり逃げられたら超ショックだよ」

「わ、悪かった。なんかビックリしたんだよ」

「……そっか。腕、もう治ったんだ」

 長い指が、俺の右腕を持ち上げている。一ヶ月前に刺された場所を撫でるように手が滑っていった。

 それだけで緊張した。顔が強張ってしまう。気付かない純がゆっくりと俺の腕を撫でていく。

「凄い回復力だよね」

「そ、そうか?」

「凄いな~、大介は」

 どうしてか、スルスルと腕を這い上がってくる手。肩まで這い上がり、俺の頬を包み込んできた。

「……お、おい……?」

 もう片方の手も添えられる。両頬を包まれた俺は、動けなかった。

 スッと、純が膝立ちになっている。俺の頬を手で包んだまま、にこりと笑った。

「やっぱり大好きだ」

 眩しい笑顔に、呼吸が止まる。

「好きだよ……大介」

 スルスルと頬を撫でられ、近付いてくる顔に我に返る。

「………は……はぁ!? おまっ……何言って……!?」

「……なぁ……キスしよう? ぶっちゅ~しよう……?」

 濡れた赤い唇が、迫ってくる。

 瞼を閉じながら、迫ってくる。

「……お、おい……待て……! 待て待て待て!!」

 顔を寄せてきた純の肩を掴みながら、あることに気が付いた。服の上からなのに、彼の体が熱い。咄嗟に彼の額に手を当てる。

「……おい、お前! すげー熱じゃねぇか!!」

 猛烈に熱い。明らかに高熱だ。

 こちらから抱き寄せ、動きを封じた。腰を抱き、抱え上げると押し倒す。そのまま離れようとした瞬間、ガッシリと首にしがみ付かれた。

「……大介……大胆……!」

「お、大人しくしてろ! な? な!! お前おかしいって!!」

「……うん。俺はいつでも良いよ……好きにしてくれよ……」

「…………!!」

 夢とかぶる状況に、ぶわっと変な汗が出てくる。ますますしがみ付かれ、どうしたものかと汗が流れ落ちていく。

「……ぁ……はぁ……」

「…………!?」

 耳に掛かる声にビクついた。振り払おうとしたら、ギュッとしがみ付かれてしまう。

「……は……はぁ……何だろ……熱いや……」

 だらりと、純の腕が落ちていった。彼もまた、全身から汗を噴き出している。そっと離れて見下ろせば、流れ落ちるほどの汗を噴き出している。

「……おい! おいったら!」

 揺さぶっても、目元が潤んだままとろんとしている。明らかに焦点がおかしい。

「しっかりしろ!」

「……だいすけ~……くるしい……」

「くそっ! 今薬持ってきてやるから! 動くなよ!」

 押入から俺の布団を引っぱり出し、純を寝かせると襖を開けた。

 そこに、仕事に行っているはずの親方と、隣で二度寝していたはずの蓮司が居て。耳をそばだてた姿勢のまま立っていた。
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