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ライバルは最強兄ちゃん
9-2
しおりを挟む「お前達、デートしてこいよ。せっかく恋人の聖地に来てるんだし」
「でも……山本家の水入らずに入るわけには……」
「大介は俺が止めておいてやるから。行きな」
僕と素喜君の手を握らせた純は、突き飛ばすように背中を押してくる。よろめくように歩き出した僕達は、顔を見合わせるとなんだか恥ずかしかった。
遊園地でデートしたことはない。それも家族が居る中を抜け出してなんて。
ドキドキしてしまう。素喜君もそうなのだろう、鋭い目元が潤んでいる。
正直に言おう。
超可愛いんですけど!!
ギュッと握った手が握り返される。二人の世界に浸った僕達の背中に、怒声が聞こえたのはその数秒後だった。
「……お前等!! どこ行くつもりだ!?」
美春を降ろした大介が追い掛けてこようとしている。その足に、好一と美春が笑いながら飛びついた。
「兄ちゃん、頑張れ~!」
「がんばれ~~」
楽しそうに笑っている下二人を蹴り飛ばすこともできず、大介の動きが封じられている。側に駆け寄った純が、腕を絡め取ると更に拘束力が増した。
お母さんと美雪に手を振られた僕達は、大介に一度頭を下げると肩を寄せ合って歩いた。
「後で怒られるかな」
「悪いことする訳じゃねぇし。それに……」
言葉を飲み込んだ素喜君が少し腕に近付いた。
「なんか……ずっと離れてたみたいで……」
「……うん。僕もだよ」
握った手を強くした。ゆっくりしたいと観覧車の方へ歩いていく。高さだけなら大丈夫だった。
列に並び、回ってきた順番に従って乗り込んだ。最初、向かい合わせに座っていた僕達は、隣に素喜君が移動してきたことで一つになる。片方に傾いた観覧車は、風にグラグラ揺れている。
「お兄さんに認めてもらえて良かった」
「……うん」
「約束は守るよ。二十歳になるまで、エッチはしない」
「……やっぱり頑固だ。言わなきゃ分かんないのに」
目元を緩めて笑っている素喜君の肩を抱いた。細そうに見えて、しっかりした骨格をしている。大介に鍛えられた彼の体は、全身バネのようだ。
「僕のけじめのためでもあるんだ。素喜君が大好きだから、約束は必ず守る」
「……うん。俺も、我慢する」
「素喜君の二十歳の誕生日が、僕達の初エッチ記念日だね」
「…………!!」
にこりと笑って言えば、真っ赤になってしまった。襟に隠れるように首を竦めていく。追い掛けるように顔を寄せた。
「今は……これで我慢だね」
「……しゅ、修治さん……!」
「大好きだよ……素喜君……」
眼鏡を外し、赤い唇に自分の唇を重ねようとしたら、携帯が鳴った。
せっかく甘いムード満点だったのに。素喜君が一気に現実に戻ったように、おろおろしながら僕の携帯を探している。
「で、電話!」
「……残念」
観覧車はまだまだ続く。焦ることはない。
そう思いながら携帯の通話を押した僕は、怒鳴り声に思わず耳を遠ざけた。
【エッチはまだ駄目だっつっただろうが!!】
【大介、エッチじゃないよ。キスだよ、キッス!】
【うっせー!! 人前ですんなボケ!!】
怒鳴る声を聞きながら、観覧車の窓から見下ろした。純の携帯を手にした大介と、その隣で笑っている純が居る。好一と美春が一生懸命手を振っているので、僕達も振り返した。
【見えてんだよ!!】
【お前が見つけちゃうからだろう】
純のツッコミにいちいち怒鳴っている。涼しい顔で受けている純は、大介の手から携帯を取り返した。
【悪いね。甘い雰囲気壊しちゃって】
「見られてるなんてね」
【もう少し上に昇ってから、あま~いキスしてやりな!】
【聞き捨てならねぇぞ!!】
【お兄ちゃん、血管切れちゃうよ!】
純を羽交い締めにしようとした大介に、美雪がしがみ付いている。
【じゃあねぇ~!】
【おい、待て……】
ブッと切れた携帯。少しずつ遠ざかる下を見れば、純と美雪で暴れる大介を引っ張っている。下の二人も一緒になって追い掛けていた。
「……うん、やっぱりお兄ちゃんだね」
「立川さんが居てくれて良かった」
「うん。純には後で何か奢らないと!」
大介の暴走を上手くはぐらかしていく彼の存在は、僕達には大きかった。もうすぐ頂点に達する観覧車の中で、隣同士で座った僕達は、どちらからともなく甘いキスをした。
きっと僕も、素喜君を大切にしてみせる。大介が心配しなくて良いように。安心して任せたと、いつか言ってもらえるように。
大好きな人を守ろう。
「素喜君……」
「何?」
「だ~い好き!」
ギュッと抱き締めた。腕に収まった素喜君は、真っ赤になりながらも笑ってくれた。
「俺も。修治さんが好きだ……」
「うん。ずっと一緒に居ようね」
「……うん」
微笑む可愛い恋人を腕に抱いた僕は、ゆっくりと流れていく幸せな時間を噛み締めた。
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