SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

文字の大きさ
上 下
47 / 123
ライバルは最強兄ちゃん

8-4

しおりを挟む


***


 病院の一室に、山本家が集まっている。美雪が持ってきたリンゴを母さんが剥いている。

 素喜は居なかった。修治も。

 何となくホッとした。今、空の山本家には鈴子が留守番をしているらしい。何故だ。

 重苦しい空気に溜息が出る。ベッドに座っていた俺と、椅子に座ってリンゴを剥いている母さんと。

 少し離れた椅子に座った美雪の膝に、眠たそうな美春が座っている。好一は母さんの隣に立っていた。

「……あ~……っと……心配かけて悪かった」

 頭を掻いて謝る俺に、じろりと母さんが睨んでくる。やれやれだ。

「好一、美春。ベッドで寝な。兄ちゃんはちょっと外へ……」

「いけません」

 ピシャリと止められた俺は、頭を掻くことしかできなかった。好一が俺を見たので、手招きしてやる。

「寝てな。子供は寝る時間だ。美春もな」

 ベッドの足下へ尻をずらしてやった。トタトタ歩いてきた弟の頭を撫で回してやる。美雪が美春を抱っこして連れてきたので受け取った。

 先に入った好一の隣に寝かせてやる。二人の頭を交互に撫でてやった。

「兄ちゃん、お休みなさい」

「おう、お休み」

「……お休みなさい~」

 すでに半分寝かかっていた美春は、すぐに寝息を立てている。その顔を見ていた好一も、瞼を閉じると寝てしまった。掛け布団をしっかり被せてやった俺の前に、剥かれたリンゴが差し出された。

「病人じゃねぇんだけどな」

「良いから。お腹空いたでしょう?」

 確かに、腹は減っていた。一つ摘んで食べる。甘いリンゴを頬張る俺を、母さんと美雪が見守った。

「大介。ちゃんと話せるわね?」

 一つ目を食べ終えた頃、母さんが切り出した。何のことを言っているのかすぐに分かったけれど、返事はできなかった。

 自信はない。だが、腕を怪我している今なら、殴り合いにはならないだろう。

 黙っていたからか、了解したと思ったのだろう。母さんがドアの外に声を掛けている。

「素喜、入って来なさい。修治さんもね」

 ドアのガラスに影が差す。静かに開いたドアから、素喜と、修治が、入ってきた。一緒に居たのか純も入ってくると、ドアの前に立っている。俺を逃がさないためだろう。

 思わず握り拳を作ってしまう。寝ている弟達を起こさないよう、ぐっと堪えた。

「兄ちゃん……大丈夫?」

 遠慮がちな素喜の声に舌打ちした。

「こんなの……何でもねぇよ!」

「そっか……兄ちゃんは、強いから」

 俯く姿に苛立った。こんな弟ではなかったのに。

 隣に立つ修治が、素喜をこんな男にしてしまった。

 こいつさえ諦めてくれたら、素喜はまだやり直せる。立ち上がった俺は、二人の方へ歩いた。

 母さんが何と言おうと。

 やっぱり認める訳にはいかない。



 例え家族から嫌われたとしても、俺は……!



 握り締めた左手を突き出そうとした俺は、飛んできた物を咄嗟に掴んでいた。投げられたのは、冷たいコーラだった。

「修治は違うよ。お前だってもう、分かってるだろう?」

「……しゃしゃり出てくんなよ」

「しゃしゃり出ますよ。修治は俺の親友だから」

 腕を組んでいる純と睨み合った。握っていた缶を床に落とし、もう一度握り拳を作ろうとした俺は、騒がしい廊下に野生の勘が働いて。

 咄嗟に美雪の手を取り、ドアから離した。母さんの前に一歩、進み出た時。

 ドアが勢い良く開いた。目の前に立っていた純が振り向こうとしている。

「離れろ!! 純!!」

 手を伸ばしたけれど間に合わない。ドアの向こうに立っていたのは、捕まえたはずの誘拐犯だった。何処から奪ったのか、注射器を持っている。

「ああああぁぁ――!!」

 奇声を上げた誘拐犯は、手にした注射器を純の首に突き立てようとした。

 その腕が捻るように捕まえられている。誘拐犯よりも小柄だった素喜が、床に引き倒した。背中を踏み付け、喚く誘拐犯の腕をギリギリと後ろへ引き上げていく。手にしていた注射器が、音を立てて転がった。

 刺されそうだった純は、修治によって引っ張り寄せられている。包帯だらけの誘拐犯が喚く姿に目を丸くしていた。

「お前が……お前が悪いんだ!!」

 暴れる誘拐犯を素喜は静かに抑え込んでいる。確実に関節を締めているため、そうそうなことでは起き上がれないだろう。

 骨を折るべきだった。女の子が居たので、あまり過激なシーンは見せられないと、手加減したのが間違いだった。

 床に這いつくばる誘拐犯を見下ろし、素喜に合図した。頷き、手を離した彼は、起き上がった誘拐犯の腹部に強烈な一発を入れて気絶させた。

「……上出来だ」

「兄ちゃんに教わったからね」

 素喜に教えたのは、相手をダウンさせるまでだ。身を守り、家族を守れればそれで良い。

 その先のことは、俺が背負う。伸びた誘拐犯の襟を掴むと、そのまま引きずって歩いた。もう少し焼き入れをしておかないと、後々逆恨みで家族に手を出されてはいけない。

 そんな気が起こらないほど、今度こそ刑務所から出たくないと思うほど、叩きのめしてやる。

「……これ以上は逆に訴えられますよ。警察に任せましょう」

 俺の殺気を感じ取ったのか、修治が腕を掴んできた。

「俺の兄弟に手、出そうとした奴だ。もうちょいぼこってくる。俺の言葉、まだ身に染みてなかったみてぇだからな」

「駄目です」

 修治に手を引かれ、振り解こうとしても強く引かれてしまった。誘拐犯から手を離されてしまう。温和そうな顔をしているくせに、腕の力はあった。

 廊下に出た修治が、外で探し回っていた警察を呼んだ。伸びている誘拐犯を拘束し、連れて出ていく。トイレに行かせている隙に逃げられたらしい。

 ま抜けめ、と怒鳴ろうとした俺を母さんが目で抑えた。

 怒鳴り損ね、頭を掻いていた俺は、目の前に立った修治に頭を下げられていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

処理中です...