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ライバルは最強兄ちゃん
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病院の一室に、山本家が集まっている。美雪が持ってきたリンゴを母さんが剥いている。
素喜は居なかった。修治も。
何となくホッとした。今、空の山本家には鈴子が留守番をしているらしい。何故だ。
重苦しい空気に溜息が出る。ベッドに座っていた俺と、椅子に座ってリンゴを剥いている母さんと。
少し離れた椅子に座った美雪の膝に、眠たそうな美春が座っている。好一は母さんの隣に立っていた。
「……あ~……っと……心配かけて悪かった」
頭を掻いて謝る俺に、じろりと母さんが睨んでくる。やれやれだ。
「好一、美春。ベッドで寝な。兄ちゃんはちょっと外へ……」
「いけません」
ピシャリと止められた俺は、頭を掻くことしかできなかった。好一が俺を見たので、手招きしてやる。
「寝てな。子供は寝る時間だ。美春もな」
ベッドの足下へ尻をずらしてやった。トタトタ歩いてきた弟の頭を撫で回してやる。美雪が美春を抱っこして連れてきたので受け取った。
先に入った好一の隣に寝かせてやる。二人の頭を交互に撫でてやった。
「兄ちゃん、お休みなさい」
「おう、お休み」
「……お休みなさい~」
すでに半分寝かかっていた美春は、すぐに寝息を立てている。その顔を見ていた好一も、瞼を閉じると寝てしまった。掛け布団をしっかり被せてやった俺の前に、剥かれたリンゴが差し出された。
「病人じゃねぇんだけどな」
「良いから。お腹空いたでしょう?」
確かに、腹は減っていた。一つ摘んで食べる。甘いリンゴを頬張る俺を、母さんと美雪が見守った。
「大介。ちゃんと話せるわね?」
一つ目を食べ終えた頃、母さんが切り出した。何のことを言っているのかすぐに分かったけれど、返事はできなかった。
自信はない。だが、腕を怪我している今なら、殴り合いにはならないだろう。
黙っていたからか、了解したと思ったのだろう。母さんがドアの外に声を掛けている。
「素喜、入って来なさい。修治さんもね」
ドアのガラスに影が差す。静かに開いたドアから、素喜と、修治が、入ってきた。一緒に居たのか純も入ってくると、ドアの前に立っている。俺を逃がさないためだろう。
思わず握り拳を作ってしまう。寝ている弟達を起こさないよう、ぐっと堪えた。
「兄ちゃん……大丈夫?」
遠慮がちな素喜の声に舌打ちした。
「こんなの……何でもねぇよ!」
「そっか……兄ちゃんは、強いから」
俯く姿に苛立った。こんな弟ではなかったのに。
隣に立つ修治が、素喜をこんな男にしてしまった。
こいつさえ諦めてくれたら、素喜はまだやり直せる。立ち上がった俺は、二人の方へ歩いた。
母さんが何と言おうと。
やっぱり認める訳にはいかない。
例え家族から嫌われたとしても、俺は……!
握り締めた左手を突き出そうとした俺は、飛んできた物を咄嗟に掴んでいた。投げられたのは、冷たいコーラだった。
「修治は違うよ。お前だってもう、分かってるだろう?」
「……しゃしゃり出てくんなよ」
「しゃしゃり出ますよ。修治は俺の親友だから」
腕を組んでいる純と睨み合った。握っていた缶を床に落とし、もう一度握り拳を作ろうとした俺は、騒がしい廊下に野生の勘が働いて。
咄嗟に美雪の手を取り、ドアから離した。母さんの前に一歩、進み出た時。
ドアが勢い良く開いた。目の前に立っていた純が振り向こうとしている。
「離れろ!! 純!!」
手を伸ばしたけれど間に合わない。ドアの向こうに立っていたのは、捕まえたはずの誘拐犯だった。何処から奪ったのか、注射器を持っている。
「ああああぁぁ――!!」
奇声を上げた誘拐犯は、手にした注射器を純の首に突き立てようとした。
その腕が捻るように捕まえられている。誘拐犯よりも小柄だった素喜が、床に引き倒した。背中を踏み付け、喚く誘拐犯の腕をギリギリと後ろへ引き上げていく。手にしていた注射器が、音を立てて転がった。
刺されそうだった純は、修治によって引っ張り寄せられている。包帯だらけの誘拐犯が喚く姿に目を丸くしていた。
「お前が……お前が悪いんだ!!」
暴れる誘拐犯を素喜は静かに抑え込んでいる。確実に関節を締めているため、そうそうなことでは起き上がれないだろう。
骨を折るべきだった。女の子が居たので、あまり過激なシーンは見せられないと、手加減したのが間違いだった。
床に這いつくばる誘拐犯を見下ろし、素喜に合図した。頷き、手を離した彼は、起き上がった誘拐犯の腹部に強烈な一発を入れて気絶させた。
「……上出来だ」
「兄ちゃんに教わったからね」
素喜に教えたのは、相手をダウンさせるまでだ。身を守り、家族を守れればそれで良い。
その先のことは、俺が背負う。伸びた誘拐犯の襟を掴むと、そのまま引きずって歩いた。もう少し焼き入れをしておかないと、後々逆恨みで家族に手を出されてはいけない。
そんな気が起こらないほど、今度こそ刑務所から出たくないと思うほど、叩きのめしてやる。
「……これ以上は逆に訴えられますよ。警察に任せましょう」
俺の殺気を感じ取ったのか、修治が腕を掴んできた。
「俺の兄弟に手、出そうとした奴だ。もうちょいぼこってくる。俺の言葉、まだ身に染みてなかったみてぇだからな」
「駄目です」
修治に手を引かれ、振り解こうとしても強く引かれてしまった。誘拐犯から手を離されてしまう。温和そうな顔をしているくせに、腕の力はあった。
廊下に出た修治が、外で探し回っていた警察を呼んだ。伸びている誘拐犯を拘束し、連れて出ていく。トイレに行かせている隙に逃げられたらしい。
ま抜けめ、と怒鳴ろうとした俺を母さんが目で抑えた。
怒鳴り損ね、頭を掻いていた俺は、目の前に立った修治に頭を下げられていた。
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