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ライバルは最強兄ちゃん
6-3
しおりを挟む「……素喜君!!」
叫んだ僕の声に顔を上げている。
人が行き交う喫茶店の前で、膝を抱えて蹲っていた素喜君。通りかかった人が気にしながらも過ぎていく中、鋭い彼の目元は濡れていて。
走り込んだ僕は、彼が何か言う前に抱き締めた。膝をついたまま、抱き締め続ける。
震えている体が、僕にしがみつく。
僕達が初めて出会った喫茶店で、彼は僕を待っていた。
そう、思うと。
友達でも良いなんて、二度と言えない。
大介がどんなに反対しても、僕は素喜君を離せない。
「素喜君……!」
「や……だ……!」
着ていたシャツが千切れそうなほど引っ張られる。ギュッと抱き付かれ、胸が痛くて張り裂けそうだ。
「いや……だぁ……! ともだち……じゃ……いやだ……!」
「素喜君……」
「頭……撫でて……もらえない……! キス……できない!」
嗚咽で震えた彼の肩が大きく跳ねる。
「すき……好きだ……!」
「僕も大好き」
泣き崩れた彼の額におでこを当てた。涙で濡れた顔を間近から見つめる。
「大好きだよ。ごめんね。迷っちゃって」
「……しゅうじ……さん……」
「君を家族から離したくなかった。友達でも何でも、お兄さんが許してくれる関係でも良いから、君の側に居たかった」
涙を拭うように親指で頬を撫でてやる。拭っても拭っても、素喜君の涙は止まらなかった。
喫茶店の窓際に座っていた女の子達が僕達の様子を伺っている。
通り過ぎた人が足を止めて振り返っている。
そんな中、僕は素喜君の濡れた唇にキスをした。ざわめく人々の声を聞きながら、素喜君を胸に抱いた。
「何年掛かっても、お兄さんを説得しよう」
「……ふぇ……」
「大好き、素喜君。もう一度、僕の恋人になってくれますか?」
「……ひっく……ふぇ……うぅぅ~~」
ギュウッと僕にしがみついた素喜君は何度も頷いた。
柔らかい黒髪を撫でながら、精一杯抱き締めた。
***
ずっと泣き続けた素喜君が落ち着いた後、あまり喫茶店の前で騒ぐと迷惑が掛かるため場所を移動した。誰が見ていようと関係ない。僕達は手を繋いで歩いた。
鋭い目元が赤味を帯びた素喜君。僕の手を握り締める彼の力は強い。
「家に電話するね」
そう言えば、フルフルと顔を横へ振っている。
「兄ちゃんが……来る……」
「それでも電話しないと。お母さんも、妹さん達も、心配してるからね」
「でも……!」
「大丈夫」
ポンッと素喜君の頭に手を乗せた。
「もう、迷わないよ」
「……修治さん」
「認めてもらえるまで、何度だってお兄さんに話すから!」
くしゃっと黒髪を撫でながら、携帯電話を取り出した。山本家に掛ければ、三コール目で繋がった。
電話に出たのはお母さんだった。素喜君を見つけたことを教えると、ホッとしたように笑っている。
【ありがとうね。今日は修治さんの家に泊めてあげて】
「はい。あの、大介さんは……」
【大介もね、頭冷やしてくるって言って出ていったきりなの。修治さん、大介はちょっと乱暴で強引なところもあるけど、優しい子なのよ。母親の私が言うのもなんだけど……】
「それは分かっているつもりです。お互いに落ち着いたら、もう一度話し合いたいと思います。そう、伝えて下さい」
【ええ。素喜を宜しくお願いしますね】
「はい!」
聞き耳をたてていた素喜君に電話を代わってあげた。一言二言、お母さんと話すと切っている。僕に携帯を返しながら、少し笑っている。
「甘えてきなさいだって」
「……うん。いっぱい甘えて。泣かせちゃったからね」
「修治さんのせいじゃないよ。兄ちゃんが強引だから……追いつめちゃったのは兄ちゃんだし」
綺麗な眉を潜めた素喜君の顔を見つめながら、握っている手に力を込めた。
「素喜君。一つだけ、分かって欲しいことがあるんだ」
繋いだ手を引いて歩いた。時折、街灯に顔を照らされた素喜君が顔を上げている。
「何?」
「お兄さんはね、本当に君たちが大切なんだよ」
「……兄ちゃんの話は良いよ」
「駄目。ちゃんと聞いて」
握った手にもっと力を込める。キュッと唇を引き結んだ素喜君は、少し俯いた。そんな彼の横顔を見つめながら、街灯に薄れた夜空の星を見上げる。
「素喜君も経験したと思うけど、十代で就職って難しいよね。お兄さんはお父さんが亡くなって、すぐに働き始めたって言ったよね?」
「……うん」
「すっごい頑張ったと思うよ。美春ちゃんは小さかったし、保育園に預けるにもお金が要るしね。家を出て、もっと稼ぐために家族から離れて。それでも家族のために働いてる。お兄さんが僕達を反対してるのは、素喜君が心配だからだよ」
「俺が……好きな人なのに?」
すがるように見上げられ、細いけれど引き締まった肩を抱いた。
「世間じゃ、普通じゃないことは受け入れ難いから……。先々、就職する時のことや、結婚のことを考えて、心配してるんだと思う」
「修治さんはお人好しすぎるよ! ……だからって俺は……!」
「分かってる」
向こうから人が歩いてきているけれど、素喜君を抱き締めた。すぐに抱き返される。
「それでも僕達は、離れたくない」
「……うん」
「お兄さんに認めてもらえるよう、山本家の一員になれるよう、頑張るよ!」
「……うん!」
強く頷いた素喜君に顔を寄せる。すぐに瞼を閉じた彼の赤い唇にキスを落とした僕は、通りすがりの千鳥足のおじさんが冷やかしの口笛を吹いたので、にっこり笑って僕の恋人を抱き締めた。
大介が心配しなくて良いくらいに、強くなって素喜君を守ろう。
大好きな人を守ろう。
白い彼の頬を両手で包み込んだ僕は、もう一度、想いを込めてキスをした。
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