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ライバルは最強兄ちゃん
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結局、夜まで付き合わされることになった俺は、腹が減ったまま我が家へ帰ることになった。
約束通り車で送ってくれた純は、顎に特大の湿布を貼っている。良い男台無しじゃん、と自分で言っている。
「大介はずっと東京で?」
「まあな」
「偉いね~」
「んなことねぇよ。家族が大事なら、自然とそうするさ」
「おっとな~」
軽い感じがするのに、どこか芯があるような気もする。当然のように呼び捨てにした純に、まあ、良いかと足を組んで窓の外を見た。
ヘッドライトが照らす中、流れていく街並みを見つめる。俺が離れている間、時は確実に流れていたようだ。
知らない店、無くなった家。
離れていた時間を、妙に意識する。家族は今、どうしているだろう?
「お~い、もうすぐ着くよ?」
「……悪い。考え事してた」
「家族が俺のこと、ちゃんと待っててくれるかな~って?」
「……うっせー」
「大丈夫じゃない? 手土産も持ったし」
「……つかサンキューな。ケーキまで買ってもらっちまって」
「俺の可愛い妹のためですから」
俺の家族が住むアパートの前に車を寄せた純は、軽くウィンクしてくる。軽いノリに、いつもなら腹が立つだけなのに。
彼が、いざという時は男になることを知っているからか、苦笑で流せた。
トランクから出した大きな鞄を右手で担ぎ、大事なケーキは左手に持った。階段まで運んでやる、という彼の好意を丁寧に断る。そこまでしてもらう訳にはいかない。
「助かった」
「方向音痴、もう少し治した方が良いよ」
「余計なお世話だ」
カンカンと音を鳴らして階段を上っていく俺の背中に、純が呼び掛ける。
「あのさ!」
「まだ何かあんのか?」
「まあ、いや、あのね~。俺の友達に、修治っていうすっげー良い奴が居るわけ」
「だから何だよ」
「……まあ、それだけなんだけど。良い奴なんだよ、本当に。恋人のこと、すんごい大事にしてる」
「煮え切れねぇな。そいつと俺に何の関係があんだよ?」
「……じゃ、そういうことで。バイバイ!」
サッと手を振った純は、アクセルを踏むと行ってしまった。遠ざかるヘッドライトを見つめながら首を傾げる。
「……変な奴」
再びカンカン、と階段を上っていく。三階まで上った俺は、一つ息を吸い込んでインターフォンを鳴らした。薄暗い電灯の下で待つこと数秒。
「は~い」
元気な妹美雪の声がする。ドア越しに問い掛けられる。
「どちら様ですか?」
「俺だよ、美雪。兄ちゃん」
「…………え?」
「大介だよ」
「……えええ!!?」
叫びながら鍵が開けられる。ドアが勢い良く開き、少し黒髪を伸ばした、大人びた美雪が立っている。彼女もまた、俺を穴が空くほど見つめている。
「久しぶり。元気にしてたか?」
「……うっわ~~! 本当に大介お兄ちゃんだ! 好一! 美春! 大介お兄ちゃん帰ってきたよ!」
「…………え? 兄ちゃん?」
「あ~~兄ちゃんだ~~!!」
スポーツ刈り三男坊の好一と、おかっぱ次女の美春も駆け寄ってくる。腰にしがみ付かれ、思わず顔が綻んだ。母さんも驚きながらも出迎えてくれる。狭いアパートに体を押し込んだ俺は、先にケーキの箱を差し出した。
「これ、礼だっつってもらった」
「……またお兄ちゃん、誰か助けたの?」
「痴漢切り裂き魔が居てさ。ムカついたからしばいた」
「またあなたは……」
母さんの溜息に、頭を掻いてしまう。
「仕方ねぇだろう、母さん。見て見ぬ振りする奴が多くてさ。ま、一人頑張ってた奴が居てさ、手伝っただけだよ」
ケーキの箱を嬉しそうに運んでいく下の二人を見つめながら、大きな鞄を運んでいく。狭いアパートだ、俺が帰ってきたことでますます狭くなる。荷物はなるべく鞄で出し入れするつもりだ。
「言ってくれたら迎えに言ったのに。ちゃんと分かった?」
「その助けた男が送ってくれた。ノリが軽い奴だけと、結構、良い奴だったよ」
「ふ~ん。お兄ちゃんが男の人褒めるのって珍しいね」
美雪が包丁を持って来ると、好一がケーキの箱を開けた。飛び跳ねながら待っている美春の頭を撫で回しながら膝に乗せてやる。
「何か食べた?」
「それがまだ」
「残り物しかないけど」
「それで良いよ。つかこんな時間に帰る予定じゃなかったんだけどさ」
時計の針は九時を回っている。苺が乗ったホワイトクリームのケーキはクリスマス並に大きい。目を輝かせる下二人に、俺まで嬉しくなる。
変わらないで居てくれて良かった。母さんがケーキを切るのを見つめながら、ふと、一人足りないことに気が付いた。
「素喜は? 風呂?」
「……えっと、素喜お兄ちゃんは……」
「彼女のおうちだよ!」
美春が俺を見上げながら教えてくれた。
「彼女……へぇ、そうか。あいつももう、そんな年なんだな~」
くしゃくしゃ美春の髪を撫でてやる。嬉しそうに笑っている妹を胸に抱きながら、どうしてか顔を真っ青にした美雪と母さんを見つめた。
首を傾げながらも、美春に素喜の彼女について聞いた。あの素喜だ。感情表現の下手なあいつが、どんな彼女を持ったのか非常に興味がある。
「うんっとね~。優しい!」
「へ~、それで?」
「よしよししてくれるの!」
美春はその彼女が大好きなようだ。嬉しそうに話してくれる。
美雪と母さんが何かコソコソ話しているけれど、気にせず聞いた。ケーキを切る手を止めた母さんに、好一が急かしている。
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