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ライバルは最強兄ちゃん
2.兄ちゃんの帰郷
しおりを挟む抜けるような空というのは、今日の日の事を言うのだろう。
青空から、オレンジへと変わりつつあるというのに、吸い込まれそうなほど澄んだ色をしている。
「か~! 久しぶりだぜ! やっぱ田舎は良いな~!」
大きく腕を伸ばした俺は、短く切っている黒髪を掻き回した。
だいたい、男のくせに伸ばしている奴の気がしれない。男はズバッとビシッと、切っていれば良い。ひ弱な男ばかりで喧嘩のしがいもない現代。弟素喜と好一は、ビシッと鍛えてきたつもりだが。
一年以上も家に帰れなかったため、兄弟がどうなっているのか楽しみであり、少し不安だ。俺が居ない間にふぬけになっていなければ良いけれど。
ようやくもらえた五日間の有給。四月に入ればまた忙しくなって帰れなくなるだろう。今の内に家族水入らずで過ごしたい。
駅から歩きだした俺は、大きな鞄を肩にひっかけ、辺りを見回した。見慣れたはずの景色も少しずつ変わっている。
「……やべぇ……分かんねぇ……」
立ち止まり、頭を掻いてしまう。
目印にしていたファーストフード店が見当たらない。それを頼りに、道順を覚えていたのに。潰れてしまったのか、他の店に変わってしまったのか。どこにも見当たらない。
俺の唯一の弱点は、方向音痴であることだ。土木工事の現場に行くのにも散々迷っていたので、業を煮やした親方に相方を付けられてしまうほどに。地図など、どちらから見れば良いのかすら分からない。
迎えに来てもらうしかないか。
でも。
いきなり帰って驚かせたい。できるだけ自力で辿り着きたい。
そう結論付け、先ほどから俺をチラチラ見ている女子高生の集団に近付いた。地元の高校生なら道に詳しいだろうと思って。
「あのさ……」
「……キャー! 話し掛けられちゃった!」
「どうしよう!?」
「ちょ……マユミ話しなよ!」
「ミーちゃんこそ!」
「ちょ、マジカッコ良くない!?」
キャーキャー、ワーワー、訳の分からない言葉を並べ立てている。
ピクピクと俺のこめかみが動いた。
怒鳴りたいのをグッと堪える。
「……も、良い。邪魔したな」
「え~~!! あの~お茶しません?」
「そうそう! ね、あっちに美味しいケーキを出す喫茶店があるんですけど~」
「ねえ! 皆で行こうよ!」
「お兄さんも一緒に……」
「……あ?」
喉の奥から絞り出した、低い俺の声に、ピタリと女子高生の煩い声が止む。
止んだ事を確認して、さっさと歩き出した。背後から感じわる~い、と聞こえるように言っているけれど、感じが悪いのはどっちだ、と足を踏み鳴らす。
もし、妹の美雪まであんな風になっていたらと思うと、いてもたってもいられない。もったいないけれどタクシーを使うか。
いや、バス停さえ分かれば節約できる。タクシーを使うくらいならケーキでも買って帰りたい。
ウロウロ、ウロウロ、駅周辺を見て回る。だが、どうしても見慣れた景色が出てこない。一つで良い、目印になる物があれば分かるのに。どうしてこんなに分からないのだろう?
「……くそっ。腹立ってきた!」
イライラと頭を掻いていた俺は、背後から掛けられた声に、思わず睨みながら振り返ってしまった。
「……おっと、凄い顔ですね」
「……悪い。ちょいイライラしてる。用がねぇなら話し掛けんな」
「用があるから声掛けたんですけどね」
両手を上げて見せたのは、俺とそう、年が変わらない男だった。少し長く伸ばした黒髪が、俺には不愉快に映る。
「……んだよ、急いでんだよ」
「駅に居た女子高生、泣かせたのあなたですか?」
「泣かす?」
「ええ。俺の妹が居たんですけどね~。何か突然、お尻触られたらしくて。でかい男だったって言ったから」
穏和そうな顔をしていたのに、スッと目が鋭くなる。
「ご存じですか?」
「俺じゃねぇよ。道を訪ねようかと思ったが、煩せぇからすぐ離れたし」
「……嘘じゃないみたいですね。百九十くらいだって言ったから、お兄さんかと思ったんですが……」
男は思案顔で顎に手を当てている。
話は終わったとばかりに、俺が背を向けようとした時だった。
駅の方から悲鳴が聞こえる。
俺も、男も、ハッとしたように顔をそちらへ向けると同時に走っていた。
駅に向かう途中、大柄な男とすれ違った。俺とたっぱは同じだ。横幅はすれ違った男の方がある。何か格闘技をしていそうな体だ。
「……ちょい待ち!! お前だな!!」
長髪の男がすぐさま男を追い掛けていく。俺は駅の方を見て、先ほど話し掛けた女子高生の集団を見て眉を吊り上げた。
煩い女共も嫌いだが。
弱い女や年寄り、子供に手を出す奴は地獄へ堕ちろと思っている。
制服を刻まれた女子高生が泣いている姿を確認した俺は、大きな鞄を彼女たちに放り投げた。
「それ見てろ!! とっつかまえてやっから!!」
全速力で走った。先ほどの道を戻っていく。
見れば前方で、長髪の男が大柄な男の背中に食らいついていた。鬱陶しげに腕を振られながらも、逃がさないようしがみ付いている。
だが、体格差がありすぎた。長髪の男は顎を殴られ、歩道に投げ出されている。
大柄な男は用意していたスクーターに飛び乗り、長髪の男を嘲笑うとエンジンを掛けた。
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