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世界は二人のためにある
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目が覚めた時、腕の中に確かな温もりがあった。僕の方が高い体温のはずなのに、とても温かく感じる存在。
少し丸まって眠っていた素喜君は、僕があげたパンダのぬいぐるみを胸に抱いていて。僕と素喜君の間で、パンダは円らな瞳で見上げている。
自分のおでこに手を当てて確かめた。ずいぶん熱は下がっている。喉の痛みも引いていた。飲んだ薬が良く効いてくれて助かった。
そしてもう一つ。
この腕の中にある温もりが、僕を癒やしてくれたのだろう。
出会ってまだ一ヶ月も経っていないのに、僕はこの子にとても惹かれている。
柔らかい黒髪を撫でてみる。鋭い目元なのに、赤くなるとたまらなく可愛くなる。白い頬を紅潮させて、唇を噛み締められると、僕は抱き締めたくて仕方がなくなる。
熱に浮かされ、彼に余計な話をしてしまったけれど。
黙って聞いてくれた彼は、僕の側に居てくれた。
「……甘えちゃってごめんね」
囁いた僕の声に、ハッとしたように目を開けている。すぐに覚醒した彼は、鋭い目を開きながら僕を見上げた。
「おはよう、素喜君」
「…………!!」
すぐに真っ赤になってしまった。たぶん、僕が彼を真正面から抱き締めているせいだろう。分かっていても離せない。腰を引き寄せてしまう。咄嗟に突っぱねようと僕の胸に手を当てた彼は、そのまま動かなかった。まるで手を添えられているようでくすぐったい。
「昨日はごめんね。ペラペラ余計な事まで話したみたいで」
「……そ、そんな事……!」
「素喜君に聞いて欲しかったから」
「…………!」
本心だった。家族を大事にしている素喜君が少しだけ羨ましい反面、僕ができなかった親孝行を、彼にはちゃんとして欲しくて。
人はいつ亡くなるか分からないから。彼には僕と同じ様な後悔をして欲しく無かった。
形の良い頭を撫でた僕は、時計の針を確認した。まだ午前七時。バイトは十時からだから、もう一時間くらいはのんびりできる。
このままベッドでゴロゴロしていよう。彼の頭に顎を乗せた。
「……たい」
「ん?」
僕の胸に顔を埋めた彼は、ポツリと呟いている。
「もっと……聞きたい。修治さんの……こと」
胸に手を添えていた手が、僕のトレーナーを握り締めた。
「俺で……良ければ……もっと……」
だんだん、か細くなっていく声。間に挟まれたパンダがうにうに動いている。
「うん、聞いて欲しいな。素喜君に」
パンダをちょっと引き上げ、彼の顔に当てた。ふさふさした毛が鼻先を擽っている。
「僕も聞きたい。素喜君のこと。これからお互いに、何でも言い合おうね」
「……うん!」
顔を上げて笑った彼に、僕も笑った。
可愛い笑顔に、熱いキスを贈る。
来年のお正月も、素喜君と過ごしたい。
真っ赤になった彼に、心から笑った。
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