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空飛ぶクリスマス・コーヒー
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今年は楽しいイブを過ごさせてもらった。
クリスマスもお盆も、バイトの稼ぎ時だと思っていた僕は、たまには楽しいクリスマスを過ごすのも悪くないと思った。
素喜君との最後のバイトも終わり、閉店したお店から出た僕達は、夜道をのんびり歩いている。
街灯の明かりに照らされながら、僕は足を止めて素喜君を呼んだ。できれば公園とか、ゆっくりできる場所で渡したかったけれど。
「メリー・クリスマス、素喜君」
「……メリー……クリスマス」
ちょっと照れたように、ボソボソ応えてくれた彼に、サッと持っていた紙袋を差し出した。
「……何?」
「プレゼント」
「……え?」
「頑張った素喜君へのプレゼント」
早く早く、と紙袋から包装された箱を取り出して彼に渡した。戸惑いながらも包装を解き、中を見て鋭い目を見開いている。
「……これ……!」
「売り切れそうだったから、一つだけ避けてもらってたんだ」
三日前に完売したパンダの動くぬいぐるみ。店長に頼んで、一つだけ別に保管させてもらっていた。最後の一つが売れた時、とてもとても切なそうにしていた彼を思い出すと、胸がキュンッとなってしまうくらいに可愛くて。
あえて今日まで言わなかったのは、僕がプレゼントをあげると言えば、彼もなんとか返そうとするから。
そういうのは抜きにして、貰って欲しかった。彼が兄弟にプレゼントを渡したいと思ったように、僕も彼に渡したいと思っただけだから。
「可愛がってね」
「……うん…………あ、ありが……とう」
「どういたしまして」
ポフッと彼の頭に手を乗せる。パンダをしっかりと胸に抱いた素喜君は、目元を赤くしながら僕を見上げている。
「お礼……しないと……!」
「良いよ。僕があげたいって思っただけだから」
「でも……!」
「本当に良いんだよ」
くしゃっと髪を撫でてみた。目元に似合わず、柔らかい髪をしている。このまま抱き締めてしまいたくなる心を必死で押し隠し、お兄さんとして微笑んだ。
バイトは変わるだろうけど、これからも会えるだろうか。彼は携帯を持っていないから、他に連絡手段があれば良いけど。
何とかこれからも会える算段を考えていた僕に、彼がそれではいけないと、頑なに首を横へ振る。
「俺も……何か……したい」
「物は要らないからね。僕に買うくらいなら、皆にお菓子でも買ってあげてね」
「……だったら……他に……?」
詰め寄るように見上げられ、ああ、駄目だ。
このままでは僕の両手は脳の命令を待たずに彼を抱き締めてしまうかもしれない。すでに右手は言うことを聞かずに、彼の白い、けれど頬だけは赤いその場所を撫でてしまっている。
「じゃあ、お泊まりでもしてくれる?」
何を言い出すんだ、僕の口は。
脳が止めろと命令を下しているのに、僕の口は勝手に動き始めてしまう。
「今年も一人だし。話し相手になってくれたら嬉しいな~…………なんてね」
誤魔化すように頭を掻いた僕は、やっと右手と口の動きを制した。
ここは冗談で誤魔化し、お茶を濁そう。嘘だよ、嘘、と笑って乗り切ろう。
「……わかった。電話してくる」
僕が心の中で思案している間に、素喜君は電話ボックスを探して走り出していた。
電話してくる。
それはお泊まりの電話をすると言うこと?
「……え!? い、良いの!?」
いやいや、冷静に考えよう。
僕はただのバイトの先輩だ。
そして男だ。
素喜君も男だから。
彼のお母さんだって、何も心配しないだろう。
ちょっと遠い電話ボックスまで走った素喜君の姿を遠く見ながら、知らず高鳴っている心音をどうしようかと胸を抑えて考える。
冷静に。
ひたすら冷静に。
いつもの僕で居なければ。
彼が戻ってくるまで、深呼吸をし続けた僕は、外泊の許可を取った彼を笑顔で迎え入れた。
「母さんが宜しくお願いします、って」
「こちらこそ。じゃ、夕飯買って帰ろうか。何が食べたい?」
「俺は自分で……」
「僕が付き合ってもらうんだから。良いんだよ、甘えてくれて。といっても、高いのは買えないけどね」
おどけて笑いながら、彼の背中を押して促した。隣から僕を見上げるように見つめている視線に緊張しながら、僕達は一緒に歩いて帰った。
途中、寄ったコンビニで、売れ残りのショートケーキを買って、ついでにお弁当も買って。
僕も余裕がある生活じゃないので、これが僕達のクリスマスになる。
ずっと思っていた。
高い物に囲まれたクリスマスよりも、ただ一緒に過ごせる時間を大事にしたクリスマスが過ごしたいと。
僕の願いを、どうやらサンタクロースは叶えてくれるみたいだ。
ありがとう、サンタクロース。
僕は生まれて初めて、サンタクロースに感謝した。
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