SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

文字の大きさ
上 下
1 / 123
空飛ぶクリスマス・コーヒー

1.恋の弓矢は超直球!

しおりを挟む

 賑やかな喫茶店。

 クリスマスまで残り一週間となった店内では、派手な装飾が施されている。

 ついでに僕の目の前にも、派手な化粧をした同じ大学の女の子が座っていて。

 正直、つまらなかった。

 可愛くない訳じゃないのに、彼女が話す内容が、僕をつまらなくさせる。

 あのブランド品は可愛い、あそこのブランド品はバッグがお勧めと、明らかにクリスマスプレゼント狙いおねだりモードを発動しているから。

 僕達、付き合ってないのにね。

 クリスマスプレゼントが欲しいから、僕と付き合いたいのだろうか。そんな事をぼんやり思っていた。

 目立つ方じゃないけれど、明るめの髪に産まれた僕は、あまり長くは伸ばさずに適度に切っている。身長は中の上といった辺りをうろついていて、趣味でテニスをやっているせいか、引き締まってはいる。

 コンタクトレンズはお金が掛かるので、高校の時に作った黒縁眼鏡を愛用している。テニスの試合の日だけは、コンタクトレンズになった。

 ブランド品には一切興味はなく、長く愛用できる物であれば活用する人間だ。でも、それなりに身なりだけは整えている。もう、二十歳だし。

 彼女は欲しい。

 でも、悪いけど、君に心は動きそうにない。

 熱心に話し続ける茶髪の女の子をどう、打ち切ろうかと思案していた僕は、バシャッ、という音と共に、酷く背中が熱くなった。ついでガシャンと何か割れる音もした。

「……あつ!? 何!?」

 振り返れば、呆然と突っ立っている少年が居て。僕の肩ほどしかない身長の彼は、キュッと口を引き結んでいる。

「……何? どうしたの修治? って、ちょっとあんた! 何してんのよ!!」

 女友達が金切り声を上げている。見れば僕の背中は、ホカホカと湯気をたてていて。肌に貼り付くと熱くて仕方がない。咄嗟に服を引っ張って、熱が冷めるのを待った。

 コーヒーだった。それも入れ立て。少年は喫茶店の制服を着ている所を見ると、アルバイトの男の子らしい。キュッと口を引き結んだまま、動かない。

「山本! 何をやってるんだ!」

 喫茶店の厨房から、男性が飛び出してくる。問答無用で少年の頭を抑えつけ、僕に向かって謝っている。

「済みませんでした!! ほら、お前も謝れ!」

「…………!」

「何睨み付けてるんだ! ほら、早く!!」

「ええと、ま、まあまあ。落ち着いて下さい。僕は大丈夫ですから」

 両手を広げて宥める僕の背後から、女友達が叫んでいる。

「信じらんない! 客にコーヒー掛けておいて無言なんて! あり得なくない!?」

「ちょ、黙って。事が大きくなるから」

 僕が彼女を宥めても。何故だか彼女が興奮したように僕の腕にしがみ付き、少年を睨んでいる。

「どういう教育してんのよ!」

「本当に申し訳ありません!」

「クリーニング代、ちゃんと出しなさいよ!」

「もちろんです! ほら、山本! もたもたするな! 拭く物をお持ちしろ!」

 山本と呼ばれた少年は、未だキュッと唇を引き締めている。無言のまま踵を返した。

 吊り上がり気味の目、白い肌は頬だけ赤くなっている。細身に見えて、僕と同じで鍛えているのか、制服が良く似合っている。身長は低いけれど、足は長かった。もう少し身長が伸びれば、女子共が放っておかないだろうに。

 そんな事を考えている僕に、彼女はブツブツ文句を言い続けている。そんな暇があれば、背中を拭いてくれたら良いのに。

 もしも彼女が、こんな風に喚かずに、僕の背中をそっと拭いてくれたなら。落ちたのにな。

 今回のお茶代はただにしてよ、と便乗した彼女に、もうこの子とお茶するのは止めようと思う僕だった。

「……あの……これ」

 何故か店長と彼女が駆け引きを始めてしまったので、蚊帳の外に居た僕は背中に当てられたタオルに振り返る。

「気にしないで良いからね。あの子、すぐ怒るから」

「……すみません……でした」

「良いよ。大丈夫だから。正直、ちょっと助かったし」

「……え?」

「実はさ、どうやって彼女を巻こうかって思案しててね。この機に帰らせてもらうよ」

 コソコソと山本少年に耳打ちした僕は、簡単に背中を拭いてもらうと、未だ何か言っている彼女の腕を取った。

「帰ろうか」

「……え!? 何言ってるのよ! クリーニング代……」

「要らないよ。これくらい、洗えば落ちるし。僕も良く、家でコーヒー零すしね。気にしない」

「で、でも……」

「お言葉に甘えて、お茶だけ、ご馳走になりますね。じゃ、これで」

 彼女の腕を引っ張った僕は、口を引き結んでいる山本少年に手を振ると、くれぐれも音便に終わらせて欲しい事を店長に告げて店を出た。

 ある程度店から彼女を引き離した僕は、すちゃっと手を挙げた。

「ごめん、先に帰るね。バイト前に着替えたいし」

「……え、ちょ、ちょっと修治!?」

「バイバイ。また大学でね」

「もう、修治!! これからまだ行きたい所があるのに!」

「バイトだから。他の男誘ってね」

 コートを羽織りながら走っていく。この機を逃せば、逃げるチャンスは無い。



 一つ心配なのは、山本君が辞めさせられなければ良いけれど。



 あのまま店に居れば、彼女がどんどん、要求を高めてしまいそうだったから。逃げるのが一番の得策だったと思う。

 彼女が追ってきていない事を確かめた僕は、足を止めて空を見上げた。まだ昼だというのに、灰色の空は重たく垂れ込めている。今日もまた、雪が降るかもしれない。

 コーヒーの香ばしい匂いを振りまきながら歩いた僕は、一旦、着替えるために一人暮らしのアパートへと戻った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

愛おしいほど狂う愛

ゆうな
BL
ある二人が愛し合うお話。

処理中です...