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番外編
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しおりを挟む【……純?】
囁くような低音ヴォイスに、腰が砕けてしまった。ベッドに倒れこんでしまう。テレビから聞こえる大介の声と、携帯から聞こえる大介の声に、また涙が出てきそうだ。
「……大介?」
誤魔化すように、呼び掛けた。笑ったのか、息を吹き込むような音がして。顔が熱くなってしまう。
【……あのさ。ちょっと話があんだよ】
そう言った大介は、もっと良く聞こうと目を閉じた俺に囁いた。
【二ヶ月間だけ、そっち戻るから。すげー忙しいけど、たまになら、会えるから……なんだ……その……】
もごもご、言い続ける大介に目を見開いた。
「戻るって!? え? 何で!!」
【……お、親方のダチのところで、二ヶ月間だけ工事に参加するから……だからだな……その……】
「俺のマンションにきなよ!!」
思わず叫んでいた。起き上がってしまう。
【マンションって……お前、一人暮らししてんのか?】
「うん! ……ぁ……でも、そうだよな。家族の所に帰りたいよな……」
叫んだ後に後悔した。たまに会えるからと、教えてくれたのは、家族のもとに戻る気だったからだろう。家から工事現場まで通い、時々、デートで会えると、教えてくれただけだった。
先走った自分に恥ずかしくなる。家族が一番の大介を理解していたはずなのに。いつからこんなに我がままになっていたのだろう。
たまにでも嬉しいと、付け加えようとした。
【良いのか?】
大介の言葉に戸惑った。家に戻っても良いのか、それとも俺のところに来ても良いのか、どっちに対しての「良いのか?」なのだろう?
「大介?」
【お前が迷惑でなけりゃ……世話になりてぇが……】
「……ぇ、マジで?」
【んだよ。どっちだよ】
「俺の所で……良いの?」
好一や美春の側に居たくはないのだろうか? せっかく二ヶ月間も地元に戻れるのなら、少しでも家族の側に居たいだろうし。
俺だって同じ気持ちだけれど。大介はずっと、家族から離れていた。家族が大切だから、離れていたから。
戻してあげたい気持ちもある。
側に居て欲しい気持ちと同じくらい。
【…………なんつーか】
大介が、ちょっと言い淀みながら続けた。
【泣いたお前の顔が、頭から離れねぇんだよ。……側に居てやりてぇ】
「大介……」
【つか、側に居てぇっつうか……まあ、そんな感じだ!】
小さくなっていた声が大きくなる。
【お前が良いなら、お前の所に行く】
「……嫌な訳ないでしょ。嬉しいさ!」
心底そう思った。声に出ていたのか、大介がホッとしたように笑っている声が聞こえる。
【ようやくいつものお前になったな。びびったぞ? あんな泣き方しやがって】
「抱き締めたくなっちゃった?」
ゴロリとベッドに寝転びながら聞けば、妙に黙りこくってしまった。
「大介?」
呼び掛けても、返事はなくて。どうしたんだろうと何度か呼び掛けたら、フッと息を吹き込まれた。ゾクッとしてしまう。
【……離したくねぇよ】
囁かれ、ドキッとしたけれど。
【きゃ――!! 兄ちゃん超セクスィ~~~!!】
【うっほ――!! おめぇ、やるな!!】
蓮司と親方の声が流れ込んでくる。
【また立ち聞きしやがったな!! 親方もいい加減にして下さい!!】
怒鳴る大介の声と、叫ぶ親子の声が一緒になって聞こえてくる。あっちへ行けと必死になって怒鳴る大介の姿を想像すると、吹き出してしまった。
「あは、あはは!」
【……純?】
「あ~あ、今ので楽になったよ」
【何だ、それ。つか! あっち行ってろって!】
まだ側に居るのか、しっしっ、と声が聞こえた。携帯を持ち直すと、通話口に唇を近づける。
「I LOVE YOU、大介」
【……お……お前……!】
「待ってる。じゃあね。あんまり怒鳴らないように」
【お、おい、純?】
「ベッドはあるから。毎晩愛してね?」
【…………!!】
何か言われる前に通話を切ってしまう。今頃受話器に向かって真っ赤になりながら怒鳴っていることだろう。
笑いながら仰向けになって天井を見上げた。二ヶ月間だけでも、大介が帰ってくる。それも俺のマンションで一緒に居てくれる。
そうだ、と勢い良く起きた。早く部屋を片付けなければ。積み重ねられたままのダンボールに駆け寄った。
壁に掛けていた鏡に映った俺の顔は、修治の事が言えないくらい、幸せそうに笑っていた。
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