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番外編
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「兄ちゃん!! ねぇ、ねぇ、ねぇってば!!」
後ろで蓮司が叫んでいる。体を激しく揺さぶられている。
振り払う力は無い。
布団の上に横向きに転がっている俺は、背中に蓮司が居ても、どうしようもなかった。出て行けと、怒鳴る力も気力もない。
「……はぁ~~」
「それ何回目!? 何回目!!」
蓮司が必死に揺さぶっている。体がガクガク揺れていた。
ぼうっと見つめていた俺の部屋の隅っこは、ちょっと埃が溜まっている。掃除しなければ、と思いながらぼうっとした。
「……もう……兄ちゃんのオタンコナス――!!」
とうとう、蓮司が捨て台詞を残して部屋を出て行った。乱暴に襖を閉め、ドカドカ足を踏み鳴らしながら階段を下りていく。
一人になった部屋で、だらりと力を抜いた体を横たえていた。
「……俺が……聞きてぇよ」
思い出すのは祭りの夜。
あの日の純は、いつもとは違っていた。
大人の行為の時、いつだって純の方が余裕があって、俺はいつも翻弄されて。
付いていくのが精一杯だったのに。
祭りの日の夜は、純が大人しかった。
~*~
「……ぁ……だいすけぇ……」
繋がった場所がじんじんした。切なそうに呼ばれると、体が震えた。
不慣れな俺を見上げながら、純はずっと微笑んでいて。顔の横に付いていた俺の手を握ったり、頬に触れたりしてきた。
そんな仕草をあまりしない純。攻めてくるタイプだったのに。
あの夜は、俺に任せてくれた。
たどたどしい俺の手で触れるまで、純から急かすようなことはなかった。
長めに整えている彼の黒髪も、焼けた肌と、そうでない肌のギャップも。
少しずつ俺の体を興奮させて。
純を抱いているんだ、と意識すればするほど、もっと触れたくなった。熱いキスがしたくなった。
「……痛く……ねぇか?」
耳にキスしながら、中を探っていた。ただ、頷いた純は、まるで甘えるように両腕でしがみ付いてきた。
「……大介……」
吐息に混ぜて呼ばれた。
「大介……」
何度も、何度も。
確かめるように呼ばれた。
「大介……大介……」
しがみ付く体を受け止め、精一杯優しく抱いた。
~*~
行為が終わった後、彼はすぐに眠ってしまった。それも珍しくて。
幼い子供のような寝顔に、正直、ドキドキしていた。何と言うか、純の素顔を見た気がした。
いつもポーカーフェイスで、なかなか心の奥を見せてくれない彼が、あの夜だけは違った。俺に、甘えてきていた。
本当に。
あいつは。
「……何だってんだよ」
あんな甘え方をされては、側に居てやりたくなる。全部捨てて、側に。
眠っている顔に残る涙を指で拭った俺は、なんとなくそのまま起きて見守っていた。柔らかい黒髪を撫でながら。
でもいつの間にか俺も寝ていて、翌朝、早い時間帯に一人で目が覚めた。今までなら、先に起きているのは純だったのに。
彼はまだ、寝ていた。俺の腰に腕を回して。離れたくないと、言っているかのようで。
じんっとした。
側に居たいと思った。
眠る額にキスをしたら、瞼が震えて純が目を覚ました。俺を見上げて、照れたように笑った顔。
『おっはよ~! お前に負けるなんてね』
コツンッと額を叩かれた俺は、まじまじと純を確認した。
いつもの、純だった。
結局、何で泣いたのかも、俺にカラオケ大会の話をしなかったのかも、聞けないままだった。帰る時間が迫り、急いでシャワーを浴びて、東京に戻るしかなかったから。
見送りまでされて、またね、と送り出された。
こんなに東京に戻る事が辛いと思ったのは、家族と離れることになった時以来だった。下の弟や妹に泣かれた時も、振り切るように東京を目指したけれど。
「……んで……何も言わねぇんだよ」
側に居てやれないけれど。
話くらい、してくれても良いのに。
「……頼りねぇのかよ!」
敷布団を握り締めた。奥歯を噛み締めてしまう。
帰りたい。
胸が締め付けられた。
純の側に居てやりたい。何で俺はここに居るんだろう?
あいつが泣いたのに。側に居てやれないんだろう?
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