111 / 123
番外編
6-4
しおりを挟む純だけが、知らない。
商店街の祭り、しかもカラオケ大会に、これだけの人が残ってまで見ることはないだろう。
皆、密かに広まった噂で知っているからこそ、残っている。それも女性が圧倒的に多い。付き合いで連れてこられた彼氏や旦那さんは居ても、大半が女性ばかり。
お目当ては一人。
チラリチラリと純を見ている奥様達の視線に、隣に来た素喜君と一緒に笑ってしまう。
僕は好一を、素喜君は美春を、それぞれ人混みから守るように前に連れてきてあげた。後ろから抱き締めてあげる。二人はにこにこと楽しそうにステージを見上げた。
やがて時間がくる。瑠璃と話している純をチラッと確認した僕は、無言で素喜君と視線を交し合った。
《さあ、今年から新しく始まったカラオケ大会! 喉自慢達が集まっていますよ! 最後まで聞かなくちゃ、損だよ!》
司会者の掛け声に、皆が歓声で応えた。飛び跳ねる好一がステージに飛び出していかないようにしながら、カーテンで仕切られたステージの向こうを観察する。そこに出演者二十組がいるはずだ。
《第一回目の栄冠は誰の手に!? さあ、トップバッターの方、どうぞ~!!》
司会者の派手な呼び掛けに、中年のおじさんが飛び出してきた。マイクを手に、熱唱を始める。おじさんはなかなか上手かった。昔流行ったロックを熱唱している。
次々と歌っていく。中にはイベントを盛り上げるため、商店街のおじさんやおばさんが、仮装大会さながらに、面白い格好をして歌ったりもした。
真剣に歌う人、面白く歌う人、様々で飽きない。
手拍子を交えながら見ていた僕達は、今か今かと待ちわびた。
いよいよラストの人が呼ばれる。仕切られたカーテンから出てきた人は、大股でステージ中央まで歩いてきた。
高い身長、ギュッと内側に引き締まった体。
綺麗に整えられた黒髪は軽く後ろへ流され、お洒落のために絶妙な配置で破れているロゴ入りティシャツとジーンズを着ていた。足には真新しいスニーカーを履いている。
上から羽織ったフード付きの黒いジャケットは、長身の彼を引き締めている。
《…………あ~っと……歌います》
頭を掻き回そうとした、長身の大介は、スプレーで固められた髪に触れて慌てて手を引いた。僕の側に立っていた鈴子が、触っちゃ駄目って言ってるのに、とブツブツ言っている。
「また凄くイケメンに仕上げたね」
「うふふ~。あいつ、顔だけは! 良いからさ。美雪ちゃんと一緒に服選んだのよね?」
「うん! いっつもお兄ちゃん、私達のために頑張ってるもん。お母さんと素喜お兄ちゃんと相談して、奮発しちゃった!」
「あいつったら最悪よ。髪伸び放題で来るんだもの。自分で切るから良いなんて言って! 美容院に引っ張って行ってやったわ!」
かなり抵抗されたらしい。鈴子と美雪で腕にしがみ付き、急いで連れて行ったという。
そうして仕上げた大介は、まるで芸能人だった。オーラがある。見に来ていた女性陣は、感嘆の溜息をついている。
奥様達の目は輝いた。
彼氏や旦那さんは呆れた溜息をついている。
「…………皆、知ってたの?」
黙って見ていた純がポツリと聞いてくる。瑠璃が落ち着くようにと腕にしがみついた。
「大介から、電話があったよ。純の様子がおかしいって」
「…………言わなくて……良かったのに」
冷静になろうとしているのだろう、瑠璃の手を握っている。
彼女も知っていた。純の耳に入らないよう、気を付けて欲しいと頼んでいたから。奥様達の噂話から一生懸命遠ざけていた。
10
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ハルとアキ
花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』
双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。
しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!?
「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。
だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。
〝俺〟を愛してーー
どうか気づいて。お願い、気づかないで」
----------------------------------------
【目次】
・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉
・各キャラクターの今後について
・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉
・リクエスト編
・番外編
・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉
・番外編
----------------------------------------
*表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) *
※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。
※心理描写を大切に書いてます。
※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる