SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

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番外編

6-4

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 純だけが、知らない。



 商店街の祭り、しかもカラオケ大会に、これだけの人が残ってまで見ることはないだろう。

 皆、密かに広まった噂で知っているからこそ、残っている。それも女性が圧倒的に多い。付き合いで連れてこられた彼氏や旦那さんは居ても、大半が女性ばかり。

 お目当ては一人。

 チラリチラリと純を見ている奥様達の視線に、隣に来た素喜君と一緒に笑ってしまう。

 僕は好一を、素喜君は美春を、それぞれ人混みから守るように前に連れてきてあげた。後ろから抱き締めてあげる。二人はにこにこと楽しそうにステージを見上げた。

 やがて時間がくる。瑠璃と話している純をチラッと確認した僕は、無言で素喜君と視線を交し合った。


《さあ、今年から新しく始まったカラオケ大会! 喉自慢達が集まっていますよ! 最後まで聞かなくちゃ、損だよ!》


 司会者の掛け声に、皆が歓声で応えた。飛び跳ねる好一がステージに飛び出していかないようにしながら、カーテンで仕切られたステージの向こうを観察する。そこに出演者二十組がいるはずだ。


《第一回目の栄冠は誰の手に!? さあ、トップバッターの方、どうぞ~!!》


 司会者の派手な呼び掛けに、中年のおじさんが飛び出してきた。マイクを手に、熱唱を始める。おじさんはなかなか上手かった。昔流行ったロックを熱唱している。

 次々と歌っていく。中にはイベントを盛り上げるため、商店街のおじさんやおばさんが、仮装大会さながらに、面白い格好をして歌ったりもした。

 真剣に歌う人、面白く歌う人、様々で飽きない。

 手拍子を交えながら見ていた僕達は、今か今かと待ちわびた。

 いよいよラストの人が呼ばれる。仕切られたカーテンから出てきた人は、大股でステージ中央まで歩いてきた。

 高い身長、ギュッと内側に引き締まった体。

 綺麗に整えられた黒髪は軽く後ろへ流され、お洒落のために絶妙な配置で破れているロゴ入りティシャツとジーンズを着ていた。足には真新しいスニーカーを履いている。

 上から羽織ったフード付きの黒いジャケットは、長身の彼を引き締めている。


《…………あ~っと……歌います》


 頭を掻き回そうとした、長身の大介は、スプレーで固められた髪に触れて慌てて手を引いた。僕の側に立っていた鈴子が、触っちゃ駄目って言ってるのに、とブツブツ言っている。

「また凄くイケメンに仕上げたね」

「うふふ~。あいつ、顔だけは! 良いからさ。美雪ちゃんと一緒に服選んだのよね?」

「うん! いっつもお兄ちゃん、私達のために頑張ってるもん。お母さんと素喜お兄ちゃんと相談して、奮発しちゃった!」

「あいつったら最悪よ。髪伸び放題で来るんだもの。自分で切るから良いなんて言って! 美容院に引っ張って行ってやったわ!」

 かなり抵抗されたらしい。鈴子と美雪で腕にしがみ付き、急いで連れて行ったという。

 そうして仕上げた大介は、まるで芸能人だった。オーラがある。見に来ていた女性陣は、感嘆の溜息をついている。

 奥様達の目は輝いた。

 彼氏や旦那さんは呆れた溜息をついている。

「…………皆、知ってたの?」

 黙って見ていた純がポツリと聞いてくる。瑠璃が落ち着くようにと腕にしがみついた。

「大介から、電話があったよ。純の様子がおかしいって」

「…………言わなくて……良かったのに」

 冷静になろうとしているのだろう、瑠璃の手を握っている。

 彼女も知っていた。純の耳に入らないよう、気を付けて欲しいと頼んでいたから。奥様達の噂話から一生懸命遠ざけていた。

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