SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

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番外編

6-3

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***



 祭りはかなり遅い時間まで続けられる。

 何故ならば、今年は一つ、イベントが増えたからだ。

 商店街の中央付近には、広場がある。今までは、そこに担いだお神輿を飾っていたけれど。

 今年は特別ステージが設置されている。

 町の喉自慢達が熱唱する場所だ。もちろん、町に住んでいない人達も申し込めば歌える。

 今年から新たに加わったカラオケ大会。

 優勝者には大型テレビという、商店街の祭りにしては太っ腹な商品も用意されていた。それだけ、第一回目をなんとか成功させたいのだろう。

 僕達はすでに集まっている女子高生や奥様達を掻き分けながら進み、純と合流した。途中で一度、電話を入れていたのだが、妹の瑠璃とちょっと遊んでいくから、と言われて内心焦っていた。別行動が続き、ばれていないだろうか。

 純の様子を窺ってみても、いつもと変わらない。彼と一緒に居たのが瑠璃で良かった。上手くやってくれていたようだ。

 黒髪の綺麗な可愛らしい瑠璃は、僕と素喜君の関係も知っているので、変に気を遣う必要は無い。目が合うと、軽く頷き合った。

「こんばんは!」

「こんばんは。今日はご一緒させて下さいね」

 スッと綺麗なお辞儀をした瑠璃は、はにかむように笑っている。

「う~ん、やっぱり可愛いね。純も大変だね。変な虫が付かないようにするの」

「ああ。ちょっと買い物してる間にナンパが多くて困るよ」

「美雪ちゃんも心配だよね。素喜君に似て可愛いし」

 にっこり笑って素喜君を見れば真っ赤になって俯いてしまった。

「俺の妹の前でのろけるな!」

 コツッと額を小突かれた。正直に言っただけなのに。

 おでこを擦りながら、辺りを見てみる。ごった返す人ごみの中から、来ているはずの山本家を探そうとしたけれど。山本家は大介以外、皆背が低いから見付けにくかった。

 少しだけ頭が出ている僕と純で見回していく。きょろきょろしていた僕の、黒縁眼鏡がスッと持ち上がった。

「取っちゃった~!」

「……鈴子。皆も。良かった、見つかって」

 僕の眼鏡を後ろから持ち上げたのは、大学の友達の菅原鈴子だった。彼女の後ろには、山本家が揃っている。

 僕と純を先に見つけた彼女達の方から近付いて来てくれたようだ。

「ここ、ちょっとステージから遠くない? もうちょっと前に行こうよ」

「でも、人押しのけては行けないよ」

「あら、貴方達が居れば大丈夫よ」

 うふふ、と笑った鈴子は、僕に眼鏡を返しながら素喜君にウィンクしている。緊張したように背を伸ばした素喜君は、なんとなく会釈した。

 相変わらずちょっと派手な格好をしている。彼女は山本家長女の美雪と仲が良くなっていた。お姉さんが欲しかった美雪が、相談に乗ってもらっているらしい。

 男兄弟には言えない事もあるだろう。見た目は派手だけれど、頼りがいのある女性鈴子だった。

「さ、行くわよ! 私も楽しみにしてたんだから!」

「なに、良い男でも捜すの?」

「そうね~。探したいけど、中味が無い男は嫌いだわ」

 何故か僕と純の背後に回った鈴子。山本家の下二人、好一と美春がお母さんの手を離し、素喜君の手をそれぞれ握っている。お母さんはのんびりと笑って見守った。

「レッツゴ~~!!」

 そう言うと、目の前に聳え立つように並ぶ女子高生や奥様達を僕と純で掻き分けていく。ぐいぐい、背中が押されて前に進んでしまう。

「ちょ、ちょっと鈴子!」

「これは強引すぎだって!」

「気にしない、気にしな~い!」

 僕がぶつかってしまった奥様をそっと横に寄せ謝った。

 純もまた、女子高生を抱きこんでしまい、イケメンスマイルで謝っている。

 僕達の騒ぎに前の方が少しずつ割れていく。とうとう、ステージの目の前に出てしまった。高い位置にあるステージを見上げる場所だ。

「到着!」

「……お前ねぇ。その豪快な性格治せば、もうちょっともてるって言ってるでしょ」

「あら、私は私だわ。このままを受け入れてくれなくちゃ、意味ないじゃない。ねぇ?」

 鈴子に見上げられ、苦笑した。僕達の後ろから皆も来ている。

 鈴子が強引に前に出た理由は分かっている。

 やり方に呆れながらも、ポンッと彼女の背中を叩いておいた。

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