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番外編
5-5
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「素喜君、ほっぺたにクリーム付いてるよ」
「……ぁっ!」
口ではなく、頬にケーキを付けてしまった素喜は、慌てたようにティッシュで頬を拭っている。呆然としてしまった修治もまた、口の端にクリームを付けている。
「……大胆だね、純は」
「あはは! 父さんが理解してくれたのが嬉しくてさ。ついつい、襲っちゃった」
「お父さんは下にずっと?」
「そう。親方が引き受けてくれたし、下の階で寝たから。……まあ、気付いてたかもしれないけどね」
思い出しながらクスクス笑った。
一戦交えた後、俺達はしばらく部屋に居た。大介の汗が俺にも移っていたので、下の階が寝静まってから、風呂に入った。
でっかい背中を擦ってやった。俺の背中も擦ってくれた。
シャワーだけ浴びた後、部屋に戻る時に、トイレから出てきた父さんに会った。三男とかなり飲んだのか、顔が赤味を帯びていた。
すぐに大介が緊張して、背筋を伸ばすものだから。俺は本気で噴き出した。大介も緊張するのかと思うと笑えた。
そんな俺を見た父さんも少し笑いながら、大介の背中をポンッと一つ押した。父さんなりの、愛情表現だった。
部屋に戻った俺達は、改めて布団を敷いた。ようやく緊張の取れた大介が、しみじみと言ったものだ。
『お前の親父さん、男だな』
と。
大介の中で、父さんの存在は大きくなったようだった。反対されると思い込んでいたらしい。彼は弟素喜と修治の関係を強く反対した時期があったから。
俺の父さんを尊敬した大介は、布団に入ってから腰を抱いてきた。
「俺は驚いたよ」
「何が?」
その時の事を思い出し、顔が崩れて仕方がない。興味津々の二人に見つめられながら、ケーキをツンツンつついた。
「あの大介が……自分から二戦目を申し込んできたんだ……!」
「……え~っと……またしたの?」
修治の問いに頷きながら、グサッとケーキにフォークを差した。
「……あの夜は燃えた……!!」
そう、二戦目は凄かった。
さすがの俺も、後は大人しく寝ていようと思っていたのに。
大介が服を脱がせてくるから。
転がしてくるから。
あんな、エロくさい顔で真剣に言うから……!
「…………恥ずかしい!!」
フォークを放り投げ、手で顔を覆った。素喜が驚いたように修治にしがみ付いている。修治も素喜を抱き締めると目を見開いた。
「な、何があったの……?」
勇気を出した修治に聞かれ、俺はもう、崩れ落ちた顔を修復することもできずに笑ってしまう。
「…………内緒」
「ここまで来てそれはないよ、純! 言いたくて来たんだろう?」
「駄目! お前が大介に惚れたらまずい!」
「…………!!」
俺の言葉に素喜が焦る。修治の耳を両手で塞いでいる。顔を真っ赤にした彼は、俺に何も言うなとフルフル首を横へ振っている。
言いたい。
でも知られたくない。
そんなジレンマと闘いながら、体と心に刻み込まれた大介という存在に、胸が熱くなっている。
「……もう、何のために来たんだか」
素喜の手を握り締め、耳から離させると引き寄せた。後ろから抱き付く形になった素喜に笑っている。
「僕が大介を好きになるって? ないない。僕の心は素喜君一筋なんだから!」
「…………!」
「大好きだよ、素喜君。大好き。とっても大好き」
頬を擦り寄せ合う甘いカップルを見つめながら、崩れてしまったケーキを口に運んだ。
甘い。甘ったるくて幸せだ。
『純。俺は決めた』
半分ほど減ったコーヒーに、大介の顔が映って見える。
『お前の親父さんに恥じねぇくらい、大事にする』
じっと、コーヒーを見つめた。ユラユラ、揺れる中で大介の顔がハッキリと映る。
『…………愛してる……すげー好きだ』
耳に吹き込まれた言葉。
体中に駆け巡る、電流にも似た甘い痺れ。
「…………たまらん!!!」
叫んだ俺に、キスをしようとしていた二人が仰け反った。
俺は残りのコーヒーを一気に飲み干した。
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