SweeT&BitteR ~甘く甘く 時に苦く 僕らは恋をする~

樹々

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番外編

5-3

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~*~



 ズズッとコーヒーをすすった。修治のフォークからポロリとケーキが零れ落ちている。

「……それで?」

 促され、笑った。

「まあまあ」

「もったいぶらないで。話したくて来たんでしょう?」

 修治の言葉に素喜が頷いている。

 本当に造りが似ている。目元が赤くなるところなんてそっくりだ。大介もこんな、可愛い少年時代があったのだろうか?

 思わず頭を撫でてしまう。大介より柔らかい髪質に微笑んでしまう。

「……素喜君は駄目。触るなら大介にして」

「あいつも……可愛いんだよ」

 思い出しながら顔がニヤけた。素喜が少し、俺から距離を取るように修治の側に寄った。

 ほうっと溜息ばかりが出てしまう。

 二人の気味悪そうな視線を受けながら、続きを話して聞かせた。



~*~



 飛行機に乗っている間、父さんは無言だった。筋肉を覆うように着たスーツは、少しピチピチ感を残している。父さんはあまりスーツが似合う男ではなかった。軍服姿の方が断然、格好良い。

 そんな父さんが慣れないスーツを着て、大介に会いに行った。俺はいつものように白いシャツと黒いズボン、首と腕に飾りを着けた、シンプルな今時風の装いにしている。あまり気張って、大介にたまらなく会いたかった、と悟られないためだ。

 俺は俺。

 そんな感じで会いたかった。ポーカーフェイスを崩すつもりはない。

 空港から電車とタクシーを乗り継いで、大塚家まで辿り着いた。出迎えてくれたのは蓮司だった。三男と大介はまだ、仕事が終わっていないらしい。少し長引いているそうだ。

 蓮司が彼なりに気を遣ってお茶を淹れてくれたり、茶菓子を出してくれたりした。気にしないで良いからと、そわそわしている彼を落ち着かせた。家の中ではティシャツと短パンで過ごす彼が、ちゃんとジーンズを履いているあたり、かなり緊張しているらしい。

 テーブルに着いてからも、いかに大介が良い男なのかを語り始めて止まらない。父さんは静かに頷きながら蓮司の言葉を聞いていた。

 俺達が着いてから一時間程経った頃、ようやく大介達が帰宅した。時計は午後九時を回っている。

 蓮司が駆け出して玄関まで迎えに行った。大介と三男の声が聞こえ、慌ただしく廊下を歩いてくる。

 父さんがスッと立ち上がった。俺より、少しだけ低い彼は、背筋をピッと伸ばして立っている。俺も立ち上がって出迎えた。

「すみません! 遅くなりました!」

 リビングに入るなり、大介が大きな声で謝った。直角に曲がった腰、作業着はずいぶん汚れている。

「お邪魔しています。立川純の父、立川義男と申します」

 丁寧に頭を下げた父さんに、大介が慌てたように顔を上げている。

「山本大介です! すみません、本当に! 本来なら俺がご挨拶に伺うべきなのに……!」

 再び頭を下げようとした大介の背中を三男がしたたかに叩いた。

「立ち話もなんです。さ、座って下さい。お前もな、大介」

「……親方」

「ほら、座った座った」

 三男に促され、俺と父さんが先に座った。向かいに大介と三男が座っている。蓮司は二人のために麦茶を用意してから、角の方に座った。

 少し、重苦しい空気が流れた。大介が緊張を紛らわすように、麦茶を一気に飲み干している。コップを置いてから、父さんを真っ直ぐに見つめた。

「純と……純さんと、お付き合いさせてもらっています。その……そのことで、お話が、あるかと思うのですが……」

 慣れない敬語を使おうと苦戦している大介。言葉を選びながら、何か言わなければと口を開いている。

 そんな大介を静かに見つめている父さんは、続けようとした大介に右手を挙げて止めた。

「別に、反対しに来た訳ではありません。どんな方なのかと、お会いしたかっただけです」

「どういう意味、父さん」

 殴り合いの喧嘩にはならないようだ。横顔を見せる父さんを見つめてみる。彼はずっと、大介を見ていた。

「……息子が、男と……それはかなり、衝撃でした」

 父さんの言葉に、大介が口を開き掛けた。それも右手一つで制してしまう。

 昔からそうだ。父さんは俺や母さん、妹の瑠璃の前では滅多に怒鳴らない。静かに諭してしまう。自衛隊に所属していながら、いつも静かなイメージがあった。

 彼の空気がそうさせるのか。自然と周りが落ち着いてしまう。今も、緊張している大介を気遣うように、落ち着かせようとしてくれている。

「衝撃でしたが、反対するつもりはありません。写真を見れば分かります。息子は幸せそうに笑っていた」

「キスシーンは見られたくなかったな」

「堂々と置いていたくせに、今更だ」

 俺達親子のやりとりに、大介の顔がだんだん赤くなっていく。特に目元が真っ赤になり、俯いていく。

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