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番外編
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たくさん笑った僕と純は、山本家を離れて帰っている。すっかり暗くなった外は、車のヘッドライトが行き交っている。
純の運転する車の中で、僕達は少ししんみりしていた。
「あいつがお前達のこと、すんごい反対してた理由が、なんとなく分かったな」
「うん。お父さんの言葉を守りたかったんだね」
「大介にとって初めての弟で、お父さんが自分を可愛がってくれるのなら、自分は素喜君をって、ずっと大事にしてたんだろうな~」
だから一番、鍛えていたのだろう。素喜君は不良に絡まれたくらいでは倒れない。むしろ叩きのめしてしまう。
大事に守っていた弟が、彼女ではなく彼氏を作ってきた。かなりの衝撃だっただろう。
「僕、頑張らないとね! 大介に任せたって、肩を叩いてもらえるように」
「あはは! もう、あいつは修治をとっくに認めてるよ! たぶん、最初っからな」
ハンドルを切った純は、ニッと笑っている。
「後でラブコールしておこうかな」
「そうしなよ。携帯はどうするの?」
「俺の給料から出して持たせるつもり。あいつは嫌がるだろうけどさ」
僕と純は、今年大学を卒業した。四月からは新社会人になる。
僕と、そして今年二十歳になる素喜君は、四月から玩具屋の正社員になることが決まっている。店長さんにはとてもお世話になっているので、二人で頑張ろう、と気合い充分だ。
ちなみに素喜君の誕生日から、僕達は一緒に住むことになっている。そのために、前もって山本家のアパート近くに引っ越していた僕だった。いつでも会いに行けるように。また、寂しがる下の子達にも、遊びに来てもらえるように。
純も地元の会社に就職が決まっている。なるべく節約して、大介に会いに行く回数を増やしたいと教えてくれた。
話しているうちに、すぐに僕のアパートに着いてしまった。歩いていける距離にあるアパートだから。来客用の駐車場に車を停めた純は、ニヤリと笑いながら僕の方を向いた。
「で、ホワイトデーはどうだった?」
「……やっぱり、純が教えたんだね」
「どうしてもドキドキさせたいって言うから。あの子は今、大人になりたくて仕方がないんだろうな~」
純が笑いながらシートを倒している。僕も真似してシートを倒すと、低い車の天井を見上げた。
「ねえ、純。大介とはどんな感じ?」
「……それ、聞く? のろけるぞ?」
「あはは! 良いよ、のろけても」
天井を見たまま笑った。純も両腕を頭の下で組むと笑っている。
「すんげー可愛い。あいつは俺のことエロくさいって言うけど、俺からすればあいつの方がエロくさいね。あんな最強男のくせに、俺がちょっと深いキスしたり、体弄るとプルプル震えちゃうし……! 必死になって俺にしがみ付いてくるんだ」
「大介がね~」
「そう、大介がね。正直、受ける側からすれば、ちょい大変だ。お前も素喜君を抱く時は、その辺気を付けろよ?」
「うん。近くなったら色々と教えて」
「まっかせなさ~い」
トンッと自分の胸を叩いて見せる純に笑いながら、コロリと転がって彼の方を向いた。気付いた純が顔をこちらに向けてくれる。
「……何か言いたそうだな」
「……うん」
「…………もしかして、もう……我慢できなかった……とか?」
ホワイトチョコレートのことを素喜君に教えた純としては、心配になったようだ。それは大丈夫だと、目を伏せて首を横へ振った。
「エッチは……我慢したよ。でも……」
「でも?」
純も僕の方へ体ごと向いた。身長の高い男二人が、狭い車の中で身を潜めるように顔を突き合わせる。小声で話す僕に、彼も耳を傾けた。
「……触っちゃった……」
「……息子さん?」
「うん……」
「……で、どうだった?」
純が冷静に聞くので、僕もなんとか冷静に応えられた。
「…………たまらなかった」
「分かるよ。俺も、あいつの体に触れると興奮しちゃうし」
「二人で、触り合ってみた。つくづく、僕はこの子を抱きたいんだって、思い知らされたよ。良い人の顔が崩れちゃったよ」
欲望丸だしの顔を、素喜君に見られてしまった。
誕生日まで我慢すると、あれだけ誓っていたのに。手で触れられただけで、理性が吹き飛びそうになってしまった。
もっと、もっと違う場所にも触れたい。
抱き合いたい。
体が叫んでしまって。
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