143 / 152
抱き締めても良いですか?~エピソード0~
エピソード03
しおりを挟む
息が苦しい。
体が鉛のように重たい。
身動き一つできない体。
どうして僕の体はこんなにも弱いのだろう。
兄の瑛太も、兄のような存在の浩介も、強いαの体だった。運動神経も良いし、体力もある。身長だって高くて、同じαである僕とは全然違った。
僕も少しだけで良い。せめて歩けるだけの体が欲しい。
目が覚めても起き上がれない体。
息をしているだけの体。
今日も、まともに起き上がることができなかった。
瞼を閉じたままベッドに横になっていた僕は、右手がじわりと熱くなるのを感じた。そうすると、右手から体に力が満ちてくる。気怠くて起こせなかった体が動かせる。
瞼を開けると、僕をじっと見ていた田津原愛歩と目が合った。
「……おかえりなさい、愛歩君」
「ただいまです。無理して話さなくて良いですよ」
そう言えば、今日から愛歩がアルバイトとして来てくれることになっていた。制服姿の愛歩は、僕の手を握ってくれている。
「水飲みますか、真澄さん」
「……うん、お願い」
「ちょっと待ってて下さい」
右手から愛歩の手が離れると、息苦しさが戻ってくる。急に重くなった体。か細い息しかできない僕の側に慌てて戻ってくる。
「マジで俺が握ると楽になるんですか?」
「うん……でも、嫌なら断ってね。君に迷惑かけたくないから」
僕を抱き起こした愛歩は、コップに入れた水を飲ませてくれた。愛歩が触れているからか、体を起こすことができた。背中をさすってくれている。
「まあ、帰る家が今のところ無いんで。握ってるだけで楽になるんなら、暫く付き合いますよ」
近い距離で笑ってくれる。
Ωなのに、逞しい体をしていた。αに負けたくないからと、浩介の番になった琴南慎二のように体を鍛えているらしい。
綺麗な顔をしている愛歩は、僕には眩しい笑顔で笑っている。
「真澄さん、飯食った?」
「……少し」
「んじゃ、おやつ食いません? 腹減ってるんだけど、言えなくて」
お腹を押さえている愛歩は照れくさそうに笑っている。おやつが食べたいのだろう。
「僕の部屋には無いから、もらってきて良いよ。何か作ってくれると思うから」
行ってきて良いよと言った僕を見つめた愛歩は、どうしてか広い背中を見せてくる。そのまま僕を背負ってしまった。
「離れると苦しいんでしょう? 一緒に行きましょう」
身長が高い愛歩に背負われると視界が変わる。まるで兄さんや浩介に背負われているようだった。
「あ、でもベッドから出るときついですか?」
歩き出そうとした愛歩が止まっている。パジャマのままだった僕を気遣ってくれる。
「ううん。愛歩君に触れてるから大丈夫」
「良かった。んじゃ、おやつ貰いに行きましょう!」
制服姿のまま僕を背負った愛歩は、二階から一階の台所まで歩いて行く。軽々と僕を運ぶ愛歩の肩は筋肉質だった。思わず触ってしまう。
「愛歩君、凄いね。兄さんみたい」
「変態兄さんみたいってのは嫌ですね」
「じゃあ、浩介さん」
「あの秘書さんはやばいですね。あれくらいになれるかな、俺」
軽快に歩く愛歩と話していると、お手伝いさんの一人が手に持っていたはたきを落としている。驚いたように僕を見つめ駆け寄ってきた。
「ぼ、ぼっちゃん!? 起き上がって大丈夫なんですか!?」
「うん、平気。愛歩君がお腹空いたって」
「ま、ま、待ってて下さい! すぐに作りますから!」
台所へ駆け込んでいく。不思議そうに愛歩が首を傾げている。
「どうしたんですか?」
「僕が話してるから驚いたんだと思う」
「話すだけで?」
「うん。こんなに話したの、久しぶりかな」
愛歩の肩に手を乗せて高い天井を見上げた。前回、病院に行った時以来だ、部屋を出たのは。
病院へ行く途中、ヒートになった愛歩に遭遇して。今までΩのフェロモンを感じたことがなかった僕が、愛歩のフェロモンで初めて勃起した。
体が熱くてたまらなくて。
αとしても、男としても、できそこないだった僕が、愛歩のフェロモンにだけ反応した。
運命の番。
兄さんはそう言った。だから番になっていない状態でも、手を繋ぐだけで愛歩のΩ性が僕に力をくれると言う。
愛歩に触れている間、本当に、体が楽だった。彼の背中から感じる温かな力。
「俺、魔法使いみたいですね」
「そうだね。優しい魔法使いだよ」
台所を覗きに行った愛歩は、その広さに驚き。ホットケーキを作っている間にと、僕を連れて家を探検している。
体が鉛のように重たい。
身動き一つできない体。
どうして僕の体はこんなにも弱いのだろう。
兄の瑛太も、兄のような存在の浩介も、強いαの体だった。運動神経も良いし、体力もある。身長だって高くて、同じαである僕とは全然違った。
僕も少しだけで良い。せめて歩けるだけの体が欲しい。
目が覚めても起き上がれない体。
息をしているだけの体。
今日も、まともに起き上がることができなかった。
瞼を閉じたままベッドに横になっていた僕は、右手がじわりと熱くなるのを感じた。そうすると、右手から体に力が満ちてくる。気怠くて起こせなかった体が動かせる。
瞼を開けると、僕をじっと見ていた田津原愛歩と目が合った。
「……おかえりなさい、愛歩君」
「ただいまです。無理して話さなくて良いですよ」
そう言えば、今日から愛歩がアルバイトとして来てくれることになっていた。制服姿の愛歩は、僕の手を握ってくれている。
「水飲みますか、真澄さん」
「……うん、お願い」
「ちょっと待ってて下さい」
右手から愛歩の手が離れると、息苦しさが戻ってくる。急に重くなった体。か細い息しかできない僕の側に慌てて戻ってくる。
「マジで俺が握ると楽になるんですか?」
「うん……でも、嫌なら断ってね。君に迷惑かけたくないから」
僕を抱き起こした愛歩は、コップに入れた水を飲ませてくれた。愛歩が触れているからか、体を起こすことができた。背中をさすってくれている。
「まあ、帰る家が今のところ無いんで。握ってるだけで楽になるんなら、暫く付き合いますよ」
近い距離で笑ってくれる。
Ωなのに、逞しい体をしていた。αに負けたくないからと、浩介の番になった琴南慎二のように体を鍛えているらしい。
綺麗な顔をしている愛歩は、僕には眩しい笑顔で笑っている。
「真澄さん、飯食った?」
「……少し」
「んじゃ、おやつ食いません? 腹減ってるんだけど、言えなくて」
お腹を押さえている愛歩は照れくさそうに笑っている。おやつが食べたいのだろう。
「僕の部屋には無いから、もらってきて良いよ。何か作ってくれると思うから」
行ってきて良いよと言った僕を見つめた愛歩は、どうしてか広い背中を見せてくる。そのまま僕を背負ってしまった。
「離れると苦しいんでしょう? 一緒に行きましょう」
身長が高い愛歩に背負われると視界が変わる。まるで兄さんや浩介に背負われているようだった。
「あ、でもベッドから出るときついですか?」
歩き出そうとした愛歩が止まっている。パジャマのままだった僕を気遣ってくれる。
「ううん。愛歩君に触れてるから大丈夫」
「良かった。んじゃ、おやつ貰いに行きましょう!」
制服姿のまま僕を背負った愛歩は、二階から一階の台所まで歩いて行く。軽々と僕を運ぶ愛歩の肩は筋肉質だった。思わず触ってしまう。
「愛歩君、凄いね。兄さんみたい」
「変態兄さんみたいってのは嫌ですね」
「じゃあ、浩介さん」
「あの秘書さんはやばいですね。あれくらいになれるかな、俺」
軽快に歩く愛歩と話していると、お手伝いさんの一人が手に持っていたはたきを落としている。驚いたように僕を見つめ駆け寄ってきた。
「ぼ、ぼっちゃん!? 起き上がって大丈夫なんですか!?」
「うん、平気。愛歩君がお腹空いたって」
「ま、ま、待ってて下さい! すぐに作りますから!」
台所へ駆け込んでいく。不思議そうに愛歩が首を傾げている。
「どうしたんですか?」
「僕が話してるから驚いたんだと思う」
「話すだけで?」
「うん。こんなに話したの、久しぶりかな」
愛歩の肩に手を乗せて高い天井を見上げた。前回、病院に行った時以来だ、部屋を出たのは。
病院へ行く途中、ヒートになった愛歩に遭遇して。今までΩのフェロモンを感じたことがなかった僕が、愛歩のフェロモンで初めて勃起した。
体が熱くてたまらなくて。
αとしても、男としても、できそこないだった僕が、愛歩のフェロモンにだけ反応した。
運命の番。
兄さんはそう言った。だから番になっていない状態でも、手を繋ぐだけで愛歩のΩ性が僕に力をくれると言う。
愛歩に触れている間、本当に、体が楽だった。彼の背中から感じる温かな力。
「俺、魔法使いみたいですね」
「そうだね。優しい魔法使いだよ」
台所を覗きに行った愛歩は、その広さに驚き。ホットケーキを作っている間にと、僕を連れて家を探検している。
0
お気に入りに追加
342
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。


思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

純情なる恋愛を興ずるには
有乃仙
BL
事故に遭い、片足に後遺症が残ってしまった主人公は、陰口に耐えられず、全寮制の男子校へと転校した。
夜、眠れずに散歩に出るが林の中で迷い、生徒に会うが、後遺症のせいで転んだ主人公は、相手の足の付け根の間に顔が埋まってしまう。
翌日、謝りに行くものの、またしても同じことが起きてしまう。
それを機に、その生徒と関わることが増えた主人公は、抱えているものを受け入れてもらったり、彼のことを知っていく。
本来は、コメディ要素のある話です。理由付けしたら余分なシリアスが入ってしまいました。主人公の性格でシリアスをカバーしているつもりです。
話は転校してからになります。
主人公攻めで、受けっぽい攻め×攻めっぽい受け予定です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる