140 / 152
抱き締めても良いですか?~エピソード0~
02-6
しおりを挟む「そ、そいつがやりたいって誘ってきたんだ!」
「淫乱Ωだって言っただろう!?」
「あんた、勘違いして……!?」
瑛太の長い足が、手前にいた男の股間を蹴り上げた。一瞬で言葉を失った男が前屈みになったところへ、今度は膝で顔面を強打している。鼻血を噴いて倒れた男の襟を掴んだ瑛太は、力任せに壁に向かって投げ捨てた。
それを見ていたもう一人の男が逃げようとしたけれど、その顔に瑛太の蹴りが叩き込まれた。狭い部屋だ、壁に激突している。腰から崩れ落ちた男の顔を、革靴を履いたままだった瑛太の足が踏んだ。もがく男がなんとか足をどけようとしたけれど動かない。だんだん力を入れていくと、鼻の骨が折れたのか鈍い音がしている。
鼻の骨を折った瑛太は、そのまま男の股間を踏みつけた。白目を剥いた男は気絶した。
「……な、何であんたが怒ってんだよ! 茜から誘ってきたんだぞ!?」
「私は、嘘が嫌いだ。Ωを襲う馬鹿どもはもっと忌み嫌っている」
「だから、そいつが……!?」
パンッと、智也の頬がはたかれた。横倒しになっている。静かな動作で智也の襟を掴んで引き起こした瑛太。
「忠告はした」
今度は裏手ではたいている。たった二発で、智也の顔は腫れあがった。
「お前は何度茜さんに手を上げた? 他のΩにも手を上げているのか?」
瑛太の手が、三度振り下ろされた。智也の口から血が流れている。なおも瑛太の手は止まらない。歯が一本、欠けて飛んでいく。
もう、智也は話すことができなくなった。真っ赤に腫れ上がった頬。切れてしまった口からは血が噴き出している。その血が瑛太の手を濡らしている。
「心底虫ずが走る!」
瑛太が手を放すと、崩れ落ちた智也。見下ろした瑛太は、長い足を振り上げている。その足先は、喉を向いていた。
「桃ノ木様!」
振り下ろす寸前で浩介が止めた。ピタリと動きを止めた瑛太は、喉めがけて振り下ろそうとしていた足を智也の股間に振り下ろした。もう、声も出せずに智也は気絶した。
「……ありがとう、浩介君」
「いえ。それより寺島様を」
僕を瑛太に渡した浩介は、警察へ連絡を入れている。
先ほどまで智也の頬を叩いていた手とは思えないほど優しい手つきで頬を撫でてくれる。腫れていた僕の頬をいたわるように。
「こんなに腫れて。痛かったね」
「ぼ、ぼく、誘ってなんか……!」
「うん。茜さんはそんな人じゃない」
「こわっ、怖かった……!」
「うん。ごめんね、もっと早く来てあげられなくて」
泣いてしまった僕を抱き締めてくれた。温かくて強いその腕に抱かれて、ずっと恐怖で緊張していた体から力が抜けた。泣きながら気絶してしまった僕を、瑛太はずっと抱き締めてくれていた。
***
ずっと、我慢してきた。
男Ωというだけで、そう言う目で見られてきた。
勝手な噂を流されて、その噂を信じた男達に狙われて。
弱い自分が嫌で嫌で仕方がなかったけれど、どうしても抵抗できなくて。
怖くて震えることしかできなかった。
瑛太も噂を信じて、僕が誘ったのだと思ったらどうしよう。
それがずっと怖かった。
初めて好きになった人が、僕を信じてくれなかったらと思うと。
怖くて、怖くて、怖かった。
震えながら瞼を開けたら、目の前に綺麗な顔をしている瑛太が寝ていた。眼鏡をかけていない時の瑛太の顔は、かけている時よりも鼻筋が通って見える。目が少し鋭いけれど、笑うととても優しい顔になる。
長い腕は、僕を抱き締めていてくれた。汚れていた体は綺麗になっている。ふかふかのバスローブを着せられていた。大きなベッドに二人で眠っていたようだ。
開放的な大きな窓ガラスからは夜景が見えている。見たことも無い豪華な部屋。ここはどこだろう。
「ん? あ、起きたね。体は大丈夫? 頬は痛くない?」
僕が少し身じろいだからか、瑛太も目を覚ましている。僕の頬をゆっくり撫でてくれた。
「まだ腫れているね。もう少し痛めつけておけば良かった」
腕にも触れている。智也に握り締められていたせいか、痣になっていた。
「……あっ! あの! 僕、あいつらにはされてないし誘ってなんかいないですから!」
「落ち着いて、茜さん」
「本当なんです! 皆僕が誘うから悪いって言うけどそんなこと一度もしたことな……!」
唇を、塞がれていた。仰向けになっていた瑛太に抱き締められながらキスをされている。反転した瑛太は、重ねていた唇を離しながら笑ってくれる。
「もう、何度言えばわかるの。私は自分で見て感じたものを信じるから。あんなげすどもの言葉なんて信じるわけないでしょ」
おでこにも、腫れている頬にも、優しいキスをしてくれる。泣いてしまった僕を宥めるように何度もキスしてくれた。
0
お気に入りに追加
342
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる