抱き締めても良いですか?

樹々

文字の大きさ
上 下
138 / 152
抱き締めても良いですか?~エピソード0~

02-4

しおりを挟む

「途中まで送るよ」
「時間、大丈夫ですか?」
「うん。ギリギリまで一緒にいたいから」
 右手を握ってくれる。僕より大きな手だ。その手に引かれ歩きながら、隣を歩く人を見上げた。
「好きでしたか?」
「ん?」
「琴南さん。お見合い相手だった人で、僕から見ても、良い人だなって思いました」
 慎二を見つめる瑛太の目は優しかった。もしかしたら、彼のことを好きなのかもしれない、そう感じたほどに。
 思わず握り締めてしまった僕に笑っている。
「うん、実は第一印象が凄く良かった。私としてはお付き合いしてみたいな、と思ったんだけど、彼から断られてしまって」
「……そう、ですか」
「断られたけれど、お見合いとは別に、もう一度連絡したいと思った。でもね」
 立ち止まった瑛太は、僕を微笑みながら見下ろしている。
「初めてだったんだ。浩介君が私達に、願いを言ってくれたのは」
「願い?」
「うん。琴南さんの番になりたい、そう、浩介君が願ったから」
 瑛太の顔が近づいてくる。唇に、彼の唇が重なった。
「真澄も、浩介君も、大切だから。大事な家族だから。浩介君が初めて好きだと思う人を見つけたんだ、応援したい」
「……もし、沢村さんが琴南さんを好きにならなかったら?」
 瑛太のシャツにしがみついた。長い腕に抱き込まれる。ポンッと頭を叩かれた。
「もしも話は嫌いだけど。そうだな~、付き合っていたかもしれないけど、恐らく私は振られただろうね」
「どうしてですか?」
「子供ができないことを気にしていたから。私は気にしていないんだけど、本人の意識までは変えられないから」
 チュッとおでこに吸い付かれている。顔を覗き込むようにかがんでいる。
「ということで、私は今、茜さんに夢中だから。もしも話は終わり」
「……はい」
「デート、どこか行きたい所はある?」
「瑛太さんが連れて行ってくれる所ならどこでも」
「ふふ、じゃ、私のお勧めを回ろうか」
「はい!」
 見上げた人は優しく笑ってくれている。笑っているその顔を見て、あっ、と声が出てしまった。顔が熱くなっていく。
「ん? どうしたの?」
「あの……い、今……キス……!」
 唇が重なっていた。あの優しい唇が重なっていた。
 あまりに優しくて気付かなかった。
「……どうして泣くの? 嫌だった?」
「ちがっ……! こんな……優しいキスは初めてだから……!」
 今まで男Ωの僕と付き合ってくれたαは、強引な人が多かった。僕を、そういった対象でしか見ないαばかりで。それでもヒートから解放されたくて、我慢して付き合ってきた。別れたばかりの智也もそうだった。
 皆、僕を性欲処理のように扱った。キスだって、まともにしてくれた人はいない。
「……茜さんが今までどんな人と付き合ってきたかは分からないけれど。良いよ、どんどん比較して」
 泣いてしまった僕の頬を大きな手が包んでくれる。また、優しいキスをしてくれた。
「さいっこうに、甘やかしてあげるから。だから安心して笑って?」
「……本当に?」
「うん。あ、そうだ、忘れるところだった」
 僕の涙を拭ってくれた瑛太は、スーツのポケットから小さなキーホルダーを取り出した。それを僕の手に握らせた。
「お守り。肌身離さず持っていて」
「お守り?」
「そう。茜さん、美人だから心配で」
 もらったキーホルダーは小さなうさぎのぬいぐるみが付いている。可愛い贈り物に知らず顔が緩んだ。
「可愛い」
「うん、本当、可愛い」
 広い胸に抱き締めてくれる。温かいその胸を離したくなくて、逞しい腰にしがみ付いた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

純情なる恋愛を興ずるには

有乃仙
BL
 事故に遭い、片足に後遺症が残ってしまった主人公は、陰口に耐えられず、全寮制の男子校へと転校した。  夜、眠れずに散歩に出るが林の中で迷い、生徒に会うが、後遺症のせいで転んだ主人公は、相手の足の付け根の間に顔が埋まってしまう。  翌日、謝りに行くものの、またしても同じことが起きてしまう。  それを機に、その生徒と関わることが増えた主人公は、抱えているものを受け入れてもらったり、彼のことを知っていく。  本来は、コメディ要素のある話です。理由付けしたら余分なシリアスが入ってしまいました。主人公の性格でシリアスをカバーしているつもりです。  話は転校してからになります。  主人公攻めで、受けっぽい攻め×攻めっぽい受け予定です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

僕の穴があるから入りましょう!!

ミクリ21
BL
穴があったら入りたいって言葉から始まる。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...