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抱き締めても良いですか?~エピソード0~
02-4
しおりを挟む「途中まで送るよ」
「時間、大丈夫ですか?」
「うん。ギリギリまで一緒にいたいから」
右手を握ってくれる。僕より大きな手だ。その手に引かれ歩きながら、隣を歩く人を見上げた。
「好きでしたか?」
「ん?」
「琴南さん。お見合い相手だった人で、僕から見ても、良い人だなって思いました」
慎二を見つめる瑛太の目は優しかった。もしかしたら、彼のことを好きなのかもしれない、そう感じたほどに。
思わず握り締めてしまった僕に笑っている。
「うん、実は第一印象が凄く良かった。私としてはお付き合いしてみたいな、と思ったんだけど、彼から断られてしまって」
「……そう、ですか」
「断られたけれど、お見合いとは別に、もう一度連絡したいと思った。でもね」
立ち止まった瑛太は、僕を微笑みながら見下ろしている。
「初めてだったんだ。浩介君が私達に、願いを言ってくれたのは」
「願い?」
「うん。琴南さんの番になりたい、そう、浩介君が願ったから」
瑛太の顔が近づいてくる。唇に、彼の唇が重なった。
「真澄も、浩介君も、大切だから。大事な家族だから。浩介君が初めて好きだと思う人を見つけたんだ、応援したい」
「……もし、沢村さんが琴南さんを好きにならなかったら?」
瑛太のシャツにしがみついた。長い腕に抱き込まれる。ポンッと頭を叩かれた。
「もしも話は嫌いだけど。そうだな~、付き合っていたかもしれないけど、恐らく私は振られただろうね」
「どうしてですか?」
「子供ができないことを気にしていたから。私は気にしていないんだけど、本人の意識までは変えられないから」
チュッとおでこに吸い付かれている。顔を覗き込むようにかがんでいる。
「ということで、私は今、茜さんに夢中だから。もしも話は終わり」
「……はい」
「デート、どこか行きたい所はある?」
「瑛太さんが連れて行ってくれる所ならどこでも」
「ふふ、じゃ、私のお勧めを回ろうか」
「はい!」
見上げた人は優しく笑ってくれている。笑っているその顔を見て、あっ、と声が出てしまった。顔が熱くなっていく。
「ん? どうしたの?」
「あの……い、今……キス……!」
唇が重なっていた。あの優しい唇が重なっていた。
あまりに優しくて気付かなかった。
「……どうして泣くの? 嫌だった?」
「ちがっ……! こんな……優しいキスは初めてだから……!」
今まで男Ωの僕と付き合ってくれたαは、強引な人が多かった。僕を、そういった対象でしか見ないαばかりで。それでもヒートから解放されたくて、我慢して付き合ってきた。別れたばかりの智也もそうだった。
皆、僕を性欲処理のように扱った。キスだって、まともにしてくれた人はいない。
「……茜さんが今までどんな人と付き合ってきたかは分からないけれど。良いよ、どんどん比較して」
泣いてしまった僕の頬を大きな手が包んでくれる。また、優しいキスをしてくれた。
「さいっこうに、甘やかしてあげるから。だから安心して笑って?」
「……本当に?」
「うん。あ、そうだ、忘れるところだった」
僕の涙を拭ってくれた瑛太は、スーツのポケットから小さなキーホルダーを取り出した。それを僕の手に握らせた。
「お守り。肌身離さず持っていて」
「お守り?」
「そう。茜さん、美人だから心配で」
もらったキーホルダーは小さなうさぎのぬいぐるみが付いている。可愛い贈り物に知らず顔が緩んだ。
「可愛い」
「うん、本当、可愛い」
広い胸に抱き締めてくれる。温かいその胸を離したくなくて、逞しい腰にしがみ付いた。
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