137 / 152
抱き締めても良いですか?~エピソード0~
02-3
しおりを挟む「瑛太さんって、美人が好きだったんですね。俺、断られるわけだ」
「いやだな。お断りされたのは私の方でしょ?」
「そうでしたっけ?」
「そうですよ」
瑛太が楽しそうに笑っている。その目がとても穏やかに見えて。
お見合いをした相手だと、すぐに分かった。ということは。
「もしかして、男Ωの方ですか?」
「そ。で、そちらも?」
「はい」
「やっぱり俺とは違うな~」
ニッと笑っている顔は可愛かった。鍛えているのか、腕も足もしなやかな筋肉に覆われている。真澄の頭を撫でながら笑っている顔は好印象だった。
「琴南慎二。同じ男Ωに会うのってなかなか無いから。よろしく!」
「はい。宜しくお願いします」
真澄越しに伸びてきた手を握った。僕たちを見ていた瑛太が楽しそうに笑っている。
「もうすぐ浩介君も来るから。皆でランチしよう」
真澄を軽々と抱き上げた瑛太がベンチではなく芝生の方へ歩いて行く。ベンチに置いていた鞄を慎二が持ち上げた。もともとここでランチをする予定だったのだろう。そこに僕も混ぜてもらえるようだ。
鞄の中にはビニールシートも入っていた。それを慎二と一緒に広げて置いた。ちょうど浩介も戻ってきたので皆で座った。浩介が買ってきたサンドイッチと重箱を広げている。どうしてか、慎二が重箱の中を覗き込むようにして見ている。
「ほんっと、沢村さんって器用ですよね」
「そうでしょうか」
「今日は猫キャラか!」
広げられた重箱の中身は、有名な猫のキャラクターを使ったキャラ弁だった。それを見た真澄の目が輝いている。
「可愛い!」
「いや、見た目で判断しちゃ駄目だって分かってるけど、やっぱり沢村さんがキャラ弁作ってるって信じらんねぇっていうか」
キャラ弁を観察しては笑っている。真澄の前に置かれたキャラ弁は、円らな瞳で見上げていた。
浩介が紙コップにお茶を注ぐと、皆でお弁当とサンドイッチを頬張った。おかずはどれも味付けが絶妙で、僕が作る物とは全然違う。箸が進んでしまう。
「美味しい!」
「浩介君の料理の腕は絶品だから」
「マジで美味い!」
口いっぱいにハンバーグを詰め込んでいる慎二は、本当に美味しそうに食べている。それを浩介が微笑むように見つめている。いつも無表情で感情を表に出さない浩介が笑っているのが珍しくて見つめてしまう。
そして気がついた。真澄が食べ進んでいない。可愛いキャラ弁を少し摘まんでは、口に入れてあまり噛まずに、苦しそうに飲み込んでいる。
食欲が無い、という感じでは無かった。時折、瑛太が背中をさすってあげている。時間をかけてゆっくりしか飲み込めない真澄に、声を掛けようとした僕の腕を隣に座っていた慎二がポンッと叩いた。無言で首を横へ振っている。
味覚が無いのでは、そう思った。それを、初対面の僕が言うのはあまり良くないかもしれない。小さく頷き、気付かなかったことにした。
真澄は一生懸命食べていた。猫のキャラクターは半分ほど欠けたところで、それ以上は減らなかった。
「今日はよく食べたね」
「外だから。新しい兄さんもできたし!」
「そうだね。浩介君、お願いね」
「はい」
食べ終わった弁当箱を片付け、ゴミをひとまとめにした浩介が立ち上がっている。慎二も立ち上がると真澄を背中に背負っている。
「じゃ、俺も帰ります。Ω病棟、もう少しみたいですね」
「ええ。ご協力、ありがとうございます」
「それでは行って参ります」
綺麗な一礼をして見せた浩介の隣に慎二も並ぶと帰っていく。瑛太と二人だけになったので袖を握った。
「真澄君、味覚が……?」
「うん。数年前から、味覚を失ってしまって。みるみる間に痩せていったよ」
「それでキャラ弁を」
「見た目だけでも美味しいと感じられるように、って。浩介君、器用でしょ?」
「はい。味付けも良いし。僕も見習いたいです」
浩介は何でもできると聞いている。瑛太の味の好みも知っているだろう。今度、こっそり教えてもらおう。瑛太が好きなおかずを得意料理にしたい。
0
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる