130 / 152
抱き締めても良いですか?~エピソード0~
01-3
しおりを挟む~*~
こんな私が、誰かの番になって良い訳がない。
私の血は、決して残してはいけない。
私の中に流れる、α性。
取り去ることができるのであれば、排除したかった。
ずっと、そう思って生きてきた。
琴南慎二に出会うまでは。
「……もうすぐヒートなんですけど」
開けたドアから睨まれている。手に持っていた袋には、レンジで温められるように小分けにしているおかずが入っている。それをアパートの主、琴南慎二に見せた。
「おかずを持ってきました」
「……どうも」
いつものように受け取ろうとした慎二を見つめた。
「私と、番になって頂けませんか?」
ずっと、練習してきた。αである私と、Ωである慎二。番になってほしいというのは、β同士で言うところのプロポーズだと主である桃ノ木瑛太は言っていた。
「……意味、分かって言ってます?」
「はい」
「俺は男で、Ωで、でも子供は作れない……体は筋肉質だし」
「はい」
「はいって……」
困惑している慎二に一歩近づいた。
「番になって頂けませんか?」
駄目だと言われたら帰るつもりだ。慎二のために、番になれるαを探そうと思う。お見合いをした瑛太と慎二は、お互いに断ったけれど。
瑛太は素晴らしい人だ。Ωを守ってくれる人だ。私を受け入れてくれないのであれば、瑛太に相談して、良い相手を見つけてあげたい。
でも。
もしも。
こんな私でも、側に居ることを許してもらえるのであれば、番になって慎二を守りたい。あの輝くような笑顔を、もう一度見たい。
「何で……番に?」
「あなたを守りたいのです」
「守ってもらうほど、弱くないけど」
「はい、知っています」
「……意味分かんないんですけど」
「番になって頂けませんか?」
もう一度、伝えた。開けたままのドアにもたれかかった慎二は、暫く私を見つめると背中を見せた。
「……好きにすれば」
「入っても宜しいでしょうか?」
「沢村さんが嫌じゃなければどうぞ」
先に室内に戻っていく慎二の後を追うように部屋に上がった。鍵は掛けておく。もうすぐヒートが来るはずだから。
室内の窓にも鍵をかけ、カーテンが引かれている。窓にはガムテープまで貼っていた。
「いつもこのように?」
「Ωのフェロモンが漏れると近所迷惑だから」
「隣はαなのですか?」
「βだったと思いますよ。入居する時、その辺は確認してますから」
気怠そうにソファーに座っている。持ってきていた冷凍おかずを取り出しながら聞いた。
「何か食べておきますか?」
「……遠慮します。吐くかもしれないから」
それほどヒートは辛いのか。冷凍庫を開け、おかずを入れていく。終わったら食べさせてやりたい。お弁当は冷めているから、温かい物を食べさせてやりたかった。
「……本気ですか?」
振り返ると慎二が私を見つめている。
「はい」
頷く私に、どうしてか泣きそうな顔をしている。
「……逃げるなら、今のうちですよ」
「逃げる?」
「番になるって意味、本当に分かっていますか? 俺ですよ?」
自分を指さしている。
「琴南様と番になりたいと思っています」
「……何で?」
「番になりたいからです」
他にどう言えば伝わるのだろう。プロポーズの言葉以外に何かあるのだろうか。
恋愛はしたことがない。しようとも思わなかった。してはいけないと思っていた。
どうすれば良いのだろう。ソファーで膝を抱えてしまった慎二の側に寄った。膝をついて見上げると、彼も私を見つめていて。
「……番になったら、俺と一緒になるんですよ?」
「はい」
「子供が欲しいと思っても、俺にはどうすることもできないんですよ?」
「はい」
「俺は可愛くもないし美人でもないし体鍛えてるし……」
「はい」
膝に顔を埋めてしまった。拒みたいのだろうか。
「お嫌、ですか? 琴南様が他のαを望まれているのであればそうおっしゃって下さい」
瑛太を、本当は見初めていたのかもしれない。それならば私は出て行かなければ。慎二が望まないことをしたくはない。立ち上がり掛けた私に顔を上げている。
「……部屋に上げたでしょう?」
「琴南様?」
「覚悟してても……怖いんです。めちゃくちゃ怖い……!」
何がそんなに怖いのだろう。また膝に顔を埋めてしまった。まるで桃ノ木真澄が雷に怯えて泣いているようで。そっと頭に手を乗せた。そうすると真澄は落ち着くから。
震えている体が落ち着くように頭を何度も撫でた。少しウェーブの掛かっている黒髪が外はねしている。
「怖いというのは? 私はどうしたら良いですか?」
何度も頭を撫でていると顔を上げている。唇を噛み締めながら見つめられた。
「……経験が、無くて……」
「経験?」
「だから……女もだけど、男と…………ぁっ!!」
ビクッと体を震わせた慎二が項を押さえている。カタカタ震える体から大量のΩのフェロモンが溢れてきた。私の鼻を刺激してくる。吸い込んでしまったΩのフェロモンに体中が熱くなる。
何度も、Ωのヒートに遭遇してきた。すぐに抑制剤を打って自分を抑え、苦しんでいるΩを瑛太と一緒に助けてきた。上着のポケットには常に抑制剤が入っている。
でも、今夜は慎二と番になるために来ている。彼も私を部屋に上げてくれた。
番になりたい。
慎二の番になって、彼の側で守っていきたい。
0
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
警察官は今日も宴会ではっちゃける
饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。
そんな彼に告白されて――。
居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。
★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。
★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。
お見合い相手はお医者さん!ゆっくり触れる指先は私を狂わせる。
すずなり。
恋愛
母に仕組まれた『お見合い』。非の打ち所がない相手には言えない秘密が私にはあった。「俺なら・・・守れる。」終わらせてくれる気のない相手に・・私は折れるしかない!?
「こんな溢れさせて・・・期待した・・?」
(こんなの・・・初めてっ・・!)
ぐずぐずに溶かされる夜。
焦らされ・・焦らされ・・・早く欲しくてたまらない気持ちにさせられる。
「うぁ・・・気持ちイイっ・・!」
「いぁぁっ!・・あぁっ・・!」
何度登りつめても終わらない。
終わるのは・・・私が気を失う時だった。
ーーーーーーーーーー
「・・・赤ちゃん・・?」
「堕ろすよな?」
「私は産みたい。」
「医者として許可はできない・・!」
食い違う想い。
「でも・・・」
※お話はすべて想像の世界です。出てくる病名、治療法、薬など、現実世界とはなんら関係ありません。
※ただただ楽しんでいただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
それでは、お楽しみください。
【初回完結日2020.05.25】
【修正開始2023.05.08】
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる