抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

36.恋に落ちたあの日

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「え! 茜さん、それは結構難易度高いよ」
 コーヒーを淹れていた私は、ソファーに座っている茜に笑ってしまう。彼もまた苦笑していた。
「どうしても教えて欲しいって頼まれて」
「浩介君がねー」
 コーヒーを渡してあげると私も座った。今頃、真澄と愛歩はラブラブしている頃だろう。初遊園地でのデートはどんな感じだったか、後で聞こうと思っている。高級ホテルのスイートルームは、少し背伸びをさせてしまうかもしれないけれど。真澄はもう、大人だから。
「お詫びに浩介君達にも取ってあげたけれど……琴南さん、大丈夫かな」
 茜の腰に腕を回しながらコーヒーを飲んだ。彼も一口飲みながら笑っている。
「Ωの感じるところを教えて欲しいって。恥ずかしかったんですけど、凄く真剣で」
 だからあれを咥えられると、愛されていると感じることができると話したようだ。苦笑してしまう。
 浩介と慎二はまだ、それほど深い体の重ね方をしていない。慎二を見ていれば分かる。男らしいままだから。
 浩介と一緒に体を鍛え、警察官として働いている限り、肉体的には筋肉質だろう。だが、Ωはαに愛され、抱かれる回数が増えると少なからず体に変化が出る。
 茜の体が細いなりに肌艶が良く、しっとりと抱き心地が良くなったように。毎晩のように愛し、育てた私のΩは美しく、しなやかな体に変化した。
「琴南さんも、いよいよ変わるかな」
「気になりますか?」
「まあ、少しは。琴南さんが変わるってことは、浩介君が変わったってことだから」
 触れることを恐れていた浩介が、慎二を精一杯愛したいと思ったからこそ、茜に相談したのだろうから。同じαの私ではなく、Ωの茜に相談したことも、内心嬉しい。
 とはいえ。
「……上手くできるかな」
 いきなり咥えることはできるだろうか。二人がどんな風に体を重ねているかは知らないけれど、浩介のことだ、真面目に吸い付きかねない。相手の反応を見ながらできるだろうか。
「……まずかったですか?」
 コーヒーを置いた茜が不安そうに見上げてくる。そのサラサラしている髪を撫でながら笑った。
「まあ、大丈夫でしょ。子供じゃないんだから」
「……僕としては、琴南さんが恥ずかしいかも、とは思っています」
「恥ずかしいだろうね-! その顔はちょっと見てみたいかも」
 男前慎二が真っ赤になっている姿を想像するとニヤニヤしてしまう。緩んだ口元を抓られた。
「やらしい顔してますよ」
「茜さんだって興味あるでしょ?」
「……それは、まあ。同じ男Ωだけど、僕と正反対ですから」
「浩介君が必死に愛してる姿を想像すると可愛くて! 後で聞かなきゃ!」
 成功したのかどうか、気になって仕方が無い。コーヒーを飲みながら顔が緩んでしまう私に笑っている。腰を抱き寄せながら耳に囁いた。
「茜さんはあれが好きなんだね?」
「好きというか……僕たちはΩだけど、男でもあるから。でも、瑛太さんには入れられないし?」
 じっと綺麗な瞳が見つめてくる。可愛い唇にキスをした。
「良いよ。して欲しい時は言って。搾り取ってあげる」
「期待しています」
 私の首筋に顔を埋めた茜が甘えてくる。コーヒーカップを置くと抱き締めた。
「したいの?」
「ううん。今夜は良いです。少しだるくて……」
 妊娠しているからか、茜は気怠さを感じるようになっている。細い体を抱き上げると膝に抱いた。身を預けるように頭をもたげてくる。私のα性が茜を落ち着かせるだろう。
「もうすぐ、代わりの先生が来るからね。それまで頑張って」
「はい。毎日、瑛太さんのフェロモン嗅いでるから落ち着いています」
 甘える茜を受け止めながら、柔らかい髪を撫でた。眠たそうに瞼を閉じていく。
「可愛いね」
 額にキスをすると擽ったそうに笑っている。瞼を開けた茜は、唇に人差し指を当てた。
「こっち」
 微笑むその唇を覆うようにキスをした。甘く舌を絡めていくと体から力が抜けていく。唇を離した時には頬が蒸気していた。

 本当に、美しく育った私のΩ。

 父と母のように、私もこの子と仲睦まじく過ごしたい。
 見つめる私に、見つめ返す茜。細くて長い指がスルリと私の頬を撫でていく。目元が赤くなり、瞳が潤んでいく。
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