抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

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「ぼっちゃんの体調が悪くなったら電話を下さい」
「オッケーです」
「では、行ってらっしゃいませ」
 浩介に見送られ、俺と真澄は夜の遊園地へと歩いた。左手はしっかり真澄の手を握っている。
「……こうしてやる!」
 怒鳴っている慎二の声に振り返ると、浩介の髪をくしゃくしゃに掻き回していた。ボサボサになった髪に満足そうに笑っている。真澄が吹き出した。
「不思議なカップルですね」
「うん。慎二さん、いつも元気で羨ましい」
 俺の手を握り返した真澄が見上げてくる。
「気を使わせちゃったかな」
「え?」
「僕ね、初めて遊園地に行くから緊張しちゃって。昨日、あんまり眠れてなくて」
「きつかったら言って下さいね」
「大丈夫。愛歩君の手は魔法の手だから」
 駐車場から遊園地の中へと入っていった。観覧車を始め、乗り物や建物が色々な光で輝いている。
 その光景に、真澄の目も輝いている。小走りになると俺の手を引っ張っている。
「愛歩君、あれは?」
「ジェットコースターですよ」
「速いね。それにすっごく高い!」
 ジェットコースターから歓声とも悲鳴ともつかない声が聞こえてくる。驚いたのか、俺の腕にしがみついてきた。
「怖そう」
「それが良いんですよ」
「怖いのに乗るの?」
「真澄さんは可愛い方でいきましょうか」
 夜のジェットコースターに乗りたいけれど、真澄は遊園地じたいが初めてだ。気絶させてはいけないので、メリーゴーランドへ連れていく。ゆっくり周るこれなら怖くはないだろう。
 馬の背に座らせ、近くの馬に俺も座った。子供の頃以来だ、メリーゴーランドに乗るのは。
 何組かのカップルが座り終わると、軽快な音楽とともにメリーゴーランドが回り始める。上下にも動くので、真澄が慌てて棒に掴まった。ゆっくり回るメリーゴーランドに慣れたのか、俺を見て笑っている。
「可愛いね」
「俺はちょっと恥ずかしいかも」
「そう? 愛歩君も可愛いよ」
 天井にも仕掛けがあるのか、キラキラ光っている。上を向いたり、周りを見たりと忙しそうだ。その顔は今まで見た中で一番輝いている。
 病院以外で家の外へ出るのは数年ぶりだという真澄の体力を考え、遊ぶ時間は二時間だけと言われている。メリーゴーランドから降りると、観覧車の方へ歩いて行く。
「あれに乗るの?」
「上まで行くと綺麗ですよ」
「怖くない?」
「高い所、苦手ですか?」
「わかんない。あんなに高い所に行ったことないよ」
 不安そうな真澄の手を引いた。
「大丈夫。座って綺麗な景色を見ましょう」
「……うん。経験だね」
 行列の後ろに並ぶと、大きな観覧車を見上げた。真澄の顔が少し不安そうで。握っている手を俺のジャケットのポケットに入れた。自然と体が寄り添うように。
「この二人、付き合ってるのかな」
「ああ、片方Ωとか?」
「あるある」
「男Ωめっずらし~」
 後ろの女二人がコソコソ、話している声が聞こえてくる。振り返ると目が合った。
「男Ωだけど何?」
「え、そっち?」
「うそ、でかすぎ」
「でかすぎてごめんね~」
 片手を上げながら並んだ慎二と浩介。俺達とで女二人が挟まれた。
「どうも、男Ωの番持ちです。ちなみに警察官をやっております。あ、今はプライベートね」
 敬礼をして見せた慎二の手は、指を絡めるように浩介に握られている。キッチリスーツを着た、百九十㎝近くある長身の浩介が、女二人を無言で見下ろしている。
「……い、行こ」
「う、うん」
 列から二人が離れていく。その背中を浩介の視線がずっと追っていた。無言のプレッシャーが半端ない。
「ごめん、こいつ過保護でさ。愛歩君に任せとけって言ったのに、この通りよ」
 握り締められている手は外れそうにない。指と指を絡めて握っている二人に、真澄が見つめてくる。
 ポケットの中で握りなおした。指を絡めてやる。嬉しそうに笑われると弱かった。
「じゃ、お邪魔虫は離れて……」
「乗りましょう」
 列から離れようとした慎二は、握られている手が全く動かず仰け反っている。
「は? お前、こういうの乗るタイプじゃないだろう?」
「いいえ、乗ります」
「どうした? まさかまた熱でもあるのか!?」
 おでこに触れた慎二。無言で見つめる浩介。
 俺と真澄は、後ろの二人が気になりながらも順番が来た観覧車に乗り込んだ。
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