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抱き締めても良いですか?
34-2
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両親に見守られて、無事に卒業式を迎えることができた。
皆と一緒に騒いで、写真を撮り合って。
平田先生に寄せ書きを渡した時、とうとう堪えられずに号泣した姿に笑った。笑いながら泣いた。
「なんだかんだで楽しかったよなー」
「ああ。修学旅行は参加できなかったけど、他の学校に比べたら、結構、他の行事には参加させてもらったし」
「平田先生が引っ張ってたからな。俺さ、お前がヒートになって入院してる間にさ、平田先生に呼ばれたんだ」
両親には先に帰ってもらっている。最後の帰り道を有紀とのんびり帰りたくて。
「何で?」
「愛歩と番になる約束はしてるのか、って」
「は?」
「は? だろ。何でそんなこと聞くんだって聞き返したらさ、お前がヒートになった時、フェロモンに負けて番になるかもしれない。そうなった時、二人とも後悔するからって」
「で?」
「愛歩の前の席をβの女子にするって。いっつも俺が前じゃん? もろに受けた時、危ないからってさ」
クラスメイトのΩ女子の周りは、βの女子で固めている。隣にαが来ないようになっている。俺もそうした方が良いと平田先生は考えたようだ。
「でさ、俺は必要ない、愛歩の前は俺で良いって言ったんだ。なんなら俺が運ぶし」
「……番持ちだって言ったのか?」
「言ってないよ。ただ、察したみたいでさ、聞かなかったことにするって。自分がいない時は、守ってやってくれって頼まれた」
有紀は背伸びをしている。
「俺さ、平田先生みたいになるよ。Ωを守る優しいαになる」
「有紀は充分、優しいαだって」
「知ってる。でももっと強くて優しいαになるよ」
体も鍛えて、助けを求めるΩの味方になると言っている。優しい友人の肩を叩いて激励した。
「有紀ならなれる。ってか、俺的には超良い奴」
「お前もな。困ってる人、ほっとけない性格、親友として誇らしい」
パンッと手を打ち合った。辿り着いた我が家に向かいながら手を振った。
「大人デート、決めてこい!」
「そっちもな! イケテル告白してこいよ――!」
有紀も手を振ると家に入っていった。俺も家の中に入ると自室へ向かう。真澄が楽しみにしている遊園地デートに向かうため着替えなければ。
強制的に引き起こされたヒートの時の記憶は、所々曖昧だった。体が興奮状態になっている所は記憶が抜けている。
勢い余って好きだと言った気がするけれど、もう一度、きちんと伝えたい。
そわそわしている俺に両親が笑っている。男Ωの将来を心配していた両親に、心から礼を伝えた。
迎えの時間になっている。今日は泊まってくると伝え、玄関を飛び出した。ちょうど車が家の前に停まった。
運転席に浩介、後部座席には真澄が座っている。
そして助手席にもう一人、座っている。まさか兄の瑛太が付いてきたのか?
窓から覗き込むと、見知った顔だった。
「あれ、琴南さん? どうしたんですか?」
後部座席に乗り込みながら聞けば、助手席から振り返っている。眉間に寄せるだけ皺を寄せて。
「拉致されました」
「人聞きが悪いですね。桃ノ木様がどうしてもぼっちゃんの体調が心配だとおっしゃるもので、私もお側で見守るように申しつかりました」
「で、何で俺を拉致するかな?」
「デートをしていらっしゃるところに、私一人がついていくと気兼ねなさるでしょう?」
「わかる、わかるけど俺仕事だったからな!?」
「有給は使うものです」
「そうだろうよ! お前が勝手に有給申請してて驚いたし! 署の皆が震えてたんでお前がどんな形相で有給取ってきたか聞くの怖いんだけどな!」
「今日は一緒に居て下さると約束して頂きました」
「だから、ちゃんと定時で上がるつもりだったし!」
助手席で頭を抱えている慎二。気にしていない浩介は、遊園地まで安全運転で移動する。後部座席で真澄と一緒に笑ってしまう。
「諦めた方が良いですよ。秘書さん、決めたら引かない感じだし」
「慎二さん、一緒にデートしよう!」
「……まあ、今更ジタバタしても拉致されてるしな」
大きな溜息を吐いた慎二は、諦めたように背もたれにもたれている。黙々と運転している浩介は、ウィンカーを上げて遊園地の駐車場へと入っていく。
卒業式を終えた学生がかなりいるようだ。薄暗くなってきた中に、遊園地の観覧車の明かりが良く映えている。
浩介は空いていたスペースに車を停めた。車を降りた浩介が後部座席を開けてくれた。慎二を遊園地デートに連れ出したというのに、キッチリスーツを着ている。俺の送迎の時は髪を下ろしていたけれど、今日は乱れのないオールバックだった。
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