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抱き締めても良いですか?
33.番の愛
しおりを挟む医者になって後悔することがある。
救いたくない人間でも、救わなければならない時だ。
医者だって人間だ、感情がある。人を憎むこともある。
けれど、医者は人を救うものだと、救うのが当たり前だと、世間は思っている。
「桃ノ木先生、お疲れ様でした」
「うん、お疲れ。後はよろしく」
Ωを襲っていた碕山陸人の手術は終わった。私と、一人助手を付け、特に問題なく終了した。骨折していた顎と腕、潰されていた下半身も義務的に処置を済ませた。
命に関わることは無い。生殖能力も回復するだろう。
回復させて、良かったのか?
手術着を脱ぎ、静かな廊下を歩いて行く。深夜になってしまった手術は、救急外来の方で行った。緊急処置に優れたスタッフなので、後のことは全て任せている。
黙々と歩き、執務室まで向かった。自分の歩く足音が酷く耳に響き、苛立ちを覚える。眼鏡越しに見える病院内は暗く、まるで私の今の心のようだった。
執務室のドアを開けると、明かりが点いていた。開けた先に、寺島茜がいて。ソファーから立ち上がっている。
「……ごめん、茜さん。今、とても苛立ってるから離れていてほしい」
ドアを大きく開けた。茜は今日、夜勤ではない。どうしてここに居るのだろう。今の私の側に居るのは危険だ。家に帰そうと思った。
「抱き締めても良いですか?」
細い両腕を広げながら近づいてくる。
「駄目だよ、茜さん。傷つけるかもしれないから」
「僕は、あなたの番だから。苦しい時、側にいられないなら、番でいる意味が無いから」
ドアを開けていた私の手を握っている。引き寄せると閉めている。鍵を掛けた茜は、私の眼鏡を外した。
「瑛太さんの目、こんなに尖るんですね」
「……知らないよ? どうなっても」
「はい」
「君って子は……!」
彼が握っていた私の眼鏡を取り上げると捨てた。カシャッと音が鳴って割れている。
細い体を抱き上げるとソファーに押し倒した。病院内ではしない、そう、二人で約束していたけれど。
感情が、苛立ちが、抑えられない。
彼のズボンに手を掛けると下着ごと脱がせた。まだ濡れていない場所へ指を当ててしまう。黙って受け入れる茜は止めようとしない。
両足を抱え上げた。濡れていない場所へ舌を当て、そのまま唇で挟むように啄んだ。
「ぁ……!」
舌で舐め上げると濡れてくる。Ωのフェロモンが漂い始め、中から溢れてくる潤いをかき分けるように指を入れた。三本で掻き回す私に震えている。
私がしたいように身を任せている。指を抜くと、自分のスボンをくつろげ、腫れていた自身を茜の中に入れた。
「ぅんっ!」
奥まで押しつけるようにして抱いた。覆い被さりながら何度も奥を抉った。その度に細い茜の足が揺れている。
無意識にしがみついてきた茜。その細い項に噛みついた。仰け反る体を追い掛け、奥を何度も打った。
「ぁっ! ぁっ! ああっ!!」
弾けた私の熱。茜の中に注ぎ込んだ。ギュッとしがみついた茜は、私の背中を抱いている。カタカタ震えているのは、快感からか、恐れからか。
「……最低だ。番に当たるなんて……」
「僕が……望んでここに居るんです」
私を受け入れたまま震える手で背中を撫でてくれる。
「辛い……ですね。また被害者を生むかもしれない加害者を助けるのは……」
細い手が頭も撫でてくれる。私の怒気を吸い取るかのように。
「僕は、あなたの番だから。辛い時は側に来て下さい。一緒に、居させて下さい」
額に、キスしてくれた。
強ばっていた体から力が抜けていく。茜の体に力なく覆い被さった。
「ごめんね、茜さん。病院ではしないって約束だったのに」
「覚悟して来ましたから。瑛太さん、今日は帰って来ないと思ったし」
「うん、帰らないつもりだった。きっと、酷くしてしまうと思ったから」
茜の腰を支えると繋がったまま私の膝に乗せた。奥を刺激するのか、腰が震えている。
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