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抱き締めても良いですか?
31-3
しおりを挟む「よかった。ヒートが収まったら連絡してほしいって、浩介さんが」
真澄はベッド側に置いていた携帯を取っている。浩介に掛けているその姿を見つめながら、そっと背中から抱き締めた。もう少し、真澄を感じていたい。首筋に顔を埋めてしまう。
「ま、愛歩君?」
[はい、沢村です]
「ぁ……」
[え?]
「あ! ご、ごめんなさい! 愛歩君、ヒート収まったよ」
俺が首筋にキスをしたからか、真澄が慌てている。まだ、匂いを嗅いでいたい。汗から香るフェロモンを吸った。
「……ちょ、ちょっと待って、愛歩君……!」
[ぼっちゃん?]
「な、何でもないから!」
[……そう、ですか。ヒートが収まったら、寺島様のもとへ行くようにとのことです。精密検査を受けて、ヒートが終わった証明を出してもらうようにと]
「わ、分かった」
[今日はもう遅いので、明日の朝で宜しいかと。明日、迎えに伺います」
「ありがとう、浩介さん。……大丈夫?」
下を触ろうとした俺の手を抓っている。振り返ると声に出さずに、待って、と言っている。
「慎二さんは一緒?」
[……今は、一人です。遅くなっても戻るとおっしゃったので待っています]
[ただいま! 浩介! あれ、電話中?]
電話の向こうから慎二の声が聞こえた。俺も顔を近づけると真澄と一緒に声を拾う。
[お帰りなさい]
[誰と電話してるんだ?]
[ぼっちゃんです。田津原様のヒートが終わったそうです]
[そうか! 良かった。ちょっと替わってくれ]
慎二に携帯を渡したのだろう、彼の声が大きくなる。
[愛歩君、起きてるかい?]
「うん、替わるね」
真澄から携帯を受け取った。
「もしもし、琴南さん?」
[どう? 意識ははっきりしてる?]
「大丈夫です。明日、精密検査を受けるようにって言われてます」
[そうした方が良い。犯人の方もヒートが終わったらしい。瑛太さんが手術に入ったって連絡があった]
俺はヒートになっていたから、知っているのは犯人の腕から変な音がして曲がったところまでだった。手術が必要なくらい、酷い怪我をしたのだろうか。
[君が無事で良かった。ゆっくり休んで……お、おい!?]
携帯の向こうで何かガタガタ音がしている。数秒、間を置いた後、慎二が戻ってきた。
[ごめんごめん。ちょっと甘えん坊な大男がいてね]
「甘えん坊?」
[今、抱き枕状態だよ]
笑っている慎二に、なんとなく想像ができた。ベッドに連れて行かれたのだろう。慎二が帰ってくるまで起きて待っていたのだから。
「秘書さんと話せますか?」
[浩介、愛歩君が話したいって]
慎二から浩介に替わってくれる。
[田津原様、お守りできず、申し訳ありま……]
「ありがとうございました! 叫べば秘書さんが気付いてくれるって思ったから。駐車場からあんなに早く来てくれるとは思わなかったけど」
長身の全速力は凄まじかった。俺が叫んで数分も経っていなかった。歩いて十分の距離を一気に詰めて、犯人の動きを封じてくれた。
「秘書さんのおかげで、他のΩは無事だったから。感謝しています」
[……本来なら、田津原様をお守りしたかったのですが]
「守ってくれたじゃないですか。ヒートにはなったけど、犯人には触れられてないからセーフです!」
[……お心遣い、感謝します]
小さな安堵の声に、俺と真澄は顔を見合わせて笑った。
[愛歩君、ありがとうな。君もゆっくり休んで。何も心配しなくて良いから]
慎二の声を最後に、通話を切った。今頃、浩介を受け止めているのだろうか。
「愛歩君、優しいね。ありがとう」
「秘書さん、気にしてんじゃないかって思って。俺が高校の前までは恥ずかしいって断ってたんだし、まさか校門から出たら犯人が居るなんて思わないし」
真澄を引き寄せると、項に鼻先を押しつけた。
「真澄さんのここ、良い匂いがする」
「そ、そう? 二人ともどろどろなんだけど……」
「だからかな。良い匂いが充満してる」
真澄の汗は、俺には香水のように感じる。首筋を舐めるとビクッと体を揺らしている。
さすがに、これ以上は、駄目だろう。
思いとどまり、小柄な体を背中から抱き込むと、真澄の首筋に顔を埋めて目を閉じた。
「明日、一緒にシャワーしましょう」
「……うん」
恥ずかしそうに、腰に回していた俺の手に自分の手を重ねている。
俺より小さなその手は、何よりも温かかった。
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