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抱き締めても良いですか?
27-3
しおりを挟む「はい、聞かせて」
「……あの人が、話したら絶好すると」
申し訳なさそうに項垂れている。
「ええぇ!? そんな!」
「申し訳ありません」
深く頭を下げられてしまう。もの凄く気になるけれど、慎二に絶好と言われてしまっては、浩介は絶対に話してくれないだろう。
「うぅ。これだけは教えて」
「……何でしょうか?」
「琴南さんの後輩さんに、何を言われたの?」
腕を怪我していた慎二を頑なに抱けないと言っていた浩介が、昨晩、意思を変えてまで慎二を抱いたのは、何かきっかけがあったはずだ。
慎二が誘ったのかもしれない。でも、熱を出した日の夜はしていなかった。
今までの浩介なら、きっと昨日もしていなかったはずだから。
「……絶好の対象にはならないでしょうか?」
「大丈夫だよ、たぶん。琴南さんじゃなくて、後輩さんの事を教えて」
大きな手を取ると見つめた。じっと見つめ返した浩介は、意を決したように話してくれた。
「Ωが求めている時に、番のαが応えないのは不仲としか思えないと言われました。私があの人の求めに応じないせいで、犯人を前にして集中力が乱れ、本来のあの人なら交戦中には取らない電話まで取った、と」
顔がだんだん暗くなっていった。握っていた彼の手が少し震えている。
「このままではもっと大きな怪我をするかもしれない。私の優しさは、自己満足でしかないとも。本当にあの人が大切なら、Ωの気持ちを察して欲しい、と」
浩介が私をすがるように見つめてくる。
「私の優しさは自己満足でしょうか?」
「……うーん、後輩さん、手厳しいね」
「あの人が、泣くのは、嫌なのです」
「うん。分かってる。そうだなー、後輩さんの言うことも、一理あるね」
Ωの求めに、番のαが応えていない、後輩から見れば納得がいかないのだろう。
「それで、昨日は求めに応じたんだね」
「……私も、触れたいと、思っていますから」
「うん。それで良いと思うよ」
あまり根掘り葉掘り聞いてしまうと、慎二との約束を破ったことになるだろう。逞しい肩をポンポン叩いてあげる。
「私と浩介君は、家族で、友達だから。いつも相談してくれるよね」
「はい」
「琴南さんにも、もうそろそろ話しても良いと思う」
私の言葉に、浩介の顔が曇る。励ますように肩を握り締めた。
「離れて行かないよ、絶対」
「……そう、でしょうか」
「もちろん。あれだけ凄い嫉妬されたんだから。琴南さんを、信頼してるだろう?」
「はい……しかし……」
俯く浩介を揺さぶった。
「しっかりしなさい。琴南さんの嫉妬が凄かった原因の一つは、君のことを知らない苛立ちもあったと思うよ」
浩介はまだ、自分のことを何も話していない。私達、桃ノ木家にいる理由も、彼の亡くなった母のことも。
自分の知らないことを私は知っている、その苛立ちが強く出ても不思議ではない。
「話して……あの人がいなくなってしまったら……!」
「それは琴南さんを侮辱してるよ、浩介君」
悩む友達の頬を挟むように軽く打った。
「君が好きでたまらない琴南さんが、君のことを知らないのは、番として寂しいと思う」
「……はい」
「落ち着いたらで良いから。少しずつ、二人で話して」
「はい」
「で、多少の怪我なら琴南さん、平気みたいだから。遠慮無く抱いちゃって、お互い治し合うと良いと思う!」
「……縫う怪我は多少ではありませんが」
少し笑った浩介に私も笑った。元気を取り戻した友達の背中を思い切り叩くと立ち上がる。
「真澄が仕事をしたいと言っていてね。リモートワークをさせようと思ってるんだ」
「リモートですか」
「うん。音声を文章に起こす仕事からさせようと思ってるんだ」
「パソコンは扱えるのですか?」
「最近、私が使っていたパソコンでタイピングの練習をしていたみたい。本当に、こんなに回復してくれるなんて夢のようだよ」
お手伝いさんの中でパソコンが使える人に習いながら練習をしていたらしい。愛歩には内緒で仕事をして、自分で稼いだお金でプレゼントを買いたいと言っている。
それに。
私には内緒にしているけれど、茜には時々相談していたようだ。愛歩を見ていると、ドキドキして下が反応してしまう、と。
α性が開花し、男としての機能も取り戻している。
「あの子が、どの道を選ぼうと反対はしないつもり」
「……どの道、とは?」
「αもΩも関係ない。二人が選んだ道なら、応援したいってこと」
「私は、ぼっちゃんが幸せであって頂けたら満足です」
浩介も弟のように見守ってきた真澄を大切にしてくれている。私達の願いは、真澄が元気に誰かを愛せるようになることだ。
「浩介君に任せているタイピングの仕事、真澄にも一部、任せるから。ただし、慣れるまでチェックはお願いね」
「はい。お任せを」
重要な会議の記録はさすがに外部には出せない。浩介が秘書であるから任せられるものだ。音声記録の中で比較的短く、外部へ発信できるものを選んでもらう。
事務仕事を浩介に任せ、私は一般病棟の方へ向かった。事態が落ち着くまでは、私は裏方に回っているけれど、入院している担当していた患者の様子見は行っていた。
何事も無ければ良い。
次の犠牲者が出る前に、犯人が捕まるようにと願った。
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