87 / 152
抱き締めても良いですか?
27-2
しおりを挟む「おはようございます。碕山さん、ヒートの薬はお持ちではありませんか? 今までどこで処方してもらっていましたか?」
「……あなたは?」
「医師の桃ノ木と申します。本来は外科担当ですが、Ω病棟の管理も任されています」
椅子を引き寄せると碕山と向かい合った。茜を少し後ろに下がらせる。
「ヒートの薬も種類がありますから。ヒート期が安定しているようなら、前もって飲むものもあります。街中で急にヒートにならずに済みますから」
「知ってますよ。長いんで。ただ、それって手持ちがあればの話しでしょう? 見ての通りギリギリの生活なんです」
碕山は吐き捨てるように言っている。私を睨みさえしながら。
「先生、αですよね?」
「はい」
「なるほど、二人は番なんですね?」
「そうです。大切な番です。なので、この子を害する者は誰であれ容赦しません」
私を睨む碕山を見つめ返した。舌打ちしながら視線を外している。
「うっざ」
「よく言われます。ラブラブすぎて勘弁してくれって」
「あんたみたいな奴、嫌いだな」
「そうですか」
「……あの警察官は、男Ωって言ってた人。あの人は、良い」
碕山が思い出したように口元に笑みを浮かべている。
「なあ、男Ωの警察官って他にいるの?」
「さあ。どうでしょう」
「知ってるんだろう?」
「私はこの病院に務めていますから。警察署の内部は知りません」
どうして、警察官にこだわるのだろう。碕山の表情を観察した。親指の爪を噛んだ碕山は少し苛立っている。
「男Ωで警察官って、そんな数いないよな?」
「それより、抑制剤を処方しますね。ヒートが短いとはいえ、街中でなるのは危険ですから。安定しているならヒート期前からどこかに身を置いて……」
「言われなくてもわかってる!」
声を荒げた碕山は立ち上がっている。私を睨み付けながら見下ろした。
「退院、しても良いですよね? 何日も泊まれるほど持ち合わせがないんで」
「仕事、よければ紹介しますよ」
「αの同情なんていらない」
苛立ったように診察室を出て行こうとする。その手を取った。振り解こうとした力に逆らい、椅子に座らせる。
「まだ、診察中です」
「何を診察するんだよ?」
「今回の入院費、抑制剤に関しては、窓口支払いは結構です。この病院は、Ωを守るために作りましたから」
碕山は、まだ犯人だと確定した訳ではない。疑われている段階だから。
もし、彼が犯人ではなかった場合は、守る対象だから。
「苦しい時はご連絡を」
「……偽善者」
「そうですね。自己満足とも言います」
にこりと笑った私に舌打ちした碕山は、立ち上がると出て行った。茜がほうっと溜息を吐き出した。
「緊張しました」
「うん。私もだよ」
肩の力を抜いた茜の背中を撫でると立ち上がる。
「診察、続けて。私はあの人の処理に回るよ」
「はい」
今日、退院予定のΩが数名居る。ヒートが不定期な外来患者も診なければならない。ここは茜に任せ、出て行った碕山を追い掛けた。廊下に出ると、事務スタッフに呼び止められているところだった。
「帰るって言ってるだろう!」
「碕山さん、少し待って下さい。退院手続きがまだ完了していないので」
「窓口支払いはいらないって言っただろう!」
「ええ。でも、事務手続きは必要ですので」
暴れている碕山の肩をグッと押して長椅子に座らせた。
「手続きしてあげて」
「はい」
事務スタッフには私の許可が出るまで退院許可を出さないように言ってあった。苛立ったように足を揺すっている碕山を観察してみる。Ωだが、男の意識が高い。
事務スタッフが退院手続きを完了させた。碕山は立ち上がると足早に帰っていく。
「薬、ちゃんと飲んで下さいね」
「……言われなくても!」
出て行く後ろ姿を見送ると、携帯を取り出した。慎二に電話を掛けると数コール目で繋がっている。
[もしもし、碕山は出ましたか?]
「はい。退院手続きを済ませたので帰しました」
[了解です。病院前に先輩が待機しているので連絡します]
「宜しくお願いします」
すぐに通話を切ると、事務スタッフに告げた。
「万が一、彼が戻ってきたらここで止めて」
「はい」
事務スタッフには男のβの中で信頼できる人を必ず一人配置することにした。事務室からは出さず、病室にも行かないよう徹底している。
防犯カメラの映像を見ていると、碕山は桃ノ木病院から出て行った。その姿を確認してから執務室の方へ戻った。出勤していた浩介がすぐに駆け寄ってくる。
「おはよう、浩介君」
「おはようございます。まさかもう、退院するとは思いませんでした」
「そうなんだよ。後は警察に任せるしかないね」
碕山が入院している間に捜査を進めていたけれど、思いの外早くヒートが終わって慌ただしくなっている。
「琴南さんは大人しくしてる?」
「はい。あの人の後輩が、見張っていますから」
「……おや、浩介君。琴南さんの後輩、信頼してるの?」
「昨日、お叱りを受けました」
「え、すっごい気になるんだけど」
浩介の熱が下がっていることと関係があるのか。腕を掴むとソファーに座らせる。電話では慎二が聞いていたので詳しく聞き出せなかったから。
0
お気に入りに追加
342
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる