抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

26-3

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「替わりました」
[どうもです。二度目まして、ですね。ちょっと先輩から離れてもらって良いですか?]
「おい、杉野? どうした?」
[先輩、α同士で話しがあるんで、席外して下さい]
 俺をどうしても離したいらしい。浩介が立ち上がると、風呂場の方へ行っている。追い掛けようと思ったけれど、杉野が真剣な感じだったので我慢した。α同士で何を話すのだろう。時折聞こえてくる浩介の声は元気が無かった。
 数分、過ぎた頃、浩介が戻ってくる。俺をじっと見つめ、無言で携帯を渡してくる。
「杉野、何だって?」
「……特には」
「何言われたんだよ。顔が暗すぎて気になるだろうが」
「……夕飯の準備をしなければ」
「浩介? なあ、どうした!」
 フラフラとキッチンの方へ向かっている。気になって、杉野に電話した。
「もしもし! 何話したんだよ!」
[番さんに聞いて下さい。俺、まだ調べてるんで。お疲れ様でした!]
「あっ! 切りやがった」
 もう一度掛けても出ないだろう。仕方が無く浩介の隣に立つ。彼は無言でハンバーグの具材をこねている。手伝おうとした俺を振り返り、首を横へ振っている。
「桃ノ木様に先ほどの話しを伝えて下さい」
「言うけど……大丈夫か?」
「はい。問題ありません」
「……そう、か」
 俺には話せない、か。α同士の話しとは何だろう、俺を蚊帳の外に追い出して何を言い合ったのか。
 思えども、犯人かもしれない人物が桃ノ木病院にいる。ソファーに座り、瑛太に電話を入れると、結構長いコールの後に繋がった。
[はぁ……はい、どうしました?]
「……ん?」
[あ、ちょ、ちょっと待ってて下さい。茜さん、動かないで……!]
 ボソボソ話している声がしている。瑛太の声に、茜の艶っぽい声が混ざってくる。

 まさか……。

「す、すみません! 取り込み中みたいなんでメール入れておきます!」
 すぐに通話を切った。まさかやっている最中なのに取るとは思わなかった。時計を確認したけれど、まだ午後七時だ。こんな時間から二人でイチャついているなんて。
「……羨ましい」
 顔を覆ってしまう。世の普通の番はそうなのだろうか。顔が赤くなってしまう。美人の茜に、瑛太は夢中のようだった。
「俺とは違うよな~」
 俺も茜くらい美人だったら良かった。そうしたら浩介が我慢できなくて飛び込んでくるかもしれないのに。
 溜息をつきながらメールを打った。碕山陸人は黒に近いグレーであること、警察は彼を容疑者として裏付け捜査に入ったこと。ヒートの期間中、決して外に出さないことを伝えた。
 打ち終わると、浩介を手伝おうと立ち上がったけれど。彼はハンバーグの具材をこねている最中に止まっていた。ぼうっと前を見つめている。
「浩介? 熱が上がってるんじゃないか!?」
 肉を焼くくらい俺にもできる。長身を揺さぶると、ハッとしたように焦点が戻ってくる。
「後は俺がするから。ゆっくりしてろ」
「……いえ、大丈夫ですから」
「あのな、俺にも少しは頼ってくれよ。お前が熱出したの、俺のせいだろ?」
 浮気を疑って、浩介に当たりまくったのだから。筋肉逞しい両腕を掴むと手を洗わせた。結構、大人しく洗っている。
「よし、じゃ、俺が後を引き継ぐから!」
「あなたは、抱いて欲しかったのですか?」
「…………は?」
 ハンバーグをこねようとした俺に、真顔で聞いてくる。大きな手が、顔に触れた。
「あなたに魅力が無い訳ではありません。傷つけたくないだけなんです」
 両手で包まれてしまう。ゆっくりと顔が近づいてきた。
「抱けば腕に響きます。泣いてしまうかもしれない」
「……そんな柔じゃねぇ」
「大事にするだけが、番ではないと言われました。私のせいで、あなたの集中力が途切れていると。このままでは犯人に対処できず、もっと大きな怪我をするだろう、と」
 掻き抱かれていた。広い胸に息苦しい。
「Ωが求めているのに、番のαが応えないのは不仲としか思えない、そう、言われました」
 抱き上げられていた。作りかけの具材にラップをしておかないと干からびてしまうだろうと、どうでも良いことが頭をよぎったけれど。
 ベッドへ下ろされていた。縫った左腕に触れてくる。
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