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抱き締めても良いですか?
26-2
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杉野にも手伝ってもらったおかげで、定時上がりを実現させた。Ωを襲う犯人の件は、他の先輩警察官も協力してくれている。彼等にもいつも早く上がれと言われていたから、今日は甘えた。
「ただいま」
玄関を開けて入ったけれど、浩介が出てこない。リビングからは明かりが漏れている。鍵を締めると足早にリビングへ向かった。
「浩介?」
リビングに入ると、ソファーに座っていた。気怠そうに眠っている。作りかけの夕飯がキッチンに置かれていた。
隣に座ると浩介の肩を引きながら寝転んでいく。俺の体の上に浩介を寝かせ、抱き締めた。腕の怪我が治るまでできないと、頑なに断られるのでせめて体温を与えたい。俯せになった浩介の背中を撫でてやる。ワイシャツ越しでも分かる、熱い体。
風呂場で呆然としていた姿を思い出す。俺と瑛太に挟まれて、気持ちが爆発してしまった姿も。
俺も浩介も、恋愛に不器用だ。
真っ直ぐにしか走れない。
「……ん?」
「ただいま、浩介」
「お帰りなさい……いけない、眠ってしまったようです」
「このまま寝てろ」
起き上がろうとした体を抱き留める。腰を引き寄せる俺の左腕を気にするように放してくる。
「腕、傷が広がりますから」
「縫ってるから広がらないって」
「そもそも、縫うような怪我をしてほしくはないのですが」
「今回は俺の失態だな。集中力を欠いていた。後輩に情けない姿を見せたよ」
腕で抱き締めると起き上がろうとするので、足を使って引き留める。腰に巻き付けると大人しく戻ってくる。俺の肩に顔を埋めて、項の匂いを嗅いでいる。
「……落ち着きます」
「そうだろう? 俺はしても良いって言ってんのに」
「駄目です。腕に響きます。こうして、帰って来て下さるだけで嬉しいですから」
Ωのフェロモンを吸っている。でも、浩介からの誘いのαフェロモンは流れてこなかった。どうあってもしないつもりだ。
「飯は俺が作るから。もう少し寝てろ」
「いえ、夕飯は私が。あなたが好きな焼きハンバーグを作っていますから」
「……誘惑すんな」
「食べて頂きたいですから」
もう少しだけ、と浩介が俺の項に鼻先を押しつけている。俺も浩介の背中をゆっくり撫でてやった。
ジャケットのポケットに入れていた携帯が振動している。ピクッと浩介の体に力が入る。両足で浩介を繋ぎ止めておくと、携帯に出た。
「どうした?」
[イチャついてるところすみません。先輩、碕山は限りなく黒に近いグレーです]
「確定か?」
[はい。防犯カメラに映っていた盗難車ですが、盗んでいる映像の人物と、碕山の体格をコンピューターで比較したらビンゴでした]
膨大な量の防犯カメラから見つけたのだろう。杉野が言うには、顔は隠されているけれど、身長、体格、歩き方の癖などを比較した結果、かなりの確率で同一人物の可能性があると出たらしい。
「桃ノ木病院には俺から入れておくよ」
[お願いします。で、先輩には待機命令が出ました]
「……は? 何で!」
[何でって……先輩、自分が男Ωだって、バッチリ犯人かもしれない人物に言いましたよね? 顔が割れてるんですよ]
「だからって……!」
「出勤するなってことじゃないです。署から出ないように、ってことですよ]
「……俺は、自分だけ安全な場所にいる気は無い」
浩介を抱き締めたまま唸ってしまう。思わず彼の背中を握り締めてしまう。
「駄目だって言っても、出るからな」
[……まあ、そう言うだろうなって思ってましたよ。番さん、そこに居ますか?]
「浩介? 居るけど……」
[ちょっと替わってもらえませんか? サシで話しがしたいんですが]
「お前が? 浩介と?」
[はい]
浩介を怖がっている杉野が何の話しをするのだろう。聞いていた浩介に携帯を渡した。彼も戸惑いながら俺を見つめ、携帯を耳に当てている。
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