抱き締めても良いですか?

樹々

文字の大きさ
上 下
78 / 152
抱き締めても良いですか?

25.開花したΩの習性

しおりを挟む

 少し夜更かしをしてしまった。深夜にやっていたアニメが面白くて、ついつい見てしまう。欠伸を噛み殺しながら部屋を出ると、真澄と瑛太が話していた。
「分かったよ。リモートワークならできるだろうから、浩介君と相談するね」
「うん。ありがとう、兄さん」
 真澄の頭を撫でていた瑛太が俺に気がついた。
「おはよう」
「おはようございます。秘書さん、大丈夫ですか?」
「たぶん、大丈夫だと思う。でも、琴南さんが昨日、ちょっと切られてね」
「え!? 大丈夫なの!?」
 真澄の血の気が引いている。フラリとよろめいた体を瑛太が受け止めた。
「五針縫ったらしいけど、本人はピンピンしてた。あの人、痛みに鈍感なのかな」
 瑛太は笑っている。見上げる真澄の背中を軽く叩いて大丈夫だと言った。
「番の二人が一緒に過ごせば治りは早いし。さすがに昨日は盛り上がってたと思うし」
「盛り上がる?」
「ああ、ごめん。子供にはまだ早いかな」
 瑛太が真澄の手を引くと歩いて行く。俺もその後ろからついていく。真澄が空いている手を伸ばしたので握った。
「こうしてると、兄さんと浩介さんみたい」
「甘えん坊だな、真澄は」
「浩介さん、休ませてあげてね」
「もちろん」
 三人で瑛太の車まで歩いた。真澄が少しだけ寂しそうに手を放す。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
「真澄、運動は軽くからだからね」
「うん」
 後部座席に乗せてもらい、瑛太が運転する車で高校まで向かった。眼鏡を掛けていない瑛太は印象が変わる。やはり兄弟だからか、真澄が大人びたらこんな感じなのだろうと思う顔立ちをしている。
「Ωを襲ってる犯人は、白い粉を使うから。気をつけてね」
「粉?」
「うん。襲われたΩが吸わされてね。番が居てもヒートになってしまう。それも抑制剤が効かないヒートに、ね。まったく不愉快極まりないよ」
 運転しながら話す瑛太がバックミラーに映っている。その目元が鋭く尖って見えた。
「この情報はメディアには知らせてないから他言はしないで。あの子の口が固いなら、あの子までは話して良いよ」
「有紀ですか?」
「うん。それと、粉を吸ってヒートになったΩは、他のΩのヒートを誘発するから」
「ΩがΩを? そんなことがあるんですか?」
「あるから困ってるし心配してる。抑制剤が効かないΩのヒートは辛いの一点だよ」
 瑛太の言葉に、多少なりとも理解ができる。俺は抑制剤の効きが悪いから、二度のヒートはどちらも辛かった。もし、全く抑制剤が効かないとなると、想像するだけで憂鬱になる。
「男Ωは特に注意して」
「了解です」
 商業施設の駐車場に着くと、当然のように瑛太も下りてくる。いつも会うクラスの女子が、外車から下りてきた俺に物言いたそうにしていた。
「……やべぇ。秘書さんの時より目立ってるかも」
「この車、良いでしょ! 茜さんのお気に入りなんだよ!」
「つか、こんな高級車で来られると目立つって」
 毎朝、送迎され、見送られ、あまつさえ外車になったとクラスの女子は思っているだろう。物言いたそうな顔を見ないようにしながら通り過ぎた。
 早く有紀と合流しなければ。足早になる俺に笑いながら付いてくる。
「ずいぶん、体が育ってるみたいだね。どう、浩介君の指導は?」
「まだ一回だけだから。もっと鍛えてもらって投げてやる!」
「待ってるよ。まあ、浩介君を倒せるくらいじゃないと私には勝てないと思うけど」
 冗談ではないことは分かっている。腹筋の割れ方は浩介の方が何倍も凄いけど、瑛太はテクニックがある気がする。慎二もどちらかというとテクニック派だろう。力を技で返す、俺もそうなりたい。
「おっはよ~!」
「おはよう!」
 バスから降りた有紀が走ってくる。パンッと手を打ち合う俺達に笑っている。
「じゃ、行ってらっしゃい。愛しの真澄の愛歩君をお願いね」
「了解でっす!」
「なんすか、それ」
「そのままだよ」
 俺の肩を叩いた瑛太が車へ戻っていく。有紀を見ると顔がにやけていた。
「真澄さんの愛歩を、俺、守らないと!」
「変態兄さんの言葉に踊らされるなよ?」
 溜息をつく俺の背中を笑いながら押してくる。二人で歩きながら、先ほど聞いた瑛太の情報を有紀にも話した。
 ΩがΩをどうして苦しめるのだろう。有紀も少し真剣な顔になっている。
「要するに、粉を吸ってヒートになってるΩにも近づくな、ってことだよな?」
「そうらしいな。やなもん作りやがって」
 高校の敷地内に入ると、後ろから思い切り背中を叩かれる。振り返ると、駐車場で会ったクラスの女子だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...