抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

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「休んで良いよ。薬は?」
「寺島様に頂きました。大丈夫です」
「大丈夫って顔してないから。琴南さんには連絡を入れたの?」
「いいえ。仕事中ですから」
「ちょっと貸して」
 浩介の胸ポケットから彼の私用の携帯電話を取り上げた。慎二を探し、通話を押してしまう。数コール後、慌ただしい様子で出ている。
[どうした!?]
「お熱が出て大変!」
[え!? あれ、っていうか瑛太さんですよね?]
[先輩! あいつ、逃げる!]
[あ!! 待て!!]
 通話が切られた。悪いタイミングで掛けてしまったようだ。不安そうな浩介の顔に苦笑してしまう。
「誰か追い掛けてたね」
「……大丈夫でしょうか」
「うーん、愛されてるようで安心したよ」
 ポンポン、浩介の肩を叩いてやった。分からない、と眉間に皺を寄せている。解熱剤が効いているとはいえ、完全に下がっている訳ではない。とにかく休ませてあげようとソファーに座らせた。
「折り返し掛かってくるまで、ここで待ってて」
「はい」
「忙しそうなら、私が送るよ」
「そのようなお手間は取らせません。運転できますから」
 赤い顔の浩介は目元を潤ませている。体温を測らせると、八度二分まで上がっている。
「これは本格的に琴南さん不足だね」
 解熱剤を飲んでこれなら、薬が切れるともっと上がると言うことだ。
「ここで寝てて。携帯、借りるね」
「はい」
 言われた通りに横になっている。茜を迎えに行くため、執務室を後にした。
 犯人を追い掛けている最中に、浩介からの電話だと思って取った慎二。ずいぶん、気にしているようだから。
 一般病棟からΩ病棟へ歩いていた時、浩介の携帯が鳴っている。通話を押すと、息を切らしている慎二の声が流れてくる。
[ね、熱が出てるんですか?]
「解熱剤があまり効いてなくて。迎えにこれますか?」
[あー……くそっ、どうすっか]
[先輩、こいつを署に連れて行かないと]
[そうだな。すみません、何時頃までなら良いですか?]
「どなたか捕まえたんですか?」
[痴漢してたやつです。暴れるな! 逃がさないからな!]
 まだ交戦中だった。時折、声が遠くなる。
 それでも、浩介が気になっているのなら。
「私が家まで送りましょう。昨日のお詫びです」
[助かります! できるだけ早く……いって!]
[先輩!]
[大丈夫! この大人しくしろ!]
「切りますね! お疲れ様です!」
 こちらから通話を切ってあげた。痴漢が暴れているのなら、長話はできない。茜を迎えに行き、二人で浩介の所まで戻った。静かに眠っている。
「解熱剤、あまり効きませんね」
「番のΩが足りてないんだよ」
「……誰かさんのせいですね」
「もう、反省してるから蒸し返さないで」
 浩介を抱き上げると運んだ。茜に荷物を持ってもらい、私の車まで歩いて行く。長身の浩介を横抱きにして歩いて行く私に、病院関係者が振り返っている。
「院長代理って、力持ちなんですね」
「そうかな? 惚れないでね。茜さんの焼き餅が大変で」
 私の言葉に茜が背中を叩いてくる。笑いながら駐車場まで歩くと、後部座席に浩介を乗せた。ずいぶん参っているのか、起きる気配が無い。
 助手席に茜を乗せると、浩介のマンションまで向かった。振り返っている茜が心配そうに見つめている。
「何があったんでしょう」
「さあ。聞いても答えてくれないから。喧嘩したんだろうけど、熱が出るってどうしたんだろうね」
「琴南さん、そんなに怒ってたんですか?」
「ぶち切れてた」
 それだけ、浩介を失いたくないのだろう。それは嬉しいけれど、喧嘩を知らない浩介には刺激が強すぎる。今後、迂闊な行動は控えなければ。
 マンションに着くと、長身を抱き上げた。茜に鍵を開けてもらい、ベッドまで運んでやる。スーツの上着とネクタイを茜が外してあげている。
 慎二は何時頃に帰ってこられるだろう。もう、さすがに痴漢魔は連れ帰っているはずだ。もう一度、浩介の携帯から掛けると出た。
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