76 / 152
抱き締めても良いですか?
24-3
しおりを挟む「休んで良いよ。薬は?」
「寺島様に頂きました。大丈夫です」
「大丈夫って顔してないから。琴南さんには連絡を入れたの?」
「いいえ。仕事中ですから」
「ちょっと貸して」
浩介の胸ポケットから彼の私用の携帯電話を取り上げた。慎二を探し、通話を押してしまう。数コール後、慌ただしい様子で出ている。
[どうした!?]
「お熱が出て大変!」
[え!? あれ、っていうか瑛太さんですよね?]
[先輩! あいつ、逃げる!]
[あ!! 待て!!]
通話が切られた。悪いタイミングで掛けてしまったようだ。不安そうな浩介の顔に苦笑してしまう。
「誰か追い掛けてたね」
「……大丈夫でしょうか」
「うーん、愛されてるようで安心したよ」
ポンポン、浩介の肩を叩いてやった。分からない、と眉間に皺を寄せている。解熱剤が効いているとはいえ、完全に下がっている訳ではない。とにかく休ませてあげようとソファーに座らせた。
「折り返し掛かってくるまで、ここで待ってて」
「はい」
「忙しそうなら、私が送るよ」
「そのようなお手間は取らせません。運転できますから」
赤い顔の浩介は目元を潤ませている。体温を測らせると、八度二分まで上がっている。
「これは本格的に琴南さん不足だね」
解熱剤を飲んでこれなら、薬が切れるともっと上がると言うことだ。
「ここで寝てて。携帯、借りるね」
「はい」
言われた通りに横になっている。茜を迎えに行くため、執務室を後にした。
犯人を追い掛けている最中に、浩介からの電話だと思って取った慎二。ずいぶん、気にしているようだから。
一般病棟からΩ病棟へ歩いていた時、浩介の携帯が鳴っている。通話を押すと、息を切らしている慎二の声が流れてくる。
[ね、熱が出てるんですか?]
「解熱剤があまり効いてなくて。迎えにこれますか?」
[あー……くそっ、どうすっか]
[先輩、こいつを署に連れて行かないと]
[そうだな。すみません、何時頃までなら良いですか?]
「どなたか捕まえたんですか?」
[痴漢してたやつです。暴れるな! 逃がさないからな!]
まだ交戦中だった。時折、声が遠くなる。
それでも、浩介が気になっているのなら。
「私が家まで送りましょう。昨日のお詫びです」
[助かります! できるだけ早く……いって!]
[先輩!]
[大丈夫! この大人しくしろ!]
「切りますね! お疲れ様です!」
こちらから通話を切ってあげた。痴漢が暴れているのなら、長話はできない。茜を迎えに行き、二人で浩介の所まで戻った。静かに眠っている。
「解熱剤、あまり効きませんね」
「番のΩが足りてないんだよ」
「……誰かさんのせいですね」
「もう、反省してるから蒸し返さないで」
浩介を抱き上げると運んだ。茜に荷物を持ってもらい、私の車まで歩いて行く。長身の浩介を横抱きにして歩いて行く私に、病院関係者が振り返っている。
「院長代理って、力持ちなんですね」
「そうかな? 惚れないでね。茜さんの焼き餅が大変で」
私の言葉に茜が背中を叩いてくる。笑いながら駐車場まで歩くと、後部座席に浩介を乗せた。ずいぶん参っているのか、起きる気配が無い。
助手席に茜を乗せると、浩介のマンションまで向かった。振り返っている茜が心配そうに見つめている。
「何があったんでしょう」
「さあ。聞いても答えてくれないから。喧嘩したんだろうけど、熱が出るってどうしたんだろうね」
「琴南さん、そんなに怒ってたんですか?」
「ぶち切れてた」
それだけ、浩介を失いたくないのだろう。それは嬉しいけれど、喧嘩を知らない浩介には刺激が強すぎる。今後、迂闊な行動は控えなければ。
マンションに着くと、長身を抱き上げた。茜に鍵を開けてもらい、ベッドまで運んでやる。スーツの上着とネクタイを茜が外してあげている。
慎二は何時頃に帰ってこられるだろう。もう、さすがに痴漢魔は連れ帰っているはずだ。もう一度、浩介の携帯から掛けると出た。
0
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
人生を諦めた私へ、冷酷な産業医から最大級の溺愛を。
海月いおり
恋愛
昔からプログラミングが大好きだった黒磯由香里は、念願のプログラマーになった。しかし現実は厳しく、続く時間外勤務に翻弄される。ある日、チームメンバーの1人が鬱により退職したことによって、抱える仕事量が増えた。それが原因で今度は由香里の精神がどんどん壊れていく。
総務から産業医との面接を指示され始まる、冷酷な精神科医、日比野玲司との関わり。
日比野と関わることで、由香里は徐々に自分を取り戻す……。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…
いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる