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抱き締めても良いですか?
22-2
しおりを挟む桃ノ木家まで送ってもらった俺は、浩介に手伝ってもらいながらチョコレートの箱を運んだ。真澄に見つかると嫌な思いをさせるかもしれない。せっかく手作りチョコレートを用意して待っていてくれている。先に自分の部屋に行くと箱を置いた。
「すみません、手伝ってもらっちゃって」
「いえ。それでは私はこれで失礼致します」
「ありがとうございました」
浩介が帰ったのを確認して、真澄の部屋のドアをノックした。返事を待たずに開けてしまう。
「ただいま、真澄さん」
「あ、お、お帰りなさい!」
真澄が背中に何かを隠している。テーブルにはラッピング用の包装紙が置いてあった。
「ちょ、ちょっと待ってて! まだ準備ができてなくて!」
「え、でも甘い匂いしてるけど」
真澄の方から甘い匂いと、コーヒーの匂いがしている。近づく俺から逃げていく。
「これ、これは駄目!」
「何で?」
「何ででも駄目! 待ってて! もうすぐ届くから!」
背中に隠されている物から良い匂いがしている。たぶん、チョコレートだ。隠されると気になる。飛び込むように近づくと、真澄の手からまだラッピングされていない箱を奪った。
「あっ! 駄目! 見ないで!」
「できてるじゃないですか」
「失敗作だから……! 今、料理長に作り直してもらってるから……」
「頂きます」
箱に入っていた一つを摘まんで口に入れた。ほろ苦いチョコレートは溶けかかっている。上手く固まらなかったのだろう。指に付いてしまうチョコレートを舐め取った。
「美味いです」
二つ目も口に入れた。箱の中で溶けてしまっているチョコレートは、お互いにくっついてしまっている。それでも味は良い。
「俺はこれが良いです。真澄さんが一生懸命作ってくれたんでしょう?」
三つ目を口に入れた俺に、真澄が抱きついてくる。おでこをグリグリ押しつけてくる。
「愛歩君がビターが好きだって言ってたから。浩介さんに習った半生にチャレンジしたんだけど溶けちゃって……」
「どうせ口の中で溶けるんです。先に溶けてても良いじゃないですか」
チョコレートは五つ入っていた。溶けてしまう前に口に入れていく。全部食べてしまった俺を見上げ、赤い顔で笑ってくれた。
「愛歩君のそういう優しいところ、大好き」
「どうもです。皆の分も作って疲れたでしょう? 補給して下さい」
「うん……」
俺にしがみついた真澄を受け止めた。
「ぼっちゃん! できましたよ!」
急に開いたドア。いつも美味しい料理を作ってくれる料理長が半生に固まったチョコレートを持って入ってくる。
完食したチョコレートの箱と、俺に抱きついている真澄を見て後ずさっていく。
「……あは、あはは! これは失礼!」
「だから言ったじゃないですか! 愛歩君もう帰って来てるって!」
「邪魔しちゃ駄目ですよ!」
「ぼっちゃん! ファイト!」
料理長とお手伝いさんが帰っていく。閉められたドアに、頭を掻いてしまった。
「あれ、せっかくだから真澄さんが食ったら?」
「僕は、胸がいっぱいだから……」
抱きついて離れない真澄を抱き上げた。ベッドまで連れて行く。寝かせると胸に手を乗せた。
「ずっと立ってたでしょう? 顔色、悪いですよ」
「どうしても上手くできなくて。でも、愛歩君のチョコレートは僕一人で作りたかったから」
「嬉しいです。マジで美味かったですから」
褒めると嬉しそうに笑ってくれる。なんとなく頬に触れた。赤味が差している頬は触り心地が良い。
「お返し、何が良いですか?」
「……何でも良いの?」
「まあ、俺にできることなら。アルバイト代も勝手に貯まってるし」
手作りマシュマロは無理だと思うけど、真澄がしたいことを叶えたい。
「……遊園地、行きたい」
「遊園地?」
「うん。行ったことがなくて……行ってみたいなって」
「良いですね。変態兄さんの許可が出たら行きましょう」
「本当? 嬉しいな」
俺の手を握っている。子供みたいに笑っている真澄は、夕飯ができるまで少し眠った。その寝顔を見つめ、寝ていることを確認すると、張りが出てきたおでこにキスをした。
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