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抱き締めても良いですか?
22.とこけるチョコレート
しおりを挟むバレンタイン当日、そわそわしながら真澄の部屋に行ったけれど、チョコレートは貰えなかった。学校が終わってから渡したいと言われた。
少し残念に思いながら登校し、時間が経つのが遅いなと思いながら何度も時計を見てしまう俺に、有紀がずっとニヤニヤしていた。
「やっと学校終わったな?」
「……煩いな。お前だって雫さんに貰うんだろう?」
「当然! 今日はデートだよ、デート!」
幸せオーラ全開の有紀は鞄に荷物を詰めている。俺も帰りの準備をしていると、女子達が集まってきた。
「はい、Ωチョコ!」
「友チョコでーす」
「義理ですから!」
机に次々とチョコレートが置かれていく。有紀の机にも置かれていた。
「お返しできないけど良いの?」
「うん。田津原君と前原君のおかげで、嫌な先輩達が大人しくなってくれたし」
「同じΩとして、田津原君の恋を応援してるからね!」
「……べ、別に恋とかじゃないし」
「サンキュー! 甘いの好き」
有紀は遠慮無く受け取っている。俺も受け取っていると、また集団がやってきた。
「いたいた! はい、受け取って~」
「イケメン拝めるのも、もう少しか~」
「田津原君の好きな人ってどんな人?」
どうしてか、女子が集まってくる。Ωだけでなく、βとαの女子まで。机に乗らなくなってきた。有紀が俺の代わりに答えている。
「か弱くて、見上げてくるのが可愛いんだってさ」
「お、おい!」
「αの人? うちの高校の人?」
「年上のカワイ子ちゃんだってさ。もうメロメロよ」
な、と肩を叩かれ睨んでやった。女子達は笑っているけれど、俺は笑えない。
「α男子が田津原君狙ってたみたいなんだけど。前原君の鉄壁ガードに阻まれたって言ってたよ」
「実は、前原君だったり?」
女子達はそれが聞きたかったのか。呆れた俺とは違い、有紀が手招きして見せている。
「実は……」
「うん!」
「俺にはすっごく可愛い彼女が居ます! 熱愛中で~す!」
敬礼して見せた有紀に、女子達は吹き出している。次の男子に渡すためそれぞれに教室を出て行った。残された大量のチョコレートに困ってしまう。
「持てねぇよ」
「最高記録だな」
毎年、女子からチョコレートは貰っていた。せいぜい、十個くらいだったのに。今年は倍はある。腕に抱えることができるだろうか。
鞄を肩に担ぎ、バランスを保ちながら有紀に箱を乗せてもらう。有紀は体育着を取り出し、その中に詰め込んでいった。
「お前のおこぼれで大漁大漁~」
「違うだろ。お前自身が、すっげー良い奴だからだよ」
女子は良く見ている。俺がクラスで浮かずに済んでいるのも、男子達ともそれなりに調和ができているのも、有紀がバランスを取ってくれていたからだ。
Ωに対しても偏見は無い。クラスがまとまっているのは、ムードメーカーの有紀が居たからだ。
「お前、めっちゃ良い奴」
「知ってる」
笑った有紀は、零れてしまった箱を上に乗せてくれた。なんとか歩いていく。靴を履き替え、浩介が待っている商業施設の駐車場まで歩いて行く途中にも増えてしまったチョコレート。最後だからか、女子が配り回っていた。
「すっげーな。ちょっと持つよ」
「お前も増えてるし」
「しずちゃん嫉妬しちゃうかな」
「するな、きっと」
ゆっくり歩いて向かうしか無い。時々、零れ落ちそうになるので有紀が支えてくれる。いつもの道が遠くて仕方が無い。
「田津原様、前原様。お帰りなさいませ」
「あ、秘書さん。来ちゃったか」
「遅かったもので。持ちましょう」
浩介が心配して通学路まで来てしまった。俺が抱えていたチョコレートの箱を半分持ってくれる。
「いつもこのような?」
「今年は特別です。もうすぐ卒業だから大盤振る舞いみたいな感じで」
「本命はいなかったもんな? お前が誰かさんにぞっこんラブだって皆知ってるから」
「う、煩いな! お前がすぐそうやって言いふらすから!」
「本命が来たら困るだろう? 真澄さんが待ってるし」
「おまっ……!」
浩介が居るのにサラッと言ってくれる。ニヤリと笑った有紀は、浩介の背中をポンポン叩くとバス停の方へ向かっていく。
「後はよろしくです! 俺、デートなもんで!」
「はい、承りました」
丁寧に見送った浩介が先に歩いて行く。気付かれてしまっただろうかと思いながら後をついていった。浩介の車の後部座席に乗りこみながら、受け取ったチョコレートを置かせてもらう。
「琴南さんも結構、貰ってくるんじゃないですか?」
「あの方の署では、皆で一つを贈るそうです」
「へー、でもお返し大変そうですね」
「マシュマロを作ってお渡ししています」
食ってみたい、思った心は閉じ込めた。浩介が作っているのなら、きっと美味いだろう。慎二はそれが目当てなのかもしれない。余ったマシュマロを食べている慎二を容易に想像できた。
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