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抱き締めても良いですか?
21-2
しおりを挟む「何としても愛歩君は守りたい」
「はい。ご友人の方にも協力して頂いています」
「浩介君が一緒なら安心だよ」
相手が拳銃でも持っていない限り、浩介が負けることはないだろう。
残りのチョコレートを摘まんでいた私は、胸元に入れていた携帯が振動しているのに気がついた。仕事用ではなく、プライベート用の方だった。
「琴南さんからだ」
私の言葉に、浩介の顔が曇る。
「もしもし。どうしました?」
[すみません、仕事中に。今日、そちらに搬送した男Ωの方、少し調べました]
保険証から、名前は碕山陸人、年齢は三十歳、番のいない男Ωというのは分かっている。
[警戒して下さい。足取りが掴めませんでした]
「どういうことですか?」
[数ヶ月前に、職を失ったようで。所持していた保険証は任意継続になっていましたよね? 職を失ってから転々としているようです。特定の場所に留まっていません]
「ご家族はいないんですか?」
[父親がいますが、疎遠になっているようです。四件起きた事件の日、彼のアリバイを証明できませんでした]
犯人だと断定はできないが、否定もできない、ということか。
「分かりました。情報、感謝します」
[……あーっと、浩介、そこに居ますか?]
「ええ。琴南さんがなかなか甘えてくれないと拗ねていたところです」
笑いながら携帯電話を浩介に渡してやる。何を言われるのか分かっているのか、顔がすこぶる暗かった。
「代わりました」
[ごめん……遅くなる]
「……無理は、しないで下さい」
[時々、休憩はしてるから。先、寝てて良いからな?」
「……あなたが居ないと眠れません」
私が居ることを忘れているのか、浩介が食い下がっている。コーヒーを飲みながら聞き耳をたてずにはいられない。
[浩介、お前も仕事してるんだから。ちゃんと寝ろ]
「あなたもです」
[仮眠は取ってるって。心配すんな]
「仮眠では疲れは取れません」
なおも食い下がっている。何故だろう、私がドキドキしてしまう。浩介の顔を見れば、少し俯いていて。いつもの無表情が崩れ、泣いてしまいそうだった。
なんとかしてあげたい。
「浩介君」
二人の会話に割って入る。浩介から携帯電話を取り上げた。通話はそのままにしておく。
「私が、慰めてあげる」
[え……?]
「じっとしてて……」
言われた通り、じっとしている浩介の唇を手で塞いだ。見つめてくる瞳に声を出さずに笑いながら、腹部をグッと押した。
「ぅん……!」
くぐもった声が出る。
「可愛い」
[……え、ちょ、ちょっと何して!?]
浩介をソファーに押し倒すと、口を塞いだまま脇腹を擽ったり、腹部を押したりした。その度にくぐもった声が出る。
「いいね、浩介君、可愛いよ」
「ぅん? くっ……!」
「我慢しないで。ね?」
脇腹を擽ると身悶えている。浩介なら私を振り払うことなど簡単なのに、じっとしていてという言葉に従って我慢している。
[瑛太さん!? ちょっと浩介、何されてんだよ!?」
携帯から聞こえる慎二の声に、答えようとした浩介に首を横へ振って見せた。何も言うなと合図を出した。耳たぶをふにふにしてやると、擽ったそうに身を捩っている。
「ぅん……ふっ……ぁ」
耳が弱いのか。顔が赤くなってきた浩介に、ちょっと意地悪心が出てきてしまう。執拗に攻める私に、はたから聞けば喘ぎ声が止まらない。
[マジで浩介に何してんですか!?]
「何って、独り寂しい浩介君を慰めているだけですよ?」
[慰めって……!]
「早く帰って来ないと、頂いちゃいますからね。では」
通話を切ってしまう。浩介を起こすと、乱れてしまった髪をなおしてあげた。くすぐったいのを我慢していたせいで、顔がまだ赤かった。触っていた耳が気になるのか何度も揉んでいる。
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