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抱き締めても良いですか?
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しおりを挟む「浩介は、なんか、スルッと入ってきたんだよな」
「なんですか、スルッて」
「気付いたら居たんだよ。好きだとか、愛してるとか、一切言わずにな」
桃ノ木病院にΩ病棟を作るから、と瑛太に協力を頼まれて。ちょうど、番が居なかったせいで警察官の道が閉ざされている時だった。
することもなく、アルバイトをしながら先のことをどうしようかと考えていて。瑛太の秘書をしていた浩介と、いつの間にか一緒にいる時間が長くなって。
「あいつから番になりたいって申し込まれて。番になったら、こいつはずっと俺と一緒に居るのかと思ったら結構、すんなり受け入れられたよ」
コーヒーを飲みながら、杉野の足を軽く蹴ってやる。
「男好きじゃないから。安心しろ」
「別に、俺が狙われてるなんて思ってませんって。男Ωの心情が知りたくて」
「何で?」
「彼女が、ネタに欲しいそうです」
コーヒーを飲み干した杉野は、俺の顔をジロジロ見てくる。
「俺は男同士って分からないから。先輩がΩだとしても、やっぱり駄目で。確かに顔はイケメンだし、キスくらいならいけるか、と想像してみたけどやっぱ駄目で」
「駄目駄目言うな。浩介に失礼だろう」
「すみません。先輩だって、俺とキスとかできないでしょ?」
「無理だ」
浩介以外の男と?
無理だ、吐く。
顔中に皺が寄る。
「なんちゅー顔してんですか。俺の彼女に失礼ですよ」
「お前、気持ち悪い想像させるなよ」
「気持ち悪いって失礼な!」
「お前だって俺のこと無理無理言うだろうが!」
「そりゃ無理ですよ。俺より強い筋肉マッチョ相手にどうこうしようなんて思えませんからね!」
「おま……」
「はいは~い! 仲良しコンビ! ちゅうもーく!」
側でパンッパンッと破裂音がする。振り返れば同じ署のΩ女子が集まっていた。手にはラッピングされた箱を持っている。
「はい、いつも守ってくれてありがとうーのΩチョコです!」
代表から渡されたチョコレートを受け取った。杉野も受け取っている。
「ありがとう」
署のΩ女子は六人居る。毎年、浩介にお返しのマシュマロを作ってもらっていた。
「俺はおこぼれですね」
杉野は箱を振って見せている。
「何言ってるの。杉野君にも感謝してるんだから」
「そうそう、ハッキリセクハラだって言ってくれるから助かってるし」
「琴南さんのおかげで、まだ頑張ろうって思えたし」
「二人が居てくれて、本当に良かった!」
Ω女子達に褒められて、俺も杉野も照れてしまう。綺麗な集団は次に渡す男性を求めて移動していく。集団が帰っていくと、二人顔を突き合わせた。
「この署のΩ女子って、レベル高いですよね」
「ああ、どうしたらあんな綺麗になるんだ?」
「そりゃ、番の賜でしょうよ」
「何で?」
「え? 何でって……え?」
杉野が眉間に皺を寄せている。首を傾げた俺に杉野も首を傾げている。
「先輩、Ωですよね?」
「おう、Ωだよ。でも、俺は彼女たちみたいに綺麗にはならなかったな~」
「……おかしいな。本気で言ってます?」
杉野は腕を組みながら眉間の皺を濃くしている。
「ま、男Ωなんてこんなもんだろう」
自分の顔を確認してみても、その辺にいる男と変わらない。寺島茜が美人すぎるのだと思う。俺から見ても艶っぽさがある。
「まあ、いいや。先輩は先輩のままで」
「どういう意味だ?」
「休憩、終わりですよ。行きましょう」
先に立った杉野はもう歩き出していた。気になりながらも、少しのんびりしすぎてしまっている。片付けを済ませると俺も席を立った。
「先輩、最近、番さんと良い感じになったみたいなんで、急激に変わらないよう気を付けて下さいね」
「変わるって何が?」
「……鍵、取ってきます」
杉野はパトカーの鍵を取りに行くといって走って行く。何のことだろうかと思いつつも、先にパトカーの方へ歩いた。
「俺も美人だったらな~」
窓ガラスに映る自分の顔をまじまじと見てみても、普通にしか見えなかった。
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