抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

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「これ、浩介さんが持ってきてくれたやつ。本当は夕飯の後に一緒に食べようと思ってたんだけど」
「大丈夫、別腹なんで」
「夕飯が入らない心配はしてないよ」
 笑った真澄が缶の蓋を開けてくれた。一つ摘まんで口に入れるとコーヒーを淹れに行く。
「真澄さんもコーヒーで良い?」
「うん。ありがとう」
 二人分のコーヒーを淹れ、宿題を一度端へ押しやるとクッキーに集中した。甘いやつと、ほろ苦い奴がある。
「こっち甘い」
「うん。僕は少しで良いよ。夕飯が入らなくなるから」
「おかしいな。そろそろ胃が広がるはずなんですけど」
「愛歩君の胃が大きすぎるんだからね?」
「真澄さんが小さすぎるんです」
 もりもり食べる俺の隣で、二枚で止めてしまった真澄。一人で半分以上、食べてしまった。ほろ苦いクッキーは全て俺の胃袋の中だ。
「愛歩君は苦い方が好き?」
「苦いっていうか、ビター系の方が食べやすいですね」
「ふーん、分かった」
「何が?」
「う、ううん、何でも無い」
 白い肌をほんのり赤く染めている。怪しくて、屈みながら顔を近づけた。
「やっぱり何か隠してる。真澄さん、嘘が下手すぎですよ」
「う、嘘ついてないよ!」
「声が裏返ってる。何、何隠してるんです?」
 顔を掴むと視線を逸らしている。むにむに揉んでも答えない。相変わらず真澄の髪からは甘い匂いがしていて。
「もしかして、バレンタインのチョコ作ってたとか?」
 兄の瑛太や秘書の浩介達のために作っていたのでは。そう思って聞けば、逸らされていた視線が俺に戻ってくる。
「ななななんで分かったの!?」
「やっぱり。髪からすっげー甘い匂いしてるから。そっかー、良いな-」
 これだけ匂いが付いているのなら、かなり手間暇を掛けて手作りしていたのだろう。浩介に教わったのだろうか、それとも桃ノ木家の料理長だろうか。どちらにしても美味しそうだ。
「俺も食いたいな」
「……あれ?」
「試作品とか無いです? 余ったら俺も食いたい」
 材料も良い奴を使うのでは。想像している俺の腕を思い切り抓ってくる。
「いって!?」
「もう!! 鈍感!!」
「何です、急に!?」
「知らない!!」
 子供みたいに頬を膨らませてそっぽを向かれてしまった。俺から離れていく。
「くっついてないと、一日持たないでしょう?」
「大丈夫!」
「何怒ってるです? とにかく落ち着いて。また咳が出ますよ」
「大丈夫だってば!」
 激しく怒っている。ソファーの端まで逃げられた。
 真澄はまだ、一日起きているだけの体力はない。俺が学校から帰ってきて、手を握っていないと充電が切れた玩具のように倒れてしまう。
 瑛太達にチョコレートを作っていたのなら、ずっと立っていたはずだ。そろそろ事切れてしまうかもしれない。
 手を握らせてくれないので、仕方がなく強引に腰を抱いた。俺の方へ引き寄せてしまう。勢いで倒れた真澄の頭が膝に乗った。
「とにかく、充電して下さい。どれくらい作ってたか分かんないけど、倒れたら駄目でしょ」
「……そういうとこは敏感なくせに、どうして鈍感なの」
「もしかして、俺も入ってました?」
 期待を込めて言えば、俺の膝に頭を乗せたまま丸まっていく。耳が真っ赤になっていた。
「もしかしなくても入ってるよ! 内緒にしておきたかったのに、愛歩君が食いしん坊だから……!」
「すっげー嬉しいです。期待してますからね?」
 味覚を治したお礼だろうか。それでも良い、真澄から貰えるのは嬉しい。
「でも、無理は駄目です。きつかったらちゃんと休んで下さい」
「……分かってる。今から補給するから」
 体を起こした真澄は、俺の太腿に触れ合わせるようにして座った。
「……興奮したせいかな、す、少し、目眩が、するような……?」
「怒鳴るからですよ」
「ギュッて……して欲しいな」
 上目遣いで見つめてくる。おでこに手を当てると、少し熱がある気がした。軽い体を抱き上げると膝に乗せて抱き締めた。全身で補給させてやる。興奮していた気持ちが落ち着くよう、腹をポンポン叩いてあやした。
「大人しくしてて下さい」
「……うぅ~茜さんみたいにいかないな……」
「ん? 何です?」
「何でもないよ……」
 少し項垂れた真澄の首筋は、真っ赤になっている。
 その赤い首筋にキスしたい、思った心を閉じ込めた。
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