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抱き締めても良いですか?
18.医者として 番として
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救急搬送された被害者女性。そして、同乗していた桃ノ木病院のスタッフがヒートを起こしてしまったと連絡が有り、Ω病棟の搬入口付近からなるべく人を遠ざけた。
Ω病棟へ向かい、番の寺島茜と共に搬入口で待っていた私は、運ばれてきた被害者女性と女性スタッフを診ようとした茜が崩れ落ちていくのを止められなかった。
「Ωを……遠ざけて下さい……!」
「茜さん!?」
「はや……くっ!!」
胸を押さえ、息を荒げた茜。
「全員離れて!! 早く!!」
Ω病棟のスタッフは全員Ωで固めている。番を持っている人ばかりを雇った。ヒートを経験してきたスタッフだからこそ、ヒートで苦しむ人を診ることができるから。
だが、今回は裏目に出てしまった。搬入を待ってもらい、Ωを遠ざけるしかない。
「患者さんも部屋から出ないよう、放送して! 一般病棟に応援依頼を! Ωはこちらへ来ないよう、徹底させて!」
茜を抱き締めながら声を張り上げた。感じるのか、我が身をかき寄せるように丸まっていく。
「しっかり、茜さん!」
「……すみませ……!」
「大丈夫、皆遠ざけたから」
茜を抱きかかえ、空けていた奥の部屋まで被害者と女性スタッフを運んだ。それぞれ別の個室へ入れ、茜も空いていた個室へ入れてあげた。
「被害者の……方を……!」
「うん、分かってる。ごめん、側に居てあげられなくて」
「……慣れてるから」
「慣れるもんじゃないでしょ」
強がる茜の唇に、せめてもとキスをした。
「私は、医者だから」
「……はい」
赤い顔のまま笑ってくれた茜は、すぐに苦しそうな息をしている。我慢ができないのだろう、下をくつろげると自慰を始めた。これ以上、私が触れると返って熱をこもらせてしまう。個室を出ると、搬入口の方へ走った。
「抑制剤は? 打った?」
「二人とも打っていますが効かないんです」
「抑制剤が効かない?」
救急車に乗っていた隊員は、すぐに被害者女性に緊急抑制剤を投与した。だが効く気配がなく、一緒に乗っていたΩの女性スタッフも粉を吸ってヒートになってしまったという。
「確認だけど、私を含め、αは無事だね?」
「はい、私達はなんとも。ただ、番を持っていないαが無事かは分かりません」
「そうだね。確かめるわけにもいかないし、番の居ない子をここに呼ぶわけにもいかない。君たち、窓を開けてくれ!」
救急隊員に窓を開けてもらい、避難していたΩ病棟の看護師達と合流した。彼女たちには一般病棟へ行ってもらい、番を持っているαをΩ病棟にできるだけ呼ぶよう伝えた。
ヒートを起こして入院している患者も居る。あまりαと近づけたくなかったけれど、万が一Ω同士で謎のヒートを起こしてしまうと入院が長引いてしまう。
「女性スタッフで、こちらに何人呼べる?」
「あまり人数が居ません。βのスタッフでは駄目ですか?」
「βか……おそらく大丈夫だろう。あの薬、Ωを苦しめるための物みたいだからね」
私の声が低くなっていたのか、窓を開けて戻ってきた救急隊員が尻込みしている。
「βのスタッフにも要請して。残業代、しっかり払うから協力してって」
「はい」
看護師の入れ替えをするため慌ただしくなった。そこへ秘書の浩介が走ってきている。
「何事ですか?」
「浩介君、頼みがある! 看護師を一時的に入れ替えるから調整して」
「入れ替える?」
「ΩのヒートにΩが引っ張られてる。茜さんもやられた」
「……何ですって」
「抑えて。私も血管切れそうなの我慢してる」
目元を鋭くした浩介の胸に拳を当てた。
「頼んだよ」
「はい」
浩介がΩ病棟の事務室へと入っていく。先に呼ばれた一般病棟の女性看護師が数名走ってきた。彼女たちはβだった
「君たち、被害者の方とスタッフの様子を見て欲しい」
「はい!」
「抑制剤が投与できない。苦しいだろけど、自力で発散してもらうしかないことを説明してきて」
βの看護師に二人を任せ、私は茜の方の様子を見るため戻ろうとした。男Ωの彼の姿を、女性に見せるわけにはいかない。かといって、私以外の男に、見せることもできない。
「桃ノ木様、警察の方が来ていらっしゃいます」
浩介が電話の子機を持ちながら事務所から出てきた。
「……仕方が無い」
「私が説明してきましょう」
「いや、浩介君は調整を頼む。一般病棟の方もおろそかにはできないからね」
「しかし……」
言いたいことは分かっている。だが、私は院長代理としての勤めがある。
「すぐに終わらせる。もし、もしも、茜さんの様子がおかしい時は、浩介君にお願いしたい」
「承知しました」
私が最も信頼できるのは、浩介しかいない。彼の肩を叩くと一般病棟の方へ走った。
~*~
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