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抱き締めても良いですか?
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桃ノ木病院で被害者と話しをさせてもらい、Ω女性が浚われた経緯を聞いた。
聞けば、人通りは少なかったけれど、人は歩いていた。そんな中、液体を掛けられ、体が痺れたような感覚がし、崩れ落ちてしまった。
犯人が、女性がヒートを起こしていると良い、その言葉に周りの人は女性がヒートを起こしていると勘違いし、近づいて来なかったという。
人目のある中堂々と女性を車に乗せた犯人は、廃ビルまで移動した。そこで粉を吹きかけられ、本当にヒートになってしまったという。
『顔は、分かりません。帽子と、サングラスを掛けていて。私をヒートにした後、あの男も息を荒げました。何か言っていましたが、ヒート中だったので良く覚えていません……』
数年前に番をもった女性は、まさか自分がまたヒートになるとは思わなかっただろう。気が動転してしまうのも無理はない。
廃ビルの中へ警察のパトカーが入ってきたのに気付いた犯人が、胸を押さえながら逃げて行ったという。その足取りはおぼつかなかったように思えたと。
桃ノ木瑛太の話では、粉を吸ってヒートを起こしたΩに接触したΩもまた、ヒートを誘発されてしまうという。番を持っているΩでも、だ。
Ωは皆、番になればヒートから解放されると思っていた。二度と、あんな苦しい思いはせずに済む、と。
「ふざけた薬を作りやがって……!」
「幸い、出回ってはいないようですね。今回の犯人が独自に開発したんじゃないですか」
「出回らせてたまるか!」
警察署に戻った俺と杉野は、現場周辺から少し離れた場所にあった防犯カメラの映像を見ていた。やはり犯人は防犯カメラの無い場所を狙っている。だが、車を使っている以上、どこかの防犯カメラには映る。それを地道に繋げ、足取りを追っていく。
先輩警察官達は現場での聞き取り調査をしていた。浚われた時、人が見ていたはずだ。その人たちを見つけるため足を使っている。
「先輩、一度連絡を入れた方が良いんじゃないですか?」
杉野に言われ、時計を確認して驚いた。もう、午後十一時を回ってしまっている。
「杉野、帰って良いぞ。後は俺が見ておく」
「駄目です。先輩が帰らないなら、俺も帰れません」
「女じゃないぞ、俺は」
「Ωです、先輩は」
真剣な目で見つめられた。
「Ωが、狙われてるんです。先輩も言ってましたよね。この犯人、遊んでるんじゃないかって」
杉野に言われ、腕を組んで唸った。
「考えたくないがな」
「一人目の被害者は、まだヒートになったばかりの十代の子でした。腸が煮えくり返りましたよね」
「ああ。二人目はヒートに慣れた頃の二十代の女性」
三人目も、二十代の女性だった。この女性は、番候補を見つけ、結婚まであと少しのところで襲われた。
「そして、今回の四人目。番を持っている女性を狙った」
「薬の効果を見るためもあるだろうな……」
番になっているΩにも効くのか、もしかしたら試したのではないか、とも思っている。
そして今回、未遂に終わったことで、色々な足が付いた。捕まる前に、次のターゲットを狙って動く可能性がある。
犯人が愉快犯で、ゲーム感覚で人を襲っている人種だとすると。
「次、狙われるのは男Ωです」
「そう、だろうな」
まだ、試していないのは男Ωだ。番を持っている男Ωもヒートを誘発されることは分かっている。犯人が狙うとすれば、俺達男Ωだろう。
「心配すんな。気をつけるさ」
「先輩がマッチョで強いことは充分知っています。でも、ヒートには勝てないでしょう?」
杉野の言葉に天井を仰いでしまう。
「二度となりたくねーな」
「なんで、先輩が車に乗るまで、俺も帰れません」
「分かった。今日は上がろう。お前の彼女に恨まれる前にな」
杉野の肩を叩くと二人で車を停めている駐車場へ移動した。まさか警察署の敷地内で襲われることはないと思うけれど、可愛い後輩は俺を心配してくれている。
今日のところは大人しく帰ろう。浩介も心配しているかもしれない。
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