抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

17.狙われたΩ

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 クリスマス会と、正月の挨拶と、桃ノ木家にお邪魔した。弱々しかった桃ノ木真澄は、元気に走り回れるほどになっていた。
 運命の番というものは、それほど凄いのだろうか。番になる前から、真澄をあんなに健康にするなんて。まるで欠けていたピースが填まっていくように、真澄の体が変わっていく。
 自転車も練習していた。広い家の廊下で愛歩に教えてもらった真澄は、俺と浩介が正月に挨拶に行った時には乗れていた。自転車を漕ぐ力が付いていた。俺達が褒めると、子供のように笑っていた。
「先輩、顔が崩れてますよ」
「おっと、悪い」
 休憩スペースで弁当を食べていた俺は、前に座った杉野に突っ込みを受ける。最近、無意識に笑っているらしい。
「番さんとラブラブですか?」
「ラブラブだが、今のは違う。知り合いの子が元気になっていてさ。良かったな、って思って」
「病気だったんですか?」
「α性が開花しなくて、体が弱っていてさ。それが運命の番のΩに出会って、めっちゃ元気になったんだよ」
 料理も美味しそうに食べていた。浩介の手作り料理を美味しそうに食べる姿は俺も嬉しかった。あの浩介の顔が崩れて笑っていた。ずっと真澄を見てきたから、嬉しさは俺より何倍も大きいだろう。
「食えないって、きついんだろうな」
「それは地獄ですね。食うのが楽しみで生きてる者としては」
「あ、そうだ。お前、これ食うか?」
 浩介が持たせてくれた物を差し出した。弁当とは別に、作ってくれたものだ。
「クッキー。知り合いの子に作ったついでに、俺にも持たせてくれた。杉野にもどうぞってさ」
「……毒入り、とか?」
「何でだよ。俺も食ってるから心配すんな」
 口を開かせ、一枚突っ込んでやった。もぐもぐ食べた杉野は、まじまじとクッキーを見ている。
「番さん、マジで何者ですか?」
「美味いだろ? この間、休みの時にパンとピザも焼いてくれた」
「そりゃ、先輩の顔がゆるっゆるになる訳ですね。てか、マジで先輩、凄いですね」
「俺は何もしてないぞ。普通にしか作れないし」
「いや、そんだけ食って、何でムキムキなんですか。太って下さいよ」
「嫌だよ。太ったら浩介に釣り合わなくなるだろう」
「……最近、素直にのろけますね」
「まあ、な?」
 受け流した俺に、弁当箱を広げている。可愛らしい袋の中には、大きな弁当箱が入っている。蓋を開けると今日もカラフルだった。
 肉が多いけれど、仕切りに使っている物に動物の絵柄が載っている。
「お前の弁当、可愛いよな」
「彼女、こういうの好きで」
「もう、同棲してるんだろう?」
「はい。両親をまだ説得できてないですけど。面白いですよ、飽きないです」
「そこは可愛い、だろう?」
「可愛いというより、面白いが勝ちます」
 思い出しているのか笑っている。食べる杉野に合わせて、俺も残りを詰め込んだ。カラッと揚げられた唐揚げは、冷えていても美味い。サラダも付けてくれたので、最後に詰め込んだ。
 コーヒーを買ってくると、二人で食後のデザートにクッキーを頬張った。浩介を怖がっている杉野も、美味しいクッキーに手が伸びていた。
「琴南! 杉野! すぐに来てくれ!」
 休憩していた俺達を先輩警察官が呼んでいる。
「また被害者が出た!」
 その言葉に立ち上がってしまう。弁当箱を仕舞うと先輩の後について走った。
「お前が提案した防犯パトロールのマップで巡回していた奴が遭遇したらしい。廃ビルに新しいタイヤ痕があったから、中に入って確認に行ったらしい」
「それで!?」
「入ってきたパトカーに気付いて逃走。ナンバーは盗難車の物だった。廃ビルの中で、Ωがヒートになってた」
 捜査室が設けられていた。先輩について俺と杉野も合流する。俺達が室内に入ると、状況整理の説明が始まった。
「被害者は番持ちのΩ女性。歩いていたところ、液体の様な物を掛けられ車に乗せられた。そのまま廃ビルまで連れて行かれている。おかしなことに、彼女はヒートを起こしている」
 番を持っているΩがヒート。腕を組んでしまう。
「幸い、パトカーに気付き、犯人が逃走したため、被害者は無事だ。今は桃ノ木病院で診てもらっている。問題は、ヒートを起こしている彼女に吊られて、接触したΩが全員ヒートになっていることだ。番が居ても関係なかった」
 桃ノ木病院にはΩ病棟がある。そのΩ病棟のスタッフは全員Ωだ。救急車にも必ずΩが動員される。
「救急隊員が気付き、最小限の被害で済んでいるが……琴南、お前の意見は?」
 この中でΩは俺だけだった。女性は呼びにくかったのだろう。組んでいた腕を外すと、顎を摘まんだ。
「正直、番を持っているΩがどうしてヒートを誘発されているかは分かりません。もう一つ疑問ですが、番持ちのΩがヒートにされたのなら、番持ちのαは? 引っ張られましたか?」
「いや。救急隊員は皆番持ちだろう? αは無事だ。ΩがΩを誘発していた」
「ΩがΩを……」
 呟きながら、瑛太の言葉を思い出す。俺も疑問に思っていたことがある。
「ずっと、気になっていました。犯人がαだったとしても、βだったとしても、何度もΩのヒートを受けながら無事なのはどうしてなのか、と」
 襲われているΩは拒絶のフェロモンも出る。それを受けながら何度も襲えるものだろうか。
 だがこれで分かった。使われた薬はΩにしか効かない。都市部で出回っているものとは作用が違う。
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