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抱き締めても良いですか?
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「それでね、愛歩君が面白いって教えてくれた映画を見てたら、兄さんみたいな人が出てて。見つけた愛歩君が吹き出しちゃって」
「そうかい。お笑いテレビも見るようになったんだろう?」
「うん! 面白いね。笑いすぎてお腹痛くなっちゃった」
真澄はマシンガンのように話し続けている。俺の側を離れ、大好きな人たちに一生懸命に話している。主に俺の話が多いのは、外の世界を知らないからだろう。
俺が高校から帰ってくるまでは、テレビを見ているらしい。以前はテレビを見る余裕も無いほど弱っていたけれど、借りてきたお笑いのDVDや映画のDVDを見るようになった。
もう少し元気になれば、運動を始めようと話していたから。もらった自転車を練習しようと思っている。
皿に取ったステーキを頬張りながら、真澄の様子を観察していた。俺と同じように見ていた慎二が、コップに水を注ぐと真澄に渡している。
「ゆっくりで良いから」
「大丈夫!」
「真澄、少し食べようか」
「そうだよ。せっかく沢村さんがケーキ作ってくれたんだし」
大人達も気付いている。話し続ける真澄の顔色が、少し悪くなってきていた。特大クリスマスケーキを切り分けると、フォークと一緒に持っていく。一口サイズに切って、真澄の唇に押し当てた。
「はい、糖分補給」
「分かった」
素直に口を開けた真澄は、俺が差し出したケーキを食べている。味わった後、浩介を見上げている。
「これ、僕の誕生日に作ってくれてた、中がベリー味になってるやつだ!」
「はい。お好きでしたので」
「ありがとう、浩介さ……むぐ」
「お口開けて、ちゃんと食べる」
「もう! 子供扱いしないでって言ってるのに」
「さっきから話してばかりで食べてないでしょ。皆、真澄さんが食ってる姿見たいんじゃないんですか?」
文句を言いながらも口は動かしている。飲み込んだタイミングで三口目を運んだ。軽く睨まれているけれど気にしない。ぐいぐい押し当てる俺に観念して食べている。
「美味しいでしょう? 職人技ですよ、これ」
「うん。美味しい」
「ってことで、こっちもどうぞ」
テーブルにはたくさんの料理が並んでいた。俺と慎二はかなり食べている。瑛太と茜は真澄の話しをずっと聞いていて、浩介に至っては減った皿に料理を足していた。
「これ、何?」
「美味いやつです」
「そうなの?」
「味、当てて下さい」
クイズ形式にしてみた。俺から皿を受け取ると見つめている。
「ハンバーグ?」
「どうでしょう」
真澄は一口、食べている。舌で確認すると、俺を見つめてくる。
「お豆腐? ハンバーグに見えるけど、食感が違うね」
「そうです。豆腐を混ぜて作ったそうです。んで、大根おろしを掛けてあるんで美味いでしょ」
「うん。甘辛くて美味しい」
素直に食べ始めた真澄に、大人四人が見つめている。
「本当に、味覚が戻ったんだな。良かったな、真澄君」
「うん。愛歩君のおかげだよ」
「その話は禁句だから!」
また睨まれてしまう、思った俺に瑛太は真澄の髪を撫でながら笑っている。
「本当に。ここまで元気にしてくれて感謝しかないよ」
食べる真澄が愛しいのだろう、何度も頭を撫でている。ベロチュー事件のことはもう、機嫌がなおったのだろうか。皿に俺と慎二のお勧め料理を盛っていく。
「はい、これは食べて下さい」
「……多いよ」
「残しても良いから。好きな奴から食べて。残りは俺が食うし」
「分かった」
真澄は受け取った皿の中で、好きな物から口に入れている。椅子に座ると、慎二が笑っていた。
「良い教育係ができたな、真澄君」
「愛歩君、時々鬼になるんだよ」
「心外な。俺はただ、真澄さんがいっぱい食える手伝いをしているだけですよ」
浩介が焼きたてのパンを運んでくれた。一つを真澄の皿に置いた。
「ね?」
「入る入る。しゃべった分、栄養補給しないと」
俺もパンを手に取ると口に入れた。思わず浩介を振り返る。
「これ、味がいつもと違う。秘書さん手作りですか?」
「はい。焼くのは桃ノ木家の方にお任せしましたが」
「うんま!」
「え、マジで?」
慎二が反応している。一つに噛みつくと、浩介の背中を思い切り叩いた。
「お前、パンまで焼けるのか!?」
「桃ノ木家には石窯がありますので」
石窯といえばピザでは。思った俺の心が通じたか分からないけれど、お手伝いさんが焼きたてのピザを運んでくれた。
「これも?」
「はい」
俺と慎二が競うようにしてピザを手に取った。焼きたての香ばしい生地にトロリと溶けたチーズが伸びる。マルゲリータだった。
「……やばい。マジやばい」
「酸味がたまんねぇな」
二人でがっついてしまう。焼きたてのマルゲリータを一枚取ると、真澄の皿に追加した。
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