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抱き締めても良いですか?
16-2
しおりを挟む「何の話?」
「なんか、変態兄さん、高校の時にバンドマンだったらしくて」
「へー、そりゃ見たいな」
茜と慎二も興味を持った。
「ねえ、良いかな」
茜が小声で囁いている。俺と慎二が少し屈むと、男Ω三人で作戦を立てた。頷き、配置につく。
「もう、真澄! いくら可愛くおねだりしても駄目!」
「だって! 皆に見てもらいたいもん!」
瑛太がコントローラーをスーツの上着の内ポケットに入れている。真澄が飛びかかっているけれど取れないでいる。
その瑛太の背後に回った茜は、スルリと細い手を胸元に差し込んだ。
「え?」
「はい、頂きました」
取り出したコントローラーを俺に投げてくる。受け取り、再生ボタンを押そうとした。
「た、助けて浩介君!!」
瑛太に呼ばれ、反射的に俺の方へ向かって来ようとした浩介の首に、慎二の腕が決まる。少し仰け反った体に合わせ、体重を乗せた左足で思い切り払うと、巨体が浮いた。叩きつけないよう、抱き込みながら床に倒している。
「お前は俺に捕まってろ」
逃げられないよう、上半身をガッチリ抱き込んでいる。巨体を軽々投げた慎二に凄いと思いながら、悠々と再生ボタンを押した。
映像の続きが流れる。歓声が聞こえ、スローテンポから曲が始まった。遠い映像から、歌っている高校生時代の瑛太に焦点が合う。
眼鏡は掛けておらず、革のベストを着ている瑛太の二の腕はガッシリしていた。体育館なのか、声が反響し、歓声を上げている同じ制服を着ている高校生達。
「え、ふつーに上手いじゃん」
「でしょ! 格好いいでしょ?」
「うん。瑛太さん、若い、可愛い」
「へー。やっぱり指先器用なんですね」
俺達がDVD鑑賞をしている間、瑛太はソファーに項垂れている。解放された浩介がどうしたものかと側に立っていた。
「僕ね、浩介さんに連れて行ってもらったんだ。これ撮ったの浩介さんなんだよ」
まだ幼い子供だった頃、高校でバンド活動をしていた瑛太を見たいという真澄のため、浩介が連れて行ったという。右腕に真澄を抱え、左手でビデオカメラを回したらしい。文化祭に行ったのは初めてだったその頃の真澄は、まだ歩ける元気があった。
瑛太が歓声を受けていることも、ギターをかき鳴らしていることも、幼い真澄には格好良く映ったのだろう。時折、映像に幼い頃の真澄の声と、返事をしている浩介の声も入っていた。
今の成人した真澄が、興奮気味に俺の手を握って振っている。
「ね? 言ったとおりでしょう?」
「まあ、上手いのは認めます。そんで、真澄さんも同じなんですね」
「何が?」
「めっちゃブラコンじゃないですか」
瑛太は真澄大好きだし、真澄も瑛太が大好きだった。兄の自慢が止まらない。
「好きだよ?」
「……真っ直ぐな目で見ないで下さい」
「兄さんも、茜さんも、浩介さんも、慎二さんも! 皆大好き!」
笑った真澄は、ギュッと俺の手を握った。
「ま、愛歩君も好きだよ?」
「どうもです」
俺も仲間に入れてもらえたのか。見上げてくる真澄の頭をなんとなく撫でた。赤い顔で笑っている。
「初々しいな。なあ、浩介?」
「そう、なんですか?」
「可愛いな~。ほら、瑛太さん、いつまでも拗ねてないで。プレゼント、渡さなくて良いんですか?」
茜に揺さぶられ、渋々瑛太が起き上がる。恨めしそうに茜を見つめた後、立ち上がった。
「色気で奪うの無しだよ、茜さん」
「良いじゃないですか。格好良かったですよ?」
「若気の至りだよ」
大きな溜息をつき、真澄の頭を撫でた瑛太が部屋の外へ俺達を連れて行く。ついていくと、広い廊下に二台の自転車が置いてあった。
一台は、一般的な自転車だった。もう一台は、マウンテンバイクと呼ばれるものだった。
「こっちは真澄。こっちは愛歩君ね」
真澄には一般的な自転車を、俺にはマウンテンバイクを指さしている。
「え!? マジで!? 良いんですか!?」
「うん、メリークリスマス!」
「ありがとうございます!」
いつか欲しいと思っていた。思わず跨がってしまう。これで山を走ってみたい。興奮していた俺の隣で真澄が暗い顔をしていた。
「僕……乗れないよ?」
「うん、だから愛歩君に教えてもらおう。まだ外では乗らないで。傷が塞がるようにはなったけど、治りは遅いから。大きな傷は駄目」
「この家広いし、廊下で練習しましょう。俺が支えますよ」
「本当?」
「任せて下さい」
真澄に教えたら、二人で庭を走るのも良い。転ばないよう、気をつけながら教えなければ。自転車に触れている真澄を見ていた浩介と慎二も動いた。廊下に置いていたプレゼントを持ってくる。
「俺達からはこれ。これから少しずつ、運動して、体を丈夫にしていこう。無理は駄目だから、時間を計って」
そう言って、俺と真澄にラッピングされた箱を渡してくれる。包みを開けると、色違いの時計だった。俺が赤で、真澄が白。一般的な腕時計よりもごついそれは、スポーツ用の物だった。防水、防塵が効いていて、丈夫で壊れにくい。
「かっけー! ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
真澄の腕にはまだ大きすぎるけれど、これから鍛えていけばきっと似合うようになる。そうなることを願って選んだのだろう。
もらったプレゼントに興奮している俺達に、大人達は笑っている。
「じゃ、せっかく沢村さんと桃ノ木家の方々が作ってくれた料理、食べましょう!」
茜の合図に、部屋に戻ると浩介がシャンパンを開けている。大人達は仕事に行くので、ノンアルコールになっている。グラスに注いでもらうと、皆で掲げた。
「メリークリスマス!」
一際大きな声を発した真澄は、俺の手を握り締めていた。
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