抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

16.ハイテンション・クリスマス

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 朝から真澄がそわそわしっぱなしだった。学校が休みだった俺に合わせて、二十五日の今日、お昼からクリスマス会をすることになっている。
 俺の手を放して立ってみたり、また俺の手を握って座って。落ち着かない真澄に笑ってしまう。
「子供みたいですね」
「だって! クリスマス会なんて、子供の時以来だもん」
 確かに、俺も中学生の頃までは、なんとなく家でパーティっぽい感じでケーキを食べていたけれど。高校に上がってからは、クリスマス=ケーキを食べる日、という感じになっていた。さすがにサンタクロースの存在は信じておらず、親に買って貰うものをねだる日になっていた。
 親からはスニーカーが届いた。ちょうどくたびれていたので助かった。有紀あたりが言ってくれたのだろう。身長があるせいか、靴はすぐに履きつぶしてしまう。
 また俺の手を握って座った真澄を捕まえた。
「今からそんなにハイテンションだと、すぐバテますよ」
「……うん、落ち着く」
「しっかしこの家広いですよね」
 映画に出てくるような洋館だった。大広間と呼ばれている場所で待っている俺達は、クリスマスらしく飾り付けられたツリーを見上げた。お手伝いさんが気合いを入れて飾り付けをし、真澄もそれに混ざっていた。俺も混ざらないと、真澄がバテてしまうと思って、数年ぶりに飾り付けをした。
 大きなツリーを見上げ、少し真澄を落ち着かせていると、男性が一人入ってくる。
「や、こんにちは。俺が先かな?」
「慎二さん!」
 真澄が俺の手を握ったまま走って行く。吊られて俺も小走りになる。俺の手を放し、慎二に体当たりをした真澄を難なく受け止めている。
 俺とそう変わらない身長に、緩くカーブしている髪を切りそろえている。コートを脱ぐと、真澄を軽々抱き上げた。
「おっ、本当だ。結構、重くなったな」
「もう、何で皆すぐ抱き上げるの」
「確認だよ、確認」
 真澄を降ろし、俺を見ている。
「こうして会うのは初めてだね、愛歩君」
「どうもです。この間は助けてもらってありがとうございました」
 俺が初ヒートを迎えた時にいた警察官だと聞いている。コートを脱いで気がついた。シャツにジャケットを着ているけれど分かる。着やせして見えるが、この体は。
「ん? これはどう反応したら良いかな?」
「愛歩君?」
 確かめずにはいられない。慎二のシャツの裾を捲ってしまう。
 ガンッと音がしたけれど気にしない。捲ったシャツの中身、シックスパックに割れている腹筋に触れてしまう。
「マジすげー! どうやったら割れるんですか!?」
「なに、腹筋割りたいの?」
「俺、まだ四つなんですよ。こっから先がなかなか割れなくて」
 自分のトレーナーを捲って見せた。腹筋したり、腕立て伏せしたり、走ってみたり。鍛えているけれど、なかなかシックスパックに割れなかった。
 服を着ていても分かるほど、慎二の体は綺麗な筋肉を付けている。無駄が無い、憧れる体だ。
「おーい、浩介! そこで固まってないでちょっとこっち来てくれ!」
 慎二が呼びかけて気がついた。先ほどの音は、浩介が椅子に足をぶつけ、持っていたお盆を落とした音だった。口を引き結んだまま止まっている。
「おいで、良い物見せてあげる」
 俺の腕を引き、俺は真澄の手を握り、固まっている浩介の元へ歩いた。
「俺より、浩介の方が凄いぞ」
 そう言って、ピッチリ着ていたスーツのボタンを外していく。下のワイシャツのボタンも外した慎二は、割れている腹筋を見せてくれた。
「ちょ!? 何すかこれ!」
「……!」
「やばいでしょ!」
「だろ? 俺も浩介に吊られて鍛えてたらこうなった」
 触ったら石みたいだった。同じシックスパックでも硬さが違う。腰も慎二より太いのに、ギュッと絞られている。触りまくる俺に、浩介が全く動かない。
「愛歩君、浩介さんが困ってるから」
「あ、すんません! 良い体してるなとは思ったけど、秘書さんも着やせするんですね」
「君も高校生にしては良い体に育ってるよ」
「これは一体何のカオスだい?」
「兄さん!」
 入ってきた瑛太と番の茜が苦笑していた。飛び込むように瑛太に抱きついた真澄。でれでれの顔で受け止めた瑛太は、そのシャツを捲られている。けれどすぐに引き戻している。
「兄さんも凄いんだよ! 見せてあげてよ」
「待って待って、真澄。現役バリバリの二人の後だと霞むから。前ほど鍛えてないし」
 真澄の背中を押し、腹筋を見せようとしない。
「そんなことないですよ? ね、沢村さん」
「はい。時間がある時は鍛えていらっしゃいますから」
「気になるじゃん!」
「はい、どうぞ」
 背後から茜が抱きつくと、スルリと手を滑らせシャツを捲っている。見えた腹筋は、浩介や慎二ほどではなくても、俺と同じくらいの硬さがありそうだ。
「やべ、負けらんね」
 変態ブラコン兄にだけは負けられない。自分の腹筋に触ると、後で慎二にコツを教えてもらおうと思った。
「やれやれ。腹筋祭りをしているとは」
「そうだ! 皆揃ったし見て! 愛歩君が信じてくれないから探したんだよ!」
 真澄が大型テレビの方へ走っていく。電源を入れ、コントローラーを操った。何かのDVDなのか再生ボタンを押している。
 映像が流れると、瑛太が走って行く。真澄からコントローラーを奪うと停止ボタンを押してしまった。
「真澄、兄さんだって恥ずかしいことがあるんだぞ?」
「何で? 兄さん、格好良かったよ!」
「あ、もしかしてバンドマンってやつの?」
「そう! もう、返して!」
「駄目。これは駄目。てか何で持ってるの!?」
「やだ、兄さん!」
 DVDを取り出そうとしている瑛太と、それを阻止しようとしている真澄。兄弟の争いに割って入り、ぜひともあのDVDを再生したい。
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