43 / 152
抱き締めても良いですか?
16.ハイテンション・クリスマス
しおりを挟む朝から真澄がそわそわしっぱなしだった。学校が休みだった俺に合わせて、二十五日の今日、お昼からクリスマス会をすることになっている。
俺の手を放して立ってみたり、また俺の手を握って座って。落ち着かない真澄に笑ってしまう。
「子供みたいですね」
「だって! クリスマス会なんて、子供の時以来だもん」
確かに、俺も中学生の頃までは、なんとなく家でパーティっぽい感じでケーキを食べていたけれど。高校に上がってからは、クリスマス=ケーキを食べる日、という感じになっていた。さすがにサンタクロースの存在は信じておらず、親に買って貰うものをねだる日になっていた。
親からはスニーカーが届いた。ちょうどくたびれていたので助かった。有紀あたりが言ってくれたのだろう。身長があるせいか、靴はすぐに履きつぶしてしまう。
また俺の手を握って座った真澄を捕まえた。
「今からそんなにハイテンションだと、すぐバテますよ」
「……うん、落ち着く」
「しっかしこの家広いですよね」
映画に出てくるような洋館だった。大広間と呼ばれている場所で待っている俺達は、クリスマスらしく飾り付けられたツリーを見上げた。お手伝いさんが気合いを入れて飾り付けをし、真澄もそれに混ざっていた。俺も混ざらないと、真澄がバテてしまうと思って、数年ぶりに飾り付けをした。
大きなツリーを見上げ、少し真澄を落ち着かせていると、男性が一人入ってくる。
「や、こんにちは。俺が先かな?」
「慎二さん!」
真澄が俺の手を握ったまま走って行く。吊られて俺も小走りになる。俺の手を放し、慎二に体当たりをした真澄を難なく受け止めている。
俺とそう変わらない身長に、緩くカーブしている髪を切りそろえている。コートを脱ぐと、真澄を軽々抱き上げた。
「おっ、本当だ。結構、重くなったな」
「もう、何で皆すぐ抱き上げるの」
「確認だよ、確認」
真澄を降ろし、俺を見ている。
「こうして会うのは初めてだね、愛歩君」
「どうもです。この間は助けてもらってありがとうございました」
俺が初ヒートを迎えた時にいた警察官だと聞いている。コートを脱いで気がついた。シャツにジャケットを着ているけれど分かる。着やせして見えるが、この体は。
「ん? これはどう反応したら良いかな?」
「愛歩君?」
確かめずにはいられない。慎二のシャツの裾を捲ってしまう。
ガンッと音がしたけれど気にしない。捲ったシャツの中身、シックスパックに割れている腹筋に触れてしまう。
「マジすげー! どうやったら割れるんですか!?」
「なに、腹筋割りたいの?」
「俺、まだ四つなんですよ。こっから先がなかなか割れなくて」
自分のトレーナーを捲って見せた。腹筋したり、腕立て伏せしたり、走ってみたり。鍛えているけれど、なかなかシックスパックに割れなかった。
服を着ていても分かるほど、慎二の体は綺麗な筋肉を付けている。無駄が無い、憧れる体だ。
「おーい、浩介! そこで固まってないでちょっとこっち来てくれ!」
慎二が呼びかけて気がついた。先ほどの音は、浩介が椅子に足をぶつけ、持っていたお盆を落とした音だった。口を引き結んだまま止まっている。
「おいで、良い物見せてあげる」
俺の腕を引き、俺は真澄の手を握り、固まっている浩介の元へ歩いた。
「俺より、浩介の方が凄いぞ」
そう言って、ピッチリ着ていたスーツのボタンを外していく。下のワイシャツのボタンも外した慎二は、割れている腹筋を見せてくれた。
「ちょ!? 何すかこれ!」
「……!」
「やばいでしょ!」
「だろ? 俺も浩介に吊られて鍛えてたらこうなった」
触ったら石みたいだった。同じシックスパックでも硬さが違う。腰も慎二より太いのに、ギュッと絞られている。触りまくる俺に、浩介が全く動かない。
「愛歩君、浩介さんが困ってるから」
「あ、すんません! 良い体してるなとは思ったけど、秘書さんも着やせするんですね」
「君も高校生にしては良い体に育ってるよ」
「これは一体何のカオスだい?」
「兄さん!」
入ってきた瑛太と番の茜が苦笑していた。飛び込むように瑛太に抱きついた真澄。でれでれの顔で受け止めた瑛太は、そのシャツを捲られている。けれどすぐに引き戻している。
「兄さんも凄いんだよ! 見せてあげてよ」
「待って待って、真澄。現役バリバリの二人の後だと霞むから。前ほど鍛えてないし」
真澄の背中を押し、腹筋を見せようとしない。
「そんなことないですよ? ね、沢村さん」
「はい。時間がある時は鍛えていらっしゃいますから」
「気になるじゃん!」
「はい、どうぞ」
背後から茜が抱きつくと、スルリと手を滑らせシャツを捲っている。見えた腹筋は、浩介や慎二ほどではなくても、俺と同じくらいの硬さがありそうだ。
「やべ、負けらんね」
変態ブラコン兄にだけは負けられない。自分の腹筋に触ると、後で慎二にコツを教えてもらおうと思った。
「やれやれ。腹筋祭りをしているとは」
「そうだ! 皆揃ったし見て! 愛歩君が信じてくれないから探したんだよ!」
真澄が大型テレビの方へ走っていく。電源を入れ、コントローラーを操った。何かのDVDなのか再生ボタンを押している。
映像が流れると、瑛太が走って行く。真澄からコントローラーを奪うと停止ボタンを押してしまった。
「真澄、兄さんだって恥ずかしいことがあるんだぞ?」
「何で? 兄さん、格好良かったよ!」
「あ、もしかしてバンドマンってやつの?」
「そう! もう、返して!」
「駄目。これは駄目。てか何で持ってるの!?」
「やだ、兄さん!」
DVDを取り出そうとしている瑛太と、それを阻止しようとしている真澄。兄弟の争いに割って入り、ぜひともあのDVDを再生したい。
0
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
警察官は今日も宴会ではっちゃける
饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。
そんな彼に告白されて――。
居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。
★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。
★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
お見合い相手はお医者さん!ゆっくり触れる指先は私を狂わせる。
すずなり。
恋愛
母に仕組まれた『お見合い』。非の打ち所がない相手には言えない秘密が私にはあった。「俺なら・・・守れる。」終わらせてくれる気のない相手に・・私は折れるしかない!?
「こんな溢れさせて・・・期待した・・?」
(こんなの・・・初めてっ・・!)
ぐずぐずに溶かされる夜。
焦らされ・・焦らされ・・・早く欲しくてたまらない気持ちにさせられる。
「うぁ・・・気持ちイイっ・・!」
「いぁぁっ!・・あぁっ・・!」
何度登りつめても終わらない。
終わるのは・・・私が気を失う時だった。
ーーーーーーーーーー
「・・・赤ちゃん・・?」
「堕ろすよな?」
「私は産みたい。」
「医者として許可はできない・・!」
食い違う想い。
「でも・・・」
※お話はすべて想像の世界です。出てくる病名、治療法、薬など、現実世界とはなんら関係ありません。
※ただただ楽しんでいただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
それでは、お楽しみください。
【初回完結日2020.05.25】
【修正開始2023.05.08】
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる