抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

15.運命の番ではないけれど 愛しい存在

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 運命の番と呼ばれる存在。
 強烈に惹き合う、α性とΩ性。
 二つが惹き合うことで、現代の医学では成し得ないことも、まるで奇跡のように成し得てしまう。
 味覚障害を治し、呼吸器系の回復、心拍数も向上、血液さえも正常な成人と同等なまでに回復。
 血を止めることができなかった体が、自然回復できるまでになった。
 だが、強烈に惹かれ合うが故に、ヒート期のΩには負担が大きい。運命の番を得ようと、常人よりも強烈なヒート状態に入る。抑制剤の効きも弱く、今後の課題とする。
 やはり開発が必要なのは、ヒートを抑える薬ではないだろうか。フェロモン量を抑えるだけでは、Ωの社会的地位は確立し辛いと考える。
 本来、Ωという存在は、αを守るための、包み込む愛情の塊ではないのだろうか。Ωが居なければαは満たされない。また、αが居なければ、Ωも満たされない。
 番という、α性とΩ性にしかない強い繋がりを、我々はもっと受け入れていくべきだと考える。



「レポートですか?」
 自宅のパソコンでレポート作成をしていた私は、温かいコーヒーを差し出され、掛けていた眼鏡を外した。度は入っていない。私の目はいつでもしっかり見えている。
「ありがとう。レポートというか、日記というか」
「運命の番……本当に、不思議な現象ですね。私達が要らなくなってしまいますね」
 番の茜は、私が打っている文章を読んでいる。お風呂に入ってスッキリしている茜は、自分もコーヒーを飲みながら笑っている。
「クリスマス会、プレゼントは何にしますか?」
「迷ってる。こんなに可愛い真澄に何を贈ったら良いと思う?」
 パソコンデスクに置いていたスマホの動画をまた再生した。もう、何度見ただろう。
 先日、浩介が愛歩を送った時に、ついでに真澄が好きな物を作ってあげてほしいと頼んでいた。その時、食べている所を動画に撮って欲しいとおねだりしていた。
 美味しそうに浩介が作ったハンバーグを食べていた。お腹いっぱいだという真澄に、愛歩はまだ入るだろうと麻婆豆腐を差し出して。頬を膨らませて食べていた。
 それだけでも可愛くてたまらないのに。
「……ふふ、うふふ」
「顔、緩みすぎですよ。せっかくの男前が崩れてしまって」
「見て見て! こんな駄々っ子真澄、いつぶりかな」
 子供扱いしないでと、頬を膨らませてそっぽを向いて見せている。愛歩にリンゴを差し出されて、もぐもぐしている姿も可愛い。
 何もかもが可愛い。
 私の天使。
「確かに、僕が出会った時には、寝込んでいる時間が多かったですよね。咳き込んで、辛そうでした」
「肺の機能も低下していたからね。味覚が無くなってから、みるみる間に弱っていったから」
 どうすることもできなかった。本来、αであるはずの真澄の体は、α性を開花できていなかった。ヒートのΩに遭遇しても、誘われることがなかった。
 男としても不能。自分をできそこないのαだと責めていた。
「愛歩君のヒートが強いのは、真澄の弱いα性を開花させようとしているのかもしれないね。運命の番というのを初めて見たから、憶測でしかないけれど」
「愛歩君のヒートを側で受けると、真澄君の体が一気に丈夫になりましたからね。味覚だけでなく、他の機能が回復したのは、ディープキスだけではないと思います」
 愛歩のΩ性が、真澄のα性を求めている。
 本能だけなら、二人の相性はこれ以上のものはないだろう。
「まあ、番になるかどうかは二人の心次第、だね。次の愛歩君のヒート期前から、一度家に戻そう」
「真澄君のためには、側に居てもらった方が良いと思わないんですか?」
 茜に問われ、コーヒーを飲みながら手を振ってみせた。
「Ωのヒートはただでさえきつい。浩介君の話じゃ、ベッドに寝かせた時、酷くだるそうだったって。揺さぶっても起きなかったらしい」
 抑制剤も強い物を処方している。その反動がきていたのだろう。真澄可愛さに執務室へ呼んでしまったことを後で後悔した。
 味覚を治そうとしてくれた愛歩を責めてしまった。動画を見る限り、二人の間に気まずさは無い。愛歩は良く、真澄を見てくれていた。
「ヒートの時に引っ張られなくても、一緒にいる時間が長ければ少しずつ開花するはずだから。それで充分」
 そして、αもΩも関係なく、二人が好き合うのなら構わない。真澄も年齢だけを見れば大人だ。精神年齢が少し幼いのは、外に出ることができなったせいだろう。
 怪我も気にしなくて良い、歩ける足も手に入れた。
 これから真澄は、どんどん大人になるだろう。
「そう言いながら、寂しそうですね」
「寂しいさ――!! 私の可愛い真澄が大人になって、誰かの物になるんだよ!?」
「もう。気が早いですよ」
 フルフル震えてしまう私の手からコーヒーカップを外させた。震えたせいで少し零れてしまっている。ティッシュで拭いてくれた茜は、ふと、私を見ている。
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