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抱き締めても良いですか?
13-3
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ベッドに沈んでいた体。ふかふかの枕が気持ちが良い。
久しぶりにたっぷり眠った体が自然と目覚めた。時計を見れば、もう午後六時を回っていた。
「あ、起きた? お腹空いてない?」
「……真澄さん?」
「お水持ってくるね。すぐに夕飯を準備してもらうから」
瞼を擦りながら起き上がると、桃ノ木家に寝泊まりしている俺の部屋だった。真澄が元気に走って行く。
元気に走って行く?
ドアから飛び出すように出て行く真澄の後ろ姿を呆然と見送った。俺はまだ、夢の中にいるのだろうか?
ベッドから起き上がると頭を振った。真澄がペットボトル片手に戻ってくる。小走りに走ってくると、俺の隣に座っている。
「はい。喉渇いてるでしょう?」
「ありがとうございます。てか、めっちゃ走って行きましたね」
「うん。愛歩君にキスしてもらってから、何だか体が軽くて。不思議」
そう言って笑っている真澄の顔を思わず掴んだ。ふにふにしてしまう。
「うそ、ふっくらしてません?」
「え、太ってる?」
「太ってるというか、ほどよく肉付いてる感じです。失礼しますよ」
着ていたシャツを捲った。肋が浮いていた体に肉がついている。背中に触れると、骨が浮いていた所にも肉が付いていた。
「うっそ、こんなしっかり付きます? え、ちょっと足は?」
「ま、愛歩君……! は、恥ずかしいよ」
走って行けるほど、足にも肉が付いているのか。確かめたくてズボンに手を掛けているとドアが開いた。お手伝いさんが夕飯を運んでくれている。
一緒に入ってきた浩介が、無言で足を止めた。
「……何を?」
「こ、浩介さん、違うからね!? 愛歩君、僕が走ってるのにビックリしたみたいで」
「ちょ、マジで肉付き良くなってて、俺、浦島太郎状態なんですけど!」
脱がせられないので、そのまま太腿に触れた。骨だった足がふっくらしている。
ベッドから下りると真澄を抱き上げた。軽かった体が重くなっている。顔を見れば真っ赤になれるほど血色が良くなっていた。
「良かった! ずっと心配してて。ちゃんと食えてるんですね」
「……うん。いっぱい食べてるよ」
「食ったら良くなりますから。てか、俺も腹減った」
「あ! そうだ、今日は浩介さんがハンバーグ作ってくれたよ!」
真澄を下ろすと、テーブルに並べられた料理に腹が鳴った。昼ご飯を食べないまま寝てしまっている。席を横並びにして座った俺達に、浩介がお茶を淹れてくれる。
「……いつもその様に?」
「うん。愛歩君に触れてると、温かいから」
「食って良いですか?」
「はい。召し上がって下さい」
パンッと両手を合わせると、ホカホカ温かいハンバーグにナイフを入れた。甘辛いタレが掛かっていてかなり美味い。桃ノ木家の料理も美味いけれど、浩介もかなりの腕前だった。
「ぼっちゃんがまだ味覚があった頃に作っていたものです」
「うん、懐かしい。浩介さん、いつも甘くしてくるから。こっちはちょっと辛いんだよ」
「待って、こっち美味すぎて止まんない」
「愛歩君、ほっぺた膨らみすぎ」
笑いながら、真澄もハンバーグを口に入れている。味わいながら噛んでいる姿に、俺も浩介も見つめてしまって。
「……そんなに見られると恥ずかしいよ。浩介さんも一緒に食べよう」
「はい」
席に着いた浩介は、姿勢良く食べ始める。俺は真澄が勧めた麻婆豆腐に取りかかった。確かにちょっと辛いけれど、食欲をそそる辛さだ。
「これもうまっ! 秘書さんって料理上手なんですね」
「うん。褒め方が慎二さんにそっくり」
「慎二さんって、秘書さんの番の人?」
炊きたてのご飯も美味しい。黙々と食べている浩介は頷いている。
「あの人も、食べる事が好きな方ですから。作りがいがあります」
「愛歩君も一度会ってるけど、ヒート中だったからあまり覚えてないかな」
「もしかして、警察官の人?」
「うん。琴南慎二さん。優しくて強くて、三人目のお兄さんみたいな人」
「顔、覚えてないなー。ノッポのαの人を押さえ込んでくれてたのは覚えてるんだけど」
ヒート中は記憶が曖昧になる。顔はぼんやりしか思い出せない。
もりもり食べていた俺は、真澄の手が止まっているのに気がついた。
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