抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

12.奇跡の力

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 真夜中に連絡が入った。当直で病院に居た私は、Ω病棟の方へ急ぐ。今晩は茜の当直ではなかったので、女性Ωの医師に状況を尋ねた。
 田津原愛歩が、真澄の部屋に居た時に二度目のヒートを迎えて運ばれて来たという。まだヒート期が安定していない愛歩は、予定より数日早かった。
「ヒートが強いようです。男の子だからでしょうか?」
「いや、茜さんは逆に弱かったから。人にもよると思うけど……複雑!!」
「え!?」
 私が頭を抱えたからか、女性医師が驚いたように持っていた診断書を落としている。拾ってやりながら、口を引き結んでしまった。
「何か思い当たる原因が?」
「あるけど、プライバシーに関わるから」
「ああ、なるほどです。真澄君が側に居たんですね」
「言わないで……!!」
 この女性医師も、真澄と愛歩が運命の番と呼ばれる、特別なα性とΩ性だと知っている。愛歩のヒートが今回も強いのは、真澄が側に居たせいだろう。
 こんな夜中にどうして二人は一緒に居たのだろう。
 もしかして、私が口を滑られてしまったベロチューをしていたのだろうか。
「ちょっと愛歩君、シメテキテイイカナ」
「止めて下さい。真澄君だってもう大人なんですから」
「いいや! 真澄はまだまだ愛らしい私の弟なんだから! 早すぎる!!」
「子供というなら、愛歩君の方ですよ」
 彼はまだ高校生だ。そこまでは求めていないと言っておいたのに。
 忍び込んだのか?
 そうなのか?
「ちょっとドア開けて……」
「もう! 寺島先生がいないとすぐ暴走するんですから!」
 女性医師に押し戻されながら、振動している携帯電話に出た。愛しの真澄からだった。
「もしもし! 愛歩君にエッチなことされたの!?」
[されてないよ。兄さんが言ったこと、試してくれただけ]
「私は許可してないけど!?」
[もう! それより、愛歩君は? 大丈夫?]
[ぼっちゃん、やはり病院に行った方が……]
[大丈夫だから]
[でも血が……!]
 電話の向こうでお手伝いさん達が話している声が聞こえてくる。血の気が引いてしまった。
「怪我を!?」
[ちょっと噛んだだけだよ]
「すぐ来なさい! お前は血が止まりにくいと言っただろう!? 止血剤を使わないと……!」
[大丈夫! もう、止まりかけてるから!]
 叫んだ真澄に息を止めた。止まりかけている? 自然に?
「原さん! 止まってるって本当!?」
[あ、はい! 時間は掛かっていますが、確かに止まりかけています!]
「患部を押さえて! 清潔にして! 止まらないなら無理矢理でも連れてきて!」
[はい!]
 Ωのお手伝いさんが側に居る。真澄が起こしたのだろう。病棟の前であまり話す訳にはいかず移動した。
「真澄、本当に大丈夫なんだね?」
[うん。愛歩君のおかげだと思う。僕のために色々助けてくれてる。絶対に、責めないで]
「……分かったよ。口を滑らせたのは私だ。本当にするとは思わなかったけどね」
[僕のためだよ?]
「分かってるよー!」
 私が愛歩を責めると思って電話を掛けてきたのか。兄の心、弟知らずよ。今回のベロチューは私に責任があるから、この件については口を噤もう。
 ああ、それでも弟が一歩大人になったかと思うと複雑だ。
[愛歩君をお願いね。……凄く苦しそうだった]
「真澄が側に居たからね。真澄のα性が、まだ安定してないんだよ」
[やっぱり……]
「相性が良すぎて、今は刺激が強い、といったところかな」
[僕……側に居ない方が良いかな]
「ヒート期の前は、ね。もう少し落ち着けば大丈夫。真澄のα性が完全に開花されて、愛歩君のヒートが安定してくれば問題ないから」
[うん……]
「大丈夫。兄を信じなさい」
[……うん!]
 やっと笑った真澄を確認して電話を切った。愛歩のヒートも抑制剤で抑えているようだし、他に問題は無さそうなのでΩ医師に任せて一般病棟に戻った。緊急の呼び出しに備えて待機していなければならない。
 とはいえ、少し考えたいので執務室へ向かった。一人ソファーに座ると頭を抱えた。
「……真澄が~~! 茜さ――ん!!」
 愛しい弟の一大事に、番の茜に側に居て欲しかった。
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