抱き締めても良いですか?

樹々

文字の大きさ
上 下
31 / 152
抱き締めても良いですか?

11.もう一度 甘えてほしくて

しおりを挟む

 どうしてもしたいことがある。

 今日こそ、成功させたい。



「ほら、お前も飲めって」
「……最近、妙に私にお酒を勧めますが……何か企んでいませんか?」
「企むだなんて。お前も飲めるなら、一緒に飲みたいだけだよ」
 夕飯の時、コップにビールを注いで浩介にも飲ませている。この間、缶ビール一本で酔って俺に甘えた浩介がどうしてももう一度見たくて。
 飲んでいない時に、ソファーに座ってテレビを見ながら膝を叩いて見せた時は、無表情な顔で無理だと言われた。眠くないのに、何故横になるのかと質問されて。
 もう、理解している。浩介には世間的なイチャイチャが分からないということを。そして素のままだと、俺に甘えてこないで、俺を甘やかして世話をしたいのだと。
 だが俺も甘えて欲しい。泣き虫浩介が見たい。すり寄ってくる浩介を求めている。
「……あなたが望むなら」
「おう! 乾杯!」
 キンッとコップを打ち合った。すでに髪は下ろさせている。いつも風呂に入るまでオールバックのままなので、帰ってきたら俺が掻き回して崩している。
 髪が下りると、年齢より若く見える。長身の男は、老けることを知らない。惚れた目線で見れば、なかなか男前だと思っている。
「美味いなー!」
「そう、でしょうか。私には分かりません」
「そのうち、仕事終わりの一杯が美味いって分かるようになるさ」
「そういうものでしょうか」
 俺につられて一気に飲んでいる。空になったコップにまた注いだ。浩介も俺に注いでくれる。
 あまり飲ませても駄目だ。酔わせようと調子にのってコップ三杯飲ませたら、目が虚ろになってしまって。甘えるどころか、寝落ちしてしまった。
 今日は二杯までで様子を見てみよう。仕事の疲れ具合で、浩介の酔い方が変わる。観察していると、少し目がトロンとなってきた。
 良い具合かもしれない。急いで自分のビールを飲み干すと、ソファーに移動した。さりげなくテレビを点けて待ってみる。
 カタンと席を立っている音がしている。俺の隣に座ると、じっと見つめてきた。これはいけるかもしれない。膝枕をするチャンスだ。思い切り撫で回したい。
 浩介を引き寄せようとした俺は、脇に添えられた手に驚いた。軽々と持ち上げられ、浩介の膝に乗せられた。背中を抱き締められている。

 違う、そうじゃない!

 俺の背中に顔を埋めてスリスリしている浩介を見たいのに、これでは顔が見えない。
 でも、甘えてきている浩介を引き離すこともできなくて。黙ってスリスリを受け止めた。浩介のスリスリ攻撃は暫く続いた。

***

 食後は酒のまわりが弱いのかもしれない。
 今夜は風呂上がりの一杯で攻めよう。
 先に入ってさっぱりした俺は、浩介が風呂から上がってくるタイミングで缶ビールを差し出した。
「遠慮します」
「そう言わずに」
「あなた……顔がニヤニヤしていますから」
「いいじゃん! 飲もう! な!」
 浩介を捕まえソファーに引きずった。嫌がる浩介に蓋を開けた缶ビールを差し出した。俺と缶ビールを見比べ、溜息を吐きながら飲んでいる。
「美味しいとは思えないのですが……」
「じゃあ、ワインとか?」
「どうしてそんなに飲ませたがるんですか?」
「……まあ、ちょっと?」
「……やはり遠慮しておきます」
「飲んだらめっちゃして良いから! 頼む!」
 パンッと両手を合わせて頼む俺に、眉間に皺を寄せながら缶ビールを口に含んでいる。苦そうに飲んでいく姿を見守った。
 一気に飲み干した浩介は、濡れていた髪を拭いている。その手に俺の手も重ねた。一緒になって拭いてやる。
「……もしかして、お酒を飲むと人格が変わっているんですか?」
「……いや?」
「そうなんですね。私はあなたに何かしていませんか? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だって。俺的にはかなりツボなんだよ」
「やはり変わっているんですね」
 しまった、正直に答えてしまった。浩介が離れていこうとしている。その腕を捕まえソファーに引き留めた。押し倒して逃げられないようにする。
「良いんだよ、浩介。さあ、こい!」
「……何の……こと……」
「ほら、なあ?」
 まだしっとりしている髪を撫でてやった。目がとろんとしてくる。引き結んでいた唇が緩むと、ほんわり笑っているように見える。

 よっしゃ、キタ――――!!

 内心、ガッツポーズを決めながら浩介を起こした。座った俺の膝に素早く引き寄せる。大人しく膝枕をされた浩介の髪を拭いてやりながら、脱力していく体に満足した。
 髪も、顔も、体も、撫でまくる。力を抜いてまったりしている浩介のおでこにキスを落としてやる。擽ったそうに笑っている顔に悶えそうだ。
「やばい、癖になりそう」
 顔中にキスをしまくった。パジャマのボタンを外していく。貼っている胸板に手を這わせると、その手を握られる。
「……たくさん、して良いんですよね?」
「まだ、駄目だ」
「でも……」
「俺がまだ満足してないから」
 浩介の顔を撫でてやる。最近は少し笑うようになってきた。それでも、あまり感情を外に出さないようにしているのが分かる。
 もっと、笑って欲しい。
 素になって欲しい。
 俺に、甘えて欲しい。
 肌に触れながら願ってしまう。俺と一緒にいる時が、安らぐ場所だと思ってもらえるようになりたい。
「なあ、浩介。俺と一緒に居るのは楽しいか?」
「もちろんです」
「俺もだよ。お前はどんな俺でも受け止めてくれるからな」
 番になる前から、浩介は浩介のままだった。口説き文句の一つも言わず、気付けば側に居て。居るのが当たり前になっていた。
 番になっても特に変わらなかった。瑛太や茜のように、俺も愛し合いたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】SNSで人気の訳あり超絶イケメン大学生、前立腺を子宮化され、堕ちる?【R18】

NichePorn
BL
スーパーダーリンに犯される超絶イケメン男子大学生 SNSを開設すれば即10万人フォロワー。 町を歩けばスカウトの嵐。 超絶イケメンなルックスながらどこか抜けた可愛らしい性格で多くの人々を魅了してきた恋司(れんじ)。 そんな人生を謳歌していそうな彼にも、児童保護施設で育った暗い過去や両親の離婚、SNS依存などといった訳ありな点があった。 愛情に飢え、性に奔放になっていく彼は、就活先で出会った世界規模の名門製薬会社の御曹司に手を出してしまい・・・。

見つめ合える程近くて触れられない程遠い

我利我利亡者
BL
織部 理 は自分がΩだということを隠して生きている。Ωらしくない見た目や乏しい本能のお陰で、今まで誰にもΩだとバレたことはない。ところが、ある日出会った椎名 頼比古という男に、何故かΩだということを見抜かれてしまった。どうやら椎名はαらしく、Ωとしての織部に誘いをかけてきて……。 攻めが最初(?)そこそこクズです。 オメガバースについて割と知識あやふやで書いてます。地母神の様に広い心を持って許してください。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

俺の番が変態で狂愛過ぎる

moca
BL
御曹司鬼畜ドS‪なα × 容姿平凡なツンデレ無意識ドMΩの鬼畜狂愛甘々調教オメガバースストーリー!! ほぼエロです!!気をつけてください!! ※鬼畜・お漏らし・SM・首絞め・緊縛・拘束・寸止め・尿道責め・あなる責め・玩具・浣腸・スカ表現…等有かも!! ※オメガバース作品です!苦手な方ご注意下さい⚠️ 初執筆なので、誤字脱字が多々だったり、色々話がおかしかったりと変かもしれません(><)温かい目で見守ってください◀

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

【R18】番解消された傷物Ωの愛し方【完結】

海林檎
BL
 強姦により無理やりうなじを噛まれ番にされたにもかかわらず勝手に解消されたΩは地獄の苦しみを一生味わうようになる。  誰かと番になる事はできず、フェロモンを出す事も叶わず、発情期も一人で過ごさなければならない。  唯一、番になれるのは運命の番となるαのみだが、見つけられる確率なんてゼロに近い。  それでもその夢物語を信じる者は多いだろう。 そうでなければ 「死んだ方がマシだ····」  そんな事を考えながら歩いていたら突然ある男に話しかけられ···· 「これを運命って思ってもいいんじゃない?」 そんな都合のいい事があっていいのだろうかと、少年は男の言葉を素直に受け入れられないでいた。 ※すみません長さ的に短編ではなく中編です

処理中です...