抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

9.愛しのΩ

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 真澄の体が元気になっていた。短期間で驚くほどの回復ぶりに、スキップが止まらない。味覚を取り戻すため、ビタミン剤を後で浩介に届けてもらおう。
「瑛太さん、病院では抑えて下さい」
「だってだって! 起きて笑ってもちもちだよ?」
「僕も会いたいな」
「今度一緒に会いに行こう!」
 出勤して、外来診察までの間、執務室で雑務を行う。もう、秘書の浩介が先に来ているはずだ。昼にでも届けてもらおうと思っている。
 ドアを開けるとやはり居て。テキパキと書類を整頓してくれている。
「おはよう、浩介君! 聞いて聞いて!」
「おはようございます、桃ノ木様、寺島様」
 浩介が、笑っている。

 ……笑っている!?

 スキップしていた足が止まる。茜も入ると目を見開いている。
「……どうされました?」
「こっちの台詞!!」
「沢村さん、笑うと優しい表情になるんですね」
 ドアを閉めた茜に背中を押された。浩介は自分が笑っていると気付いていないのか、不思議そうにこちらを見つめている。
 秘書の仕事をしている時も、私達桃ノ木家と居る時も、あまり表情筋を動かさない浩介。無理に笑えとは言わないし、彼のことを知っている私達は、ありのままの浩介を受け入れている。
「コーヒーお願いして良いですか?」
「はい」
 茜に言われ、キビキビと動いている。その姿はいつもどおりだけど、顔の筋肉は緩んでいる。ソファーに座ると、茜とコソコソ話した。
「絶対!! 何かあったよ!! すっごい気になる!!」
「駄目ですよ。せっかく良い感じになってるみたいなんですから。変に気にさせないで下さいね」
「でもでも……!」
 聞きたくてたまらない。浩介の表情筋が緩んでいるのはもちろん、心なしか肌に張りが出ている。一晩でいったい何があったのだろう。
 コーヒーを淹れてくれた浩介は、私達の前に置いてくれる。いつも言っている、三人だけの時は、秘書ではなく友達として一緒に居ようと。
 私達の前に座った浩介は、自分にも淹れたコーヒーを飲みながら顔を綻ばせている。その顔は、幸せでたまらないという感じだ。
「駄目だ、茜さん。聞かずにはいられないよ」
「……ですね。僕も遠慮できないくらい気になります」
「浩介君! 昨日、したの!?」
「瑛太さん! 聞き方に気をつけて下さい!」
 ストレートに聞いてしまった。これだけ一晩で肌艶が良くなっているのだから、相当やったはずだ。慣らさずに入れていたと知った時は、浩介を叱ってしまったけれど。
 反省して、甘々ラブラブに過ごしたのか。そうなのか? だからこんなにユルユルの顔になっているのだろうか。
 前のめりになった私に、浩介は頷いている。
「はい」
「そ、それで?」
「……言えません」
 ほんのり頬を染めている。私と茜もつられて赤くなってしまう。茜の手を握り締めてしまった。
「……どうしよう、可愛くてたまらないよ!」
「本当に。沢村さん、琴南さんを大事にしてあげて下さいね」
「……はい」
 はにかみながら笑った浩介に、私と茜はノックダウン寸前だった。

***

「ぁ……だめ……です!」
「ここ? 今日はここが良いんだね」
「ん……!」
 茜の体は細く、けれどしなやかだ。背後から抱いていると、背中をしならせている。綺麗なその背中が、私のお気に入りだ。
 先走りで濡れている彼のモノを緩やかに撫でると、恨めしそうに振り返ってくる。
「焦らさないで……!」
「ごめんごめん。私も浩介君に負けていられないと思って」
 腰を持ち上げ、私の膝に乗せた。細い両足を広げるように持ち上げると、下から突き上げる。気持ちが良いのか、顔を両手で覆って堪えている。その仕草がグッとくる。
「ぁ……あっ!」
「良いよ、イッて」
「……!」
 深く押し入ると、声を出さずにイッた。彼の体が小刻みに震えている。締め付けられた私も、彼の中に注ぐように出してしまう。
 まだ、彼の前は腫れていたから。伸ばした手で、男としての彼を愛撫する。私の手の中で、それは嬉しそうに弾けた。
 中にちゃんと注いだことを確認して、茜の体をベッドに寝かせてあげた。後ろから受け止めきれないモノが溢れてくる。塞ぐように手を添えた。
「良い子になりますように」
「もう……」
「まあ、できない時は責任取って、茜さんが私にたっぷり甘やかされてね」
「今でも充分、甘やかしてもらっています」
 甘えるように抱きついてくる。受け止めながらもちもちのお尻を撫でてやる。
「うーん、手触り抜群」
「あなたに抱かれるようになって、僕の体、ずいぶん変わりましたから」
「いつまでも美人でいてね」
「瑛太さんの頑張り次第です」
「任せておいて」
 少し伸びてきている髪を撫でてやる。艶のある髪、しっとり吸い付いてくるようなもちもちの肌。潤いたっぷりの唇に、肌荒れの知らない顔。
 Ωは愛されていると感じると、どんどん美しくなると言われている。育っていく私の番は、自慢の美人だった。
「どうします? 琴南さんが美人になっていったら」
「どうもしないよ。綺麗だな、と思うかもしれないけど」
「本当に?」
「本当に。だって、美人にしたのは私じゃないだろう? こうして育てているのは、君だから」
 胸の突起に吸い付いてやる。腰が震えている。
「今日はもう、駄目ですよ」
「そう?」
「もう……駄目って言って……ぁっ!」
「まあまあ」
 今度は正面から抱いた。溢れていたモノを押し分け入っていく。潤いを持つ唇に重ねると、黒い瞳がうっとりととろけていく。
 この瞬間がたまらなく好きだ。
 茜の体は、全身で私を求めてくる。
「……焼き餅はいらないよ。琴南さんと同じくらい、浩介君が大切だから」
 茜のΩのフェロモンを吸った。彼も私のαのフェロモンに酔っている。
「二人が円満であって欲しい。私達のようにね」
 抱き締めると、茜の項に残る、私の噛み跡にキスをした。小さく震えた茜は、私の胸にしがみついていた。
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