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抱き締めても良いですか?
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電子音が鳴っている。小さなその電子音に、俺に折り重なるように寝ていた浩介が目覚めた。長い腕が伸びていき、目覚まし時計を消している。
ゆっくり起き上がっていく浩介を見つめていた俺は、起きていると気付いた彼と目が合った。
「……水、飲みますか?」
「飲む」
頷き、裸のまま寝室を出て行く。俺も上半身を起こすと、静かに顔を赤らめた。
めっちゃやってしまった……!!
番になった時より凄いのではないだろうか。ベッドの惨状を見ると、昨晩の行為がまざまざと蘇る。求められるままに応え、俺も彼を求めてしまった。五年分の溜まりに溜まった感情が一気に爆発してしまった。
一つ、気になっているのは、浩介は昨晩、酔っていた。缶ビール一本で記憶が飛ぶなんてことはないと思うけれど、どうだろう。普段飲まない彼が飲んでいたことにも驚いたし、子供のように甘えてくるのも新鮮だった。
互いに好きだと伝え合ったことを覚えていなかったらどうしよう。また振り出しに戻ってしまう。
シーツを握り締めていると浩介が戻ってきた。下着だけ履いている。俺に水の入ったコップを渡してくれた。それを一気に飲み干してしまう。
「……傷、塞がりましたね」
「え? あ、本当だ」
腫れていた唇が引いている。口の端が少し切れてはいるけれど、ほとんど治ってしまった。脇腹も見れば、青痣が薄くなっている。太腿は完治していた。
これがαとΩの番の効果か。相性が良いと、番になる前から軽い体調不良なんかは治ると言われているけれど、番だと、こんなに効果があるのか。
自分の体を観察していた俺の頬に、大きな手が触れてくる。引き寄せられると軽く触れるようなキスをされた。
「……私は、自分が嫌いでした。存在していることも、αであることも。誰かの側にいる未来を想像せずに生きてきました」
浩介が話してくれている。コップを置くと、頬に触れる手に俺の手を重ねてやる。
「あなたに会って、あなたが泣いていて。あんなに笑っていたあなたが壊れてしまいそうで。桃ノ木様との縁談がまとまれば、きっとあなたを守って下さると思っていました」
でも、俺と瑛太の縁談は、お互い断る形で終わった。俺の方が、彼に遠慮した。桃ノ木家は大きな病院を経営し、事業も手がけている。跡取りが必要な家系に、子供が持てない俺は相応しくないと思った。
「断ったあなたが泣いているのを見て、初めて人の側に寄り添いたいと思いました。抱き締めたいと思いました。旦那様達を思う感情とは違う、ここが、苦しくてたまらなくて」
自分の胸を押さえている。
「でも、接し方が分かりません。こんな私が触れて良いのかも分からなくて。それでも、あなたの番になりたかった。どうしても、側に居たかったんです」
真っ直ぐに言葉をくれた。好きだとか、愛しているとか、そういう感情を、浩介は知らなかったのか。
彼の過去に何があったのか、聞きたいけれど今はまだ聞けない。どうしてそれほど自分を憎んでいるのかも。
呼吸が乱れている彼の頭を撫でてやった。一生懸命、伝えようとしてくれる姿で、今は胸がいっぱいだ。
「俺も、遠慮してた。触って来ないのは、本当は男が駄目なんじゃないかと思ってたから」
「あなたが男でも、女でも、構いません」
「……五年間も、俺は男として悩んでたよ」
おでこを付き合わせた。浩介の顔をもみくちゃにしてやる。
「俺は男で、茜さんみたいに綺麗じゃないから。皆の前では頼れる男でありたい」
「はい」
「でもさ。お前と二人で、お前といる時は、Ωとしてαのお前に愛されたい」
「……どうすれば良いですか?」
俺の手に重ねてくる。間近にある大きな唇にキスをした。
「甘やかせ。めっちゃ甘やかして、俺に触れてくれ。キスもしたいし、抱き締めて欲しい。そんでお前も俺に甘えてくれ。昨日みたいに、素の浩介が見たい」
まだセットしていない頭を撫で回す。唇を引き結んだ浩介は、顔の表情を緩めると笑っている。
「はい」
「そう、その顔が見たかった。一つだけここに刻んでくれ」
逞しい胸にキスをした。
「浩介に触れてもらわないと、枯渇して死ぬからな」
「……駄目です、絶対」
「だったらしっかり捕まえとけ」
もう一度、唇にキスをすると笑っている。崩れた無表情の仮面に、俺は満足この上なかった。
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